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【書評】 『同時通訳者の頭の中』関谷英里子・著

題名の通り、同時通訳を手掛ける筆者が、ノウハウや心がけを惜しげもなく開陳してくれる。

英語を学ぶ人が絶対にしてはいけないアウトプットがあります。それは、ほかの人の英語について評価するということです。「あの人の発音はイマイチだ」とか「あの人の文法はめちゃくちゃだ」など、英語の会議のあとでほかの日本人の英語についてあれこれ言う人がいます。このようにほかの人の英語について評価を下すこと、これは細対にしてはいけません(中略)。英語が間違いなくしゃべれることが大切なのではありません。話の中身が大切なのです。話の中身が大切だ、ということがその集団の意識から薄れてしまうと実りのある会話が持てません。自分のためにも、周りの人のためにも、ほかの日本人の英語については評価しないことです。

私の周りには帰国子女がたくさんいます。しかし、その英語力にはかなりのばらつきがあります(中略)。帰国子女がいちように同じ程度に英語を使いこなせるわけではありません。では、この差はどこから生まれるのか。これは、読書量の差なのです。英語も日本語も言語能力が高い人、バイリンガルで英語を仕事でどんどん使っている人は、例外なくたくさん本を読んでいます。日本語でも英語でも、どちらでも多くの本を読んでいます。読書によって、通訳に必要とされる「イメージカ」がもたらされます。

本書の冒頭で筆者が指摘し、何度も引き合いに出される通訳の要諦「イメージ力」「レスポンス力」は、たしかにその通りだなと強く頷ける。

前職で、代理店向けのディナーで本社の社長のスピーチの通訳をやらされて(さすがに同時通訳ではなく逐語訳)、俺は1外フランス語なんだから英語出来ないのに!と内心バクバクながら、何とかやり切ったことがあった。

あとになって、代理店の方から
「ミズノさん、通訳凄かったですね。よくあんなにスラスラ訳せましたね」
などとおだてられて面映かったんだけど、振り返ると、通訳する前に自分で決めていたのは、
「社長が何を話したとしても『売上を伸ばしましょう、たくさん売りましょう』って結論にしかならないんだから、そこに行き着くように日本語を考えておこう」
というイメージと、
「間が空くと聞き手を不安にさせるから、社長が口にしていない言葉も付け加えて日本語として伝わるようにしよう」
というレスポンスだった。

通訳をやらされた時点では本書には接していなかったけれど、イメージとレスポンスを押さえていたから、正確さはともかく聞き手にとって違和感の少ないものになったのだろうと思う。

見方を変えると、自称英語できるぜおじさんたちの、実際の会話があまり弾まないのは、英語が出来る俺カッコイイが主題になってしまい、会話の着地点、即ち相手が伝えたいことを見ないから、という気がしてならない。
それ以前に、自称英語出来る設定でも現実には余りにもショボい(英語も日本語も諸々のセンスも)人がいることもまた問題ではあるんだけれど……

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