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【識者の眼】医療界を読み解く

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1日1本、医療に関わるトピックを専門家の方々に紹介していただきます。
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2021年10月の記事一覧

【識者の眼】「3種類の死」西 智弘

【識者の眼】「3種類の死」西 智弘

西 智弘 (川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)
Web医事新報登録日: 2021-10-12

「緩和ケアは何を緩和するのか?」とは、基本的なことのようで意外と多くの人が気にかけていない点かもしれない。緩和ケアというと、多くの人はがん性疼痛とか術後痛、また呼吸苦や食欲不振などいわゆる「身体的苦痛」を思い浮かべるかもしれない。また、不眠やうつ、不安といった「精神的苦痛」も、緩和ケア医がよく依

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【識者の眼】「AYA世代のがん患者在宅療養支援の自治体事業」川越正平

【識者の眼】「AYA世代のがん患者在宅療養支援の自治体事業」川越正平

川越正平 (あおぞら診療所院長)
Web医事新報登録日: 2021-10-08

AYA(Adolescent and Young Adult、思春期・40歳未満の若年成人)世代のがんによる全国の死亡数は年間約2500名である。介護保険の被保険者ではないため、在宅療養支援の体制は乏しい。公表情報を調査したところ、2021年2月末日時点で21の地域で独自の自治体事業が実施されていた(市13、県3、

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【識者の眼】「特別児童扶養手当(知的障害・精神の障害)の認定の地域差」本田秀夫

【識者の眼】「特別児童扶養手当(知的障害・精神の障害)の認定の地域差」本田秀夫

本田秀夫 (信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授)
Web医事新報登録日: 2021-10-11

2021年9月27日に共同通信で「障害児手当の判定ばらつき裏付け:厚労省研究班、実態調査で」という見出しの記事が掲載された。障害児の保護者に支給される「特別児童扶養手当」をめぐり、自治体によって判定にばらつきがあるとする実態調査の結果を厚生労働省の研究班がまとめたというものである。筆者はこ

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【識者の眼】「コロナ第6波の前に望む政策」細井雅之

【識者の眼】「コロナ第6波の前に望む政策」細井雅之

細井雅之 (大阪市立総合医療センター糖尿病内分泌センター糖尿病内科部長)
Web医事新報登録日: 2021-10-08

前回、2021/08/14号に「大阪の悲劇を忘れないで」を書かせていただいたが、東京でも第5波による「悲劇」が起こってしまった。朝日新聞(2021/9/25)によると全国で206人(東京90人、大阪21人)が自宅や高齢者施設で亡くなった。この「自宅死」あるいは「未治療死」を防

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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『新型コロナ第5波と2つのワクチン効果』」鈴木貞夫

【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『新型コロナ第5波と2つのワクチン効果』」鈴木貞夫

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)
Web医事新報登録日: 2021-10-05

9月末で緊急事態宣言がついに終わりを迎えた。第5波はワクチンの効果が初めて試される波であった。公開データから第5波におけるワクチンの効果を探ってみる。1つは、年代別の新規感染者のデータから推移を観察して比較する方法、もう1つは、死亡数や致死率を比較する方法である。前者は感染や発症への効

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【識者の眼】「ワクチン・検査パッケージ戦略が現実に」倉原 優

【識者の眼】「ワクチン・検査パッケージ戦略が現実に」倉原 優

倉原 優 (国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科)
Web医事新報登録日: 2021-10-05

よく新型コロナの患者さんから、退院前に「陰性の確認をしなくてよいのでしょうか?」と聞かれます。パンデミック初期、PCR2回連続陰性を確認しなければならないという退院基準でしたが、1年以上前にこれは撤廃されています。その理由は、回復後もしばらくPCR陽性が続くためです。「必要ないですよ、しばらくは

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【識者の眼】「唾液検査の未来」槻木恵一

【識者の眼】「唾液検査の未来」槻木恵一

槻木恵一 (神奈川歯科大学副学長)
Web医事新報登録日: 2021-10-05

新型コロナウイルスの蔓延は、唾液で病気の診断ができることを知らしめた。しかし、唾液検査で社会実装された検査ツールは、まだそれほど多くない。この約20年で唾液への関心が高まったのは3回ある。その唾液検査のトピックスを紹介したい。

