小川葵

Dir直@choku1311の執筆アカです。 https://ja.wikipedia…

マガジン

  • 非正規戦闘員ケンタの休日

    シナリオ形式です。ゴレンジャー+山田太一+同志少女よ敵を撃て

  • きおいもん

    シナリオ形式の時代モノです。若き国芳、広重ら絵師達の青春群像劇。

  • 喫茶バンデシネ

    小説です。漫画家ばかりがたむろする喫茶店のお話。

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『きおいもん』 あらすじ

 文政の江戸。  版元、永寿堂の店主・西村屋与八は、旅に出て一向に帰らぬ人気絵師・北斎に代わり、北斎の娘のお栄に筆を取らせ、北斎の新作と偽り店に並べていた。しかし、父親譲りで気まぐれなお栄は扱いづらく、西村屋は、番頭が止めるのも聞かず、“きおいもん”の絵師・芳三郎に北斎の偽モノを描かせる。  “きおいもん”とは気負った者、血気盛んで向こうっ気が強い者のこと。芳三郎は喧嘩っ早いが、筆はさらに早く、北斎の贋作を次々と描き上げる。  勢いづいた西村屋は、人気の読本『南総里見八犬伝』

    • 『きおいもん』 第六話

      ○屋台のそば屋・中(日替わり・夜)  芳三郎、重右衛門、お栄、そばを啜る。  × × ×  屋台の上に置かれる空のどんぶり。 芳三郎「ごちそうさん」 そば屋「へえまいど」    芳三郎「お代はこいつがまとめて払うからよ」  芳三郎、まだ食べている重右衛門を指す。  お栄もまだ食べている。 重右衛門「……早いな」 芳三郎「おうよ。さっさと食えよ二人とも。もう今晩でおわらせっぞ」 お栄「……あたしの分はもう終わったよ」 芳三郎「あそっか。じゃあシゲ。早く食

      • 『きおいもん』 第五話

        ○居酒屋いせや・店の奥、お栄の占い屋  頬杖をついてぼんやりしているお栄。    芳三郎、お栄の前に腰をおろす。 芳三郎「姐さん、また一つ頼むよ」 お栄「……もう治ってんじゃねえか?」 芳三郎「いやおれじゃねえ。ちょっと知り合いの婆さんがよ、洗濯もんも干すと、どうも腰が痛えって」    お栄「もう。どいつもこいつも。あたしは占い屋だよ。医者じゃないっての」 芳三郎「ああ……じゃあよ。知り合いの妹がよ、絵師になりたいって言っててよ、女の 絵師は難しいって言ってんだが、どうしても

        • 『きおいもん』 第四話

          ○まる正・お豊の部屋(昼・日替わり)  老舗の呉服問屋、まる正の一間。  床の間に飾られた掛け軸、錦絵版画ではなく、  手描きの肉筆絵、赤い椿。  床で体を起こし、椿の絵をみつめている、  まる正の女将、お豊(58)。  お豊の傍、お栄、栗蒸し羊羹をほおばる。 お豊「いい赤だ」 お栄「本当なら山茶花だったけど。椿はまだちょっと早い」 お豊「いいんだよ。椿で。椿は散るとき、首からぽろっと落ちるだろ?  山茶花は、花びらがはらはらと一枚一枚落ちてくから、掃除がめんどうだ。ツバキの

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        『きおいもん』 あらすじ

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          『きおいもん』 第三話

          ○馬琴の屋敷・書斎  縁側に座る馬琴。   馬琴「(大声で)みち! みちはおるか!」  虚をつかれ、困惑する西村屋。  庭の反対側の襖をスっと開く、  馬琴の義理の娘、みち(36)。 みち「はい」  馬琴、無言でみちに合図を送る。  みち、書机の前に座り、速やかに筆を用意する。  とまどう西村屋。 馬琴「(目を閉じ)伏姫は思ひかけなく、竒しき童に説き諭されて、無明の眠り覚めながら、夢かとぞおもう跡とめぬ、人の言葉のあやしきに、 なほ疑いははれ間なき、涙の雨にしきたへの、袖はも

