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「あかりの燈るハロー」完結済み 全31話

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六年生になる茜は、五歳で母を亡くし吃音となった。思い出の早口言葉を歌い今日もひとり図書室へ向かう。特別な目で見られ、友達なんていない――吃音を母への愛の証と捉える茜は治療にも前向…
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#手紙

「あかりの燈るハロー」第一話

「あかりの燈るハロー」第一話

プロローグ ゴウン…ガロン…ギ…ギギ…ギ。
 ゴウン…ガロン…ギ…ギギ…ギィィ……。

 やがて、観覧車は完全にその動きをとめ、遊園地にともされたはなやかな電飾も消えると、あたりを静けさが包みこんでいく。

 耳をすませば、かすかに聞こえる波の音だけ。
 あたしは歌う。

 ♪ ハウマッチウッド・ウッドアチャック・イファウッドチャック・クッドチャックウッド?
 ♪ ハウマッチウッド・ウッドアチャッ

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「あかりの燈るハロー」第七話

「あかりの燈るハロー」第七話

ハローワールドの住人

(3)

 パソコンとふたりきりで頭を悩ませる。いろいろ気になることが多すぎる。

『はじめまして、あたしの名前は朱里です。
 あなたとお友だちになりたくて、思い切ってメールを出しました。
 もしよければ、あたしのお友だちになってください』

 何度見ても、メールにはそれしか書いてない。

 ――お友だち……。

 パソコンに突然入り込んできたこの「朱里」っていう人物がいっ

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「あかりの燈るハロー」第十四話

「あかりの燈るハロー」第十四話

レインボー薬局
(2)

 Re.ハローワールド
『朱里、ただいま! 今帰ったよ。
 薬局のおばさんがすごく親切にしてくれてびっくり。
 カバンいっぱい必要なものをもらったよ。
 お金は朱里が払ってくれたの?』

 ポロン♭

『おかえり、茜!
 薬局には無事にたどり着けた?
 今では生理用品にもいろいろなタイプがあるはずよ。
 自分に一番使い勝手の良いものを見つけるといいわ。
 薬局のおばさんか

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「あかりの燈るハロー」第二十四話

「あかりの燈るハロー」第二十四話

第十二章お父さんの恋人
(1)

 がらんとする家の中に入る。お母さんの笑顔にただいまのキスをし、自分の部屋にあがる。今日はいろんなことが起こりすぎて、とても半日とは思えないほどみんなであれこれやっていた気分だ。
 実際に先生にお説教を受けてたから半日じゃないけど……。小学校生活の中で、たった半日で二回も職員室に呼び出されたのも初だ。
 お父さんが聞いたらなんていうかな?

 部屋に入ってパソコン

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「あかりの燈るハロー」第二十五話

「あかりの燈るハロー」第二十五話

お父さんの恋人
(2)

 時刻は多分六時過ぎくらい。一刻もはやく家から出ないと、お父さんが仕事から帰ってきてしまうと思ったからだ。行くあてなんてないけど、今はお父さんの顔なんて見たくない。あたしはとりあえず、自宅や役所を避けて国道沿いの道を歩き続けた。
 赤く染まり始める空を見ながら、まとわりつく湿った暑さと、いつまでたっても鳴きやまないセミの声にあたしは苛立っている。本当は、そんなことが理由じ

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「あかりの燈るハロー」第二十六話

「あかりの燈るハロー」第二十六話

第十三章アカネ・ゴー・ラウンド
(1)

 お母さんとの思い出がぐるぐると廻る。にぎやかなデパートの人混みに、夏に向けて心おどるような店内の音楽が戻ってくる。
 どうしてひとりで天国へ行ってしまったんだろう? あたしはこんなにもお母さんのことを必要としてるのに、どうしてそばにいてくれないの?
 お母さんを思い出すときは、いつだって思い出の中でだけ。いつだって思い返すことができる気がするのに、お母さ

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「あかりの燈るハロー」第二十七話

「あかりの燈るハロー」第二十七話

アカネ・ゴー・ラウンド(2)
 お母さんは自転車の後ろにあたしを乗せて、軽快にペダルを漕ぎ、魔法の呪文を口ずさむ。
「♪ ハウマッチウッド・ウッドアチャック・イファウッドチャック・クッドチャックウッド?」
「♪ ハウマッチウッド・ウッドアチャック・イファウッドチャック・クッドチャックウッド?」
 繰り返し愉しげに唄う自転車は、お母さんとあたしを乗せて夕暮れの街の中を進む。
「ハウマッチ♪ ウッドチ

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