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思い返せば

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今のわたしが作られるまでの話です
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閉鎖病棟②

閉鎖病棟②

前回のつづきです。前回はこちらから。

境界性人格障害(通称ボーダー)、解離性健忘、適応障害、〇〇(薬物の成分)中毒。4つも病名がついてしまったと当時はめちゃくちゃに落ち込んだ。が、きちんとした病名がやっとついたおかげで「自分はまともな人間ではないんだ!良かった!」という謎の嬉しさもあった。

ボーダーというのは簡単に言うと性格の極度な歪みからくる病気。診断基準はDSM-5(精神障害の診断基準)に

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閉鎖病棟①

閉鎖病棟①

前回の続きです。前回はこちらから。

ハッと目を開けたら知らない天井だった。天井の隅には監視カメラのようなものがついていた。看護服の女性に「鎮静剤を打っているのでしばらくは動かないでくださいね」と言われ、病院にいることが把握できた。ただ身体はどこも痛くない。ホームに飛び降りたはず、電車に跳ねられたはず。頭がはてなマークでいっぱいだった。

精神科の閉鎖病棟に入院するにはおおまかに3種類の方法がある

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薬物乱用

薬物乱用

前回の続きです。前回はこちらから。

「この仕事つらいじゃん?だからさ〜私これやってんの。かのんちゃんもどう?」パケに入った白い粉が目の前で揺れた。パケを持つその腕には大量の生傷が見えた。風俗の待機室でよく一緒になっていた女の子が私に勧めたそれは高校の「薬物乱用防止教室」で聞かされた例の薬物だと確信した。「それはまずいんじゃない?」「じゃあこれは?これならドラッグストアでも買えるよ」と瓶に入った錠

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特別な空間

特別な空間

前回の続きです。前回はこちらから。

そんなこんなでファミレスでバイト、親に隠れて風俗でバイト、空いた時間に学校へ行くというなんとも不自然な生活を続けていた。

高校生活は周りの友達が学校に来なくなってから私もだんだん行かなくなったが、物理担当のO先生だけはずっと私を気にかけてくれていた。

学校に来て授業をサボる私を見つけては、普段は入れない物理準備室に私を招いて「コーヒーしかないよ」と理科の実

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生きた心地

生きた心地

前回の続きです。前回はこちらから。

2日後の初出勤まで、この大きな黒い秘密を自分一人で抱えられず、Kやそれ以外のネット仲間に話しまくっては気を紛らわせた。Kは「そんな心配することないよ〜ウザイ客とかいるけど大丈夫だよ〜」みたいに言ってたと思う。

そして来てしまった初出勤。金曜日の出勤だった。今でもよく覚えている。高校とは逆方向の電車の中で、私の目の前には今から登校する女子高生達が数人いた。「担

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講習

講習

前回の続きです。前回はこちらから。

プレイルームに入る前もだけど、入った後もすごく緊張していて常に下を向きながら歩いていた。下を向いて自分の靴を見つめていると、この質の悪い「非現実的な世界」の中で少しでも安心できる気がして、靴を見ることでなんとか心を落ち着かせていた。

プレイルームは随分奇妙なものだった。シワひとつないバスタオルが綺麗に敷き詰められたベッド、その横にはイミテーションの花、スチー

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風俗面接

風俗面接

前回の続きです。前回はこちらから。

高校3年の頃、クラスメイトが退学や不登校で教室にいる人数が常時10人を切ったあたりで、友人達とうまく馴染めなくなっていった。それと同時にどっぷりとTwitterにハマってしまい、猫が好きというそれだけの理由で適当に付けた「みゃー」という名前のアカウントを作り、ネットの友達と連絡を取り合ってはオフ会をしてご飯やカラオケに行ったりした。

当然のことながら、みゃー

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手に入れた青春

手に入れた青春

前回の続きです。前回はこちらから。

高校に進学するためには両親に学費を出してもらう必要があるので、進学の許可が下りるようなプレゼンをしなければならない。行きたい高校について調べ尽くし、なにを言われても反論できる準備をし心臓がはちきれそうな思いで「この学校に行きたい」と言った。「この学校なら出席日数が足りない私でも受験資格がある。それに単位制の総合学科だから自分で取りたい授業を選択することもできる

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進路

進路

前回の続きです。前回はこちらから。

それからの毎日は、世界がどんより灰色になったように、とにかく憂鬱で仕方がなかった。何よりも「おねーちゃんのせいで!」という次女の言葉が何度も頭の中でこだまして私を苦しめた。自分の人生は自分で決めるんだと自ら選択したものの、結果尻尾を巻いて逃げ帰って来て、更には妹の居場所まで奪うことになってしまった。後に私のいた一時保護所は児童虐待の疑いでニュースに取り沙汰され

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選択の結末

選択の結末

前回のつづきです。前回はこちらから。

一時保護所に来て5ヶ月、季節は秋の中頃。当時私がいた一時保護所での平均滞在日数はみな1ヶ月〜2ヶ月程で、5ヶ月もいると私よりも先にいた子供達は行くべき場所が決まり退所、新しい子が何人も入ってきて、気がつけば保護所内では私が一番長くいる先輩になっていた。

「文化祭があるからこれで工作しなさい」といきなり言われ、文化祭?と疑問を抱きつつもフェルトでのマスコット

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籠の中の優等生と劣等生

籠の中の優等生と劣等生

前回の続きです。前回はこちらから。

一筋の光があったとすれば、児童養護施設に行く手続きは進められているという児童相談所の職員さんの言葉だった。もう少しこの環境に耐えてみようと、3センチも開かない窓から押し付けるように顔を出し、外を見ながら自分の行く末を信じた。

2ヶ月ほど過ぎた辺りで、1人の子供が脱走した。朝起きて朝食のために整列した時、点呼の人数が合わなかったのだ。職員さんは全員慌てて探しに

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蜃気楼

蜃気楼

前回の続きです。前回はこちらから。

一時保護所に着いていきなり下着一枚にさせられ、持ち物検査でおばあさんに買ってもらった画材やその時持っていた他の下着も全て取り上げられた。施設の備品?なのかな、ダサいボロのジーパンと半袖のTシャツを着せられ、別室で簡単な心理検査を行った。そのあと、保護所の職員さんから「ここでは絶対に守ってもらわなければならない3つの決まりがある」と言われた。

①ひとことも喋っ

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鉄塔の先に

鉄塔の先に

前回の記事の続きです。前回の記事はこちら。

さまざまな事情で親と暮らすことのできない子供を、養子縁組でない形式で迎え入れる制度のひとつに養育家庭制度というものがある。受け入れの長さは短期から長期までさまざまなパターンがあり、長期になると国から養育費などが支払われる。

おばあさんに夜ご飯よーと言われ、慣れないスリッパでリビングまで行った。何が出てきたかは忘れちゃったけど、とにかくその家のご飯は豪

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初めての人生の選択

初めての人生の選択

前回の記事の続きです。前回の記事はこちら。

「では明日、いつも通り学校に来てください。お迎えに行きますから」
両親の留守を見計らって、児童相談所に電話をかけた。

翌日、いつも通り学校に行ったが、いつも通りでないのは持ち物と、入る教室。電話で「もし可能なら…」と言われたのでスクールバックの中には教科書ではなく、詰め込めるだけの下着を入れた。上履きに履き替えて、教室とは逆方向のカウンセリング室に向

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