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ナナタ-10秒で読める散文
2019年6月20日 22:43
黄昏が空から落ちてくる。まるで映画のワンシーンのようだ。膝の上では、妻が寝息を立てている。その体勢は、人間はここまで無防備になれるんだと教えてくれてるみたいだ。「愛してる」誰にも届かない声を出す。棚の上の記念写真は、笑顔でこちらを見つめてる。これは、映画のワンシーンすぎるな。===後記===「何でもないようなことが幸せだったと思う。」と誰かも歌っていたけれど、これはきっ
2019年6月12日 10:03
私の本棚には昔の手帳が並んでいる。カバーには、当時の趣味が色濃く出ていて、JKの時のは今見ると酷いセンスだ。酷いと感じる今が、何かを失ったのかもしれないが。そのピンクの、ヒョウ柄の手帳を開くと蛍光色で慎ましい文字が現れる。「愛してる」この頃、ってどんなんだっけ。===後記===年齢を重ねるにつれて、いろいろな経験を経ていく。それは、ある種人生に新しい刺激を与えているような
2019年6月10日 13:07
「ブレーキランプを5回点滅させると、愛してるのサインなんだって!お母さん知ってた?」後部座席で娘が妻と話している。「もちろん。ね、お父さん?」不敵な笑みがバックミラーに映る。何しろ、私は点滅させて告白した張本人なのだから。鏡越しの瞳は、下手な告白に笑っていたあの頃と同じだった。===後記===こんな雨の日には、いつもより車のブレーキランプが目立つ。あれも愛を伝える媒体の
2019年6月9日 10:13
朝はいつも起きてこないし、帰りだって毎晩遅い。たまの休みの日だって、PCとにらめっこで全然かまってくれないじゃん。私のこと、見えてますかー?お前なんかな、「愛してる」って言わせてやるからな。今に見てろ。===後記===明らかに不穏な、恨みつらみが立ち込めるシチュエーションでも、セリフに「愛してる」を据えるだけで、なんだかホッとできる物語になる説。☆このシリーズの詳細はこち
2019年3月4日 18:47
その日、世界は衝撃を受けた。日本を襲った未曾有の大災害。自然の脅威に為す術のない人々の様子が、電波に乗って数億人の元へ届けられる。崩れたビルの傍らで、泣き叫ぶ少女と、瓦礫に埋もれ動けない父。「愛してる。」諦めと愛情が入り混じったその表情と言葉は、国境と時代を越えていく。===後記===私たち人間は、生まれた瞬間から自然災害の脅威に襲われる可能性をはらんでいる。特に日
2018年8月15日 16:40
恋愛とは常に1対1である。相手との真剣勝負、油断は許されない。気を抜けばそっぽを向かれる。外野、ギャラリーはもちろんいる。野次も飛び交うだろう。でもそれはあくまでリングの外での出来事。勝負はここで起きているのだ。渾身の「愛してる」が、空を切ること無く、相手の心を掴み続けるまで。
2018年7月10日 19:45
僕が言葉を喋れたら。何度そう思ったことだろう。生まれたばかりの頃、泣き止まないキミのために呼ばれたんだ。初めて1人で寝る夜も、友達と喧嘩した日も、お母さんに怒られた時も。キミは僕を隣において、話をしてくれたね。僕が言葉を喋れたら「愛してる」って言うのに。人形のくせして欲張りかな。===後記===「八百万の神」じゃないけど、生き物じゃないものにも感情があるので
2018年7月9日 19:33
こないだは本当に楽しかった。きれいな夜景を見ながら、振る舞ってくれたごちそうの数々。いつもこんな作ってるって、さては女ができたか?そんなこと気にしちゃう。わたし、意外と乙女だからさ。でも別れ際の「愛してる」は反則だと思うな、彦星。また一年我慢するの、大変じゃんか。待ち遠しいなあ。===後記===究極の遠距離恋愛実践者、織姫と彦星。彼女らのことを思えば、人類の
2018年7月5日 22:17
小太りの男性教師が、黒板に数式を書いている。男しかいないのこの教室で、何人が真面目に見ているんだろう。そんなことを思いながら、前方に座る彼氏に視線が行く。「愛してる」昨夜の、デートと言うにはお粗末な時に彼は言った。僕らは、紙切れ一枚で認められる関係よりも、強い何かで結ばれている。===後記===自分の学生時代を思い返すと、こういった感情を抱いている子はいなかったように思
2018年7月2日 19:31
夫は昔、声を失った。豪快という言葉が似合う人だったが、癌で声帯を摘出。以来笑うことの減った夫との夫婦生活は、決して簡単ではなかった。ある日、名前を呼ばれた気がして振り返ると、そこには夫の姿が。「愛してる」小さくて聞き取りづらい音。夫の照れた顔なんていつぶりだろう。ひさしぶり。===後記===つんくさんは、食道発声で、声を出せるようになったらしい。伝えられる時
2018年7月1日 22:02
久しぶりの晴れ間は、夏の始まりの合図だった。空は青く、浮かぶ雲は重厚感のあるフォルムをしている。木々の緑も活き活きした色で、さっき見かけたワイシャツは、真っ白に強く輝いていた。この炎天の空の下、僕は今年も君の墓前で手を合わせる。「愛してる」声が届いてるといいんだけれど。===後記===夏が近づいてくるのを、肌と汗で感じるここ数日。電車に乗っていたら、この暑さにそぐわ
2018年6月27日 22:34
幼いころ、誘拐にあった。塾の帰りに連れ去られたらしい。らしいというのは、その記憶が欠けてるからだ。今も覚えているのは、犯人の低い声と、母の抱擁の感触だけ。「愛してる」私を抱きしめながら、私以上に泣きながら、母は耳元で叫んでいた。子は親を選べないと言うが、母が母でよかった、と思う。===後記===親という存在は特別であり、不思議で不完全だ。完璧なものなど無いのだけど。
2018年6月26日 20:26
聞いてよこないだご飯食べ行ったのねそうあのファミマの向かいのとこしたら突然指輪出してきてさ「愛してる」だってそんなの急にされたらびっくりするじゃん私泣いちゃってさそしたらあいつも泣いてやんのウケるよねいやノロケとかじゃないよそんなわけでお母さん今度わたし結婚するよ天国から見ててね===後記===仏壇に向かって手を合わせて思いを伝える、とい
2018年6月25日 21:48
31歳という繊細な時期に催された高校の同窓会。みんな久しぶり過ぎて、初対面と知り合いの中間ぐらいだ。そんな中見つけた昔の彼氏。「久しぶり」と話しかけてくるその表情には、一流商社マンの矜持が滲み出ている。\上質なスーツと光る指輪。「愛してる」と言う彼をフッた当時の私、殴り飛ばしたい。===後記===あの時ああしておけば...といったタラレバな話は、何歳になってもつ