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作品のようなもの。

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ちょっとした短編小説のような作品を集めてみました。
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#音楽

雨を描く。

雨を描く。

雨が降ったら私を想い出して欲しい。

彼女はその言葉を最後に、
僕の目の前から姿を消した。

雨がよく似合う人だった。
どれだけ幸せに満ち溢れている日でも、
いつも影を残して、
僕の心を少しずつ侵蝕していった。

愛って何だろう。
心の奥にしまった記憶を手繰るように
彼女はつぶやいていた。

僕は何も答えず、ただ聴いていた。
聴くことしかできなかったから。

大丈夫。と、
そっと唱える。

必ず逢

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美しき悪

美しき悪

目に映る世界がどれだけ美しくても
突然襲ってくる。悪魔の蕾が。

まるで僕の幸せを奪うかのようだ。

降り注ぐ光がどれだけ価値のあるものでも
心の在り様によって一瞬で闇に変わる。

僕の目から映し出される
モノ。カタチ。イロ。オト。コトバ。ウゴキ。

その全てが僕の姿。

海の底へゆっくりと沈み行く。
手を伸ばす。

僕は過去を生きながら。未来を生きながら。
今を生きる。

ぼくは、ぼくを探す。

ぼくは、ぼくを探す。

ぼくは人と関わることを辞めた。
人と関わらなければ「傷」は残らないから。

雨音が響き渡る図書室の片隅で、
ぼくはまたページを捲る。
このページの先にある光を探して。

いつからだろうか。
人を信じることを辞めたのは。
幼い頃に母を病気で亡くした。
母を亡くした悲しみで父はおかしくなった。
だからいつも家で一人ぼっちだった。
それが当たり前だった。

学校に通い始め、ぼくにとっての当たり前が、他の

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日常の音楽会。

日常の音楽会。

いつもより静かな一日を過ごしていた。
だからなのか、たくさんの音が私を迎えた。

雨の音。鳥がさえずる音。
心地よかった。
目を覚まさずにそのままでいたかった。

そんな中、暖かい音に包まれた。
キッチンで料理を作る音。湯を沸かす音。

耳を澄ますと聴こえてくる。おと。
日常の音楽会にまたきっと足を運ぶ。

温もりを感じて。

温もりを感じて。

空から舞い降りた一縷の光。泉。温もり。

白馬を連れた一人の少年に見守られながら、
小さな身体で大きな声を上げる。

周りに響き渡る、太鼓の音、手のひらを合わせる音、草履を引きずって懸命に歩く子どもの足音。
それら全てをかき消すかのように。

小さくも大きな声は、一本の木に届いていた。
空へと真っ直ぐに佇む一本の木。
風に揺られながら、淡くも力強い色を放って。

甘く温かな香り。握りしめる小さな手

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こ・と・ば

こ・と・ば

ある日のこと。
突然、少年は言葉を話せなくなった。いや、話さなくなったという方が正しいのかもしれない。

今まで、少年は言葉によって自分のことを守り続けてきたのだ。相手を傷つけないように、傷つけないように....と。

けれど、相手を傷つけないようにするというのは表向きの理由であって、本当はただ自分が傷つきたくないからだった。

僕なんか言葉を話せなければいい。
そうやって生きていた方が、周りにも

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光が散る。

光が散る。

ある夏休みのこと。

元素の不思議を探るために
上野の博物館へ出かけた。

たくさんの元素が描かれた下敷きを
手に持ちながら歩く。そしてまた歩く。

せっかくの上野。
どうしても動物園の場所まで行きたくて。

また歩く。

一人の少女の目の前に広がったのは
小さな小さな遊園地だった。

トンネルを抜けた先には、
眩ゆいほどの光の粒が舞っていたのだ。

そう、私の世界が一瞬にして消えたのだ。

冷たさと愛と。

冷たさと愛と。

僕はずっと自分のことを冷たい人間だと思っていた。人に近づこうともしない。近づかれても上辺だけの会話で終わってしまう。なのに、心のどこかで、いつも誰かを、居場所を、求めていた。そんな自分が嫌で嫌で仕方なかった。

誰かを傷つけること。誰かに傷つけられること。なんでこんな些細なことを気にしてしまうのだろうか。なんで..なんで..。考えれば考えるほど、自分の心の塊が大きくなるばかり。心の塊が爆発してしま

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言葉と心と色と。

言葉と心と色と。

言葉には色がある。心にも色がある。

一昨日の夜の心は淡いピンク色。
昨日の心は淡いオレンジ色。やがて紺色へ。

今日はどんな色が待っているだろうか。

心の色は言葉の雫によって絶えず変化する。

言葉って不思議だ。

お母さんのお腹の中にいるような、
何かに包まれた暖かい言葉。

息を吹きかけたら一瞬にして散ってしまう言葉。

纏っている炎があまりにも強すぎて、
誰にも受け取ってもらえない言葉。

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心の琴線に触れる。

心の琴線に触れる。

心の琴線に触れたとき。
僕は嬉しいはずなのに...哀しくなる。

あまりにも繊細で、
すぐに消えてしまいそうだから。

消えてなくなってしまったら
哀しさがただの悲しさに変わってしまうから。

それが美しいと想える日は来るだろうか。

美しさで涙を流せる日は来るだろうか。