          『きおいもん』 第三話

          『きおいもん』 第二話

          ○同・店前  重右衛門を見送る西村屋と九兵衛。 重右衛門「……では明後日に」  西村屋「誠に、ご足労をおかけいたします」  西村屋たち、うやうやしく頭を下げる。 重右衛門「いえ。こちらこそありがとうございます。頑張ってみます」    ふり返り、去っていく重右衛門。 ○同・店内  西村屋と九兵衛、店の中に戻りつつ、 九兵衛「本当に描くって言ったんですか?」 重右衛門「ああ。無理だ無理だとうるさかったが、しまいにゃ乗り気にさせてやった」  二人、そのまま店内を抜けて座敷へ。

          『きおいもん』 第二話

          『きおいもん』 第一話

          ○長屋の火事場(夜)  鳴らされる半鐘。飛び交う怒号。  打ち壊される家屋。振りかざされるまとい。  派手な装いの町火消し達、  いたるところで喧嘩沙汰。 NA「火事と喧嘩は江戸の華」   ○火事場周辺の通り(夜)  腰に矢立を下げた芳三郎(24)、  集まった野次馬達をかき分けていく。 芳三郎「どけどけ!」 NA「時は文政十二年。江戸。のちに文政の大火と呼ばれるこの大火事に、それぞれあい対する三人の絵師」  芳三郎、火の粉が舞い散る先頭まで来ると、  眼前の炎に目を輝かせ、

          『きおいもん』 第一話

          『喫茶バンデシネ 』 ―第14話―

           真冬でも、スケボーに乗る少年たちは半袖のTシャツだった。  新年早々の中央高架下広場は、いつもと変わらぬ風景で、子連れの大人たちは少年たちに迷惑そうな視線を送っていた。  晴は広場の隅で地べたに座っていた。傍にスケボーを置き、手にしたスマホで漫画を読んでいた。『十二月の子供たち』というタイトルで、表紙はスケボーに乗る少年だった。作者は文月ルナだった。  さつきは塾の自習室にいた。 去年、一子に漫画を描くのを手伝わされて以来、さつきはバンデシネから少し足が遠のいていた。年明

          『喫茶バンデシネ 』 ―第14話―

          『喫茶バンデシネ 』 ―第13話―

          「……どう? 出来そう?」 「やってみる」  一子は窓辺バンデシネのソファ席に座り、隣のさつきにサインペンを渡した。窓からのどかな日曜の日差しが差し込んでいた。さつきは渡されたサインペンの太い方を使って、原稿に小さくバツのうたれた部分を黒く塗っていった。  ベタ塗りと言われる、漫画原稿の黒い部分を塗る作業を一子はさつきに教えていた。 「少しぐらいムラになっても気にしないで。そうそう……」  一子はさつきに優しく言った。 「……でも本当に大丈夫? 私、美術だけは三だし。もうこれ

          『喫茶バンデシネ 』 ―第13話―

          『喫茶バンデシネ 』 ―第12話―

           一子はテーブルに漫画用の原稿用紙を置いて、Bluetoothイヤフォンを両耳に差した。キャンパスノートに作ったネームを傍に置きながら、一子はシャープペンシルで、枠線のアタリをつけ、下描きをしていった。イヤフォンから、御代川のように音漏れをさせる事もなく、一子は淡々と作業を進めた。 「……そうだよね。うん。ごめんね。大丈夫大丈。急にごめんね」  合間に一子は喫煙所で電話をした。喫煙所には疲労感を漂わせ、ベンチ、もしくは地べたにまで座り込んで煙草を吸う者がいた。しかし、次子は煙

          『喫茶バンデシネ 』 ―第12話―

          『喫茶バンデシネ 』 ―第11話―

           誰かが肩を軽く揺すった。 「あ……すいません」美波は思わずそう洩らして、机から上体を起こした。眼鏡のないボンヤリした視界に、巽が立っていた。巽は自分の人差し指を口もとに持っていき、ソファの方を目配せした。  ソファで三絵子がふんぞり返って爆睡しているのが、裸眼の美波にも分かった。  早朝のバンデシネの二階に居るのはこの三人だけだった。巽は手に提げていた小さなコンビニ袋を美波に掲げ、「休憩しない?」と囁いた。美波は頷いて、散らかった机の上の中の眼鏡を探した。  巽と美波は一階

