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«1995» (8)

教室に入ると、事前に聞いていた通り面接官が2名いた。
後にその名を知ることになるのだが、女性は田中幸子助教授、男性はガブリエル・メランベルジェ教授(役職はいずれも当時)。

着席すると、田中先生が手許の資料をめくって口火を切った。
「水野クンは……あっ、暁星に通っているのね」
これにメランベルジェ先生が素早く反応した。
"Ah! Gyosei!"
そして、面接は思いもよらぬ展開を見せることになる。
"Vous vous présentez, s'il vous plaît"
自己紹介してください、とフランス語の問答が始まってしまったのだ。

ちょっと待った、ここはこれからフランス語を学ぶ学科だろう?と驚きながらも、自己紹介は昨夏の仏検の面接と同じ質問だと気づいた。
一度やっていると分かればそれほど緊張はしない。落ち着いて同じような回答をした。

次の質問は、いつからフランス語を習っているのかと問われたので"Depuis l'âge de 6 ans"すなわち、小学校入学当時の6歳からだと答える。l 'âge de を抜かすと「6年前から」になってしまう、文法問題として典型的なヒッカケを見て取ったので、粛々と答える。

その後、フランスに行ったことがあるのか、暁星ではどの先生に教わっていたのかなどと問われ、言葉を選びながらも素早く答える。
いわばメランベルジェ先生が繰り出すスパイクに都度レシーブを返し続けたのだが、高校のフランス語の授業で、ひたすら即答を求められてきたムチャブリの経験が見事に活かされたといえるかもしれない。何せ、先生の問いに対して間髪入れず回答し、かつ文法や表現が正しくなければ怒鳴られるか殴られてきたのだから。

それにしても、これは果たして面接なのだろうか、学生を選考する本質に迫っていないのではないか、との疑問が徐々に湧いてきた。
それを見てとったのか、発言を控えていた田中先生が、また資料をめくりながら日本語で聞いてきた。

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