唾液ブームの1回目は、約22年前の1999年頃に唾液を用いたストレス測定が大きな話題

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【識者の眼】「臨床診断は誰のもの」岩田健太郎

【識者の眼】「臨床診断は誰のもの」岩田健太郎

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)
Web医事新報登録日: 2021-10-01

先日、梅毒患者を診療した。患者の個人情報もあるので詳細は割愛するが、ペニシリン系の抗菌薬で治療を完遂した。保健所に報告もした。

ところが、保健所の方から連絡があり「RPRが十分に高くないので、この患者は梅毒とは認めない。報告は受理しない」とのことだった。

確かに、二期梅毒では典型的に8倍以上

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【識者の眼】「退院カンファレンスで訪問看護師に伝えたいことは何ですか?」中村悦子

【識者の眼】「退院カンファレンスで訪問看護師に伝えたいことは何ですか?」中村悦子

中村悦子 (社会福祉法人弘和会「訪問看護ステーションみなぎ」管理者)
Web医事新報登録日: 2021-10-07

私は介護保険法が成立した翌年の1998年から約10年間、勤務していた公立病院で訪問看護業務に就いていました。訪問看護ステーションではなく「みなし指定」の訪問看護だったので勤務している病院の医師の指示でしか訪問できない、という規則でした。

今は訪問看護ステーションで管理者を仰せつ

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【識者の眼】「新型コロナ対策で残されている課題〜保健所の立場から〜」北村明彦

【識者の眼】「新型コロナ対策で残されている課題〜保健所の立場から〜」北村明彦

北村明彦 (八尾市保健所健康まちづくり科学センター総長)
Web医事新報登録日: 2021-10-05

9月の終わりになって第5波がおさまってきた。第5波は子どもから壮年期にかけての若い世代の新型コロナウイルス感染が多数を占め、自宅療養者数が膨れあがる結果となった。若年者でも重症化するケースが世間で認知されるにつれ、自宅療養者から発熱や呼吸苦症状が出現した際の緊急連絡や救急要請が相次いだ。通常

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【識者の眼】「第5波における年代別の重症度」和田耕治

【識者の眼】「第5波における年代別の重症度」和田耕治

和田耕治 (国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)
Web医事新報登録日: 2021-10-06

10月6日の厚生労働省のアドバイザリーボードにて札幌市と広島県から、第5波における年代別の陽性者数を分母にした、酸素を必要とする中等症Ⅱと重症者の割合が示された(表は札幌市のデータ)。これにはワクチン接種済の場合の結果も示されている。

ざっくり言うと、ワクチンを接種していないと、50代では陽性者

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【識者の眼】「妊娠中や授乳中のインフルエンザワクチンと、新型コロナワクチンとの間隔は?」柴田綾子

【識者の眼】「妊娠中や授乳中のインフルエンザワクチンと、新型コロナワクチンとの間隔は?」柴田綾子

柴田綾子 (淀川キリスト教病院産婦人科副医長)
Web医事新報登録日: 2021-10-04

沢山の方の協力と尽力で、日本も新型コロナウイルス(コロナ)感染症の第5波を乗り越えてきています。そんな今、冬に備えて私たちができることの1つは「インフルエンザワクチン」かもしれません。インフルエンザのワクチンは、すべての妊娠期間および授乳中に安全に接種可能です。接種後2週間して抗体の効果が高まるため、

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【識者の眼】「とても敏感な人」山本晴義

【識者の眼】「とても敏感な人」山本晴義

山本晴義 (労働者健康安全機構横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長)
Web医事新報登録日: 2021-09-30

昨年からHSPという言葉をよく目にする。また、診察でも「自分はHSPではないかと思っているのですが……」と言われることがある。HSPとは、Highly Sensitive Person(とても敏感な人)という意味で米国の心理学者エレイン・アーロンが提唱した言葉である。病気や

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【識者の眼】「補完代替療法に関する医師の対応パターンと失敗事例」大野 智

【識者の眼】「補完代替療法に関する医師の対応パターンと失敗事例」大野 智

大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)
Web医事新報登録日: 2021-09-30

この連載がきっかけか定かではないが補完代替療法を題材にしたコミュニケーションがテーマの学生主催の勉強会【1】の講師を依頼された。患者から「健康食品を使ってみたい」と質問されたら、医療者はどのように対応したらよいのかを考えるものであった。その際、医師がとりがちなコミュニケーションのパターンと失敗

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