          『喫茶バンデシネ 』 ―第11話―

          『喫茶バンデシネ 』 ―第10話―

           十一月も半ばになり、バンデシネが休業して一ヶ月が経とうとしていた。   井の頭公園の樹々も秋色を過ぎ、園内は落ち葉で埋め尽くされつつあった。  三絵子は二階の仕事場のソファで、寝巻きのようなパーカー姿でリラックスし、スマホで漫画を読んでいた。しかし、先程から目でコマを追ってはいるものの、視界の端で、ペンタブレットに向き合う美波が悲壮感を漂わせ、三絵子の有意義な読書の邪魔をしていた。 「……」三絵子は美波を横目で睨んだ。  美波は髪はボサボサ、眼鏡もひときわ脂でこってりしてい

          『喫茶バンデシネ 』 ―第10話―

          『喫茶バンデシネ 』 ―第9話―

           朝の交差点で、ママチャリのハンドルを握り、次子は学校や会社に向かう人々と共に赤信号を待っていた。この日は曇った白い空だった。肌寒い風も吹き、少し早く冬が訪れたような朝だった。  信号が青に変わる。ペダルを踏み込んで、次子は井の頭通りを真っ直ぐ進む。吉祥寺通りの交差点を過ぎでも右に曲がらず、井の頭公園に入る事なく、京王線の高架下に向かってペダルを漕いだ。次子はいつもの駐輪場に向かっていた。  駐輪場にママチャリを留めると、カゴから薄っぺらいエコバックを取って肩に掛け、小走りに

          『喫茶バンデシネ 』 ―第9話―

          『喫茶バンデシネ』 ―第8話―

           駐輪場から見える井の頭線の高架に遮られた狭い空は、夕暮れに差し掛かろうとしていた。  次子はママチャリのハンドルを握り、はす向かいのセントラルコーヒーを見上げていた。 「……」  次子は大きく深呼吸して、車輪留めの少し手前にあった前輪を、勢いをつけガコンと突っ込んだ。カゴから薄っぺらいエコバックを取って、次子はセントラルコーヒーに向かっていった。  入り口にはまだパート募集の張り紙があった。  中央高架下広場も薄暗く、遊具エリアに子供や母親の姿はもうなかった。  晴は飽き

          『喫茶バンデシネ』 ―第8話―

          『喫茶バンデシネ』 ―第7話―

           朝の吉祥駅近辺は健やかに慌ただしく、無表情だが、どこか溌剌と人々が、京王線の高架下にある駐輪場に次々と自転車を突っ込んでいく。  セントラルコーヒーの二階には、全面窓に面したカウンター席が四つだけあった。そのひとつに三絵子は座っていた。ガラス越しに駐輪場をぼんやり見下ろしていた。一席空けて、隣に座った橋下が眠たげに珈琲カップに口をつけた。 「……バイト代入ったら、ホテル代半分払うね」  三絵子は駐輪場を眺めたまま言った。 「無理しなくていいっすよ。俺、年上ぜんぜん嫌いじゃな

          『喫茶バンデシネ』 ―第7話―

          『喫茶バンデシネ』 ―第6話―

           バンデシネの二階の仕事場で、美波は背もたれにちょこんともたれ、エネルギー補給ゼリーを咥えていた。美波の背後で帰り支度の橋下が立ち上がった。橋下が左手のスマートウォッチをみた。時刻は十一時を過ぎていた。橋下は美波に声を掛けた。 「……帰らないんすか?」  美波は振り返った。 「あ、お疲れさま。うん、あたしはもうちょっと。折り返しのメール、待ってて」 「うす。じゃお先します」 「お疲れさま」  美波はなんとか微笑んだが、疲労を隠せなかった。しかし、心地よい疲れだった。   橋下

          『喫茶バンデシネ』 ―第6話―