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フリー台本(オリジナルSS)

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オリジナルSSまとめ。 フリー台本としてお使い頂けます。 5〜10分ほどで読めます。
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#朗読

Get back 35years【オリジナルSS】

Get back 35years


3月になったのでカレンダーを捲ると、すでに予定が書き込まれていた。よく見ると、破いた2月にも週1〜2回、予定が入っている。そういえば、母はここ3年くらいでずいぶん外出するようになった。今もいそいそと、出かける支度をしている母の元へ行くと、

「今日ジャズ聞きにいってくるから。」

と首元に小花柄のストールを巻きながら、母は言う。

「ジャズって、いつも

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夕立に消える【オリジナルSS】

夕立に消える

夏休みも残り少なくなる頃にはすっかり日常に飽きていた。僕はゲームはそんなに好きじゃないし、外でサッカーするようなタイプでもない。宿題はもちろん夏休みが始まってすぐに終わらせ、読みたい本は全部読んだし、観たかった映画も観終えてしまった。数少ない友達からも「お前つまんないな」なんて、冗談なのか本気なのかわからない言葉を投げかけられる。つまらない、確かに僕自身でもそう思う。中学2年の夏休

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篠突く雨【オリジナルSS】

篠突く雨

バスを降りるのが憂鬱で仕方ない。窓に小さな雨粒がつき始めて、傘を忘れたことを思い出したが、もうどうでも良かった。21時、乗客は多くなく、皆一様に疲れているように見えたが、この中で一番暗い自分の顔が窓にぼんやり映った。どこで間違えたんだろう。そんなことを考えていると、バスはあっという間に終着点に着いた。

バスを降りると彼が待っていた。

「傘、忘れてったろ。」

小雨の降る中、右手で傘

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月には君が【オリジナルSS】

月には君が

「お月様にはうさぎさんが住んでるんだって!」

随分と元気な妹の声に、僕は思わず呆気に取られた。

「お兄ちゃん、聞いてる?」

「ごめんごめん、うさぎがなんだって?」

「だから、お月様にはうさぎさんが住んでるの!今日メイちゃんが教えてくれたの。」

メイちゃんは妹の元に足繁く通ってくれるクラスメイトだ。うさぎが何よりも大好きな妹に、いつも絵を描いてくれたり、シールやキーホルダーを

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どく【オリジナルSS】

どく

10月1日土曜日。曇り。
朝5時半起床。頭痛がする。夜中に何度も目が覚めた。寝室を覗くと、女はまだいる。朝食を食べるような気分にはならない。あの日から私は心にぽっかりと穴が空いてしまい、なにかを欲することはなくなってしまったように思う。ここ数日の日記を読み返すと書かれているのは懺悔の言葉ばかりだったが、それはもうやめにしたい。なるべくしてなった、起こるべくして起きたことだ。台風で荒れた風が

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【オリジナルSS】Nameless【初夏のRadiotalk朗読大賞】

【オリジナルSS】Nameless【初夏のRadiotalk朗読大賞】

Nameless

昨日はソファーで寝てしまったらしい。軋んだような身体の痛みで目が覚めた。身体だけじゃなくて頭もモヤがかかったように痛い。部屋の電気は点いたまま、壁の時計は6時を指していて、カーテンの奥の薄暗さで夜だと気づき溜息が出た。身体をゆっくり起こし、洗面所へ向かい冷たい水で顔を洗う。ふと鏡を覗くと、違和感があった。あれ?僕ってこんな顔してたかな?鏡に映るのは自分自身のはずなのに、知らない

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渇望ピンク【オリジナルSS】

渇望ピンク

絶対に負けたくない。歌も、ダンスも、人気も、あの子にだけは何があっても負けたくない。そんな強い気持ちになったのはいつからだっけ。
 
私たち「トワイライトミューズ」は二人組のアイドルユニットだ。高校卒業と同時に親友だった蒼唯(あおい)と上京し、すぐにオーディションに受かってアイドルデビューした。まだまだ駆け出しで単独のライブも少ないけど、活動して2年目、着実にファンを増やしてきている

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あいつの隣【オリジナルSS】

あいつの隣

仕事帰り、独り寂しく牛丼チェーンで腹を満たしているところに連絡を寄越したのは、幼馴染の陽介だ。LINEによると、知らない間に彼女が出来たらしい。その彼女を連れて久しぶりに家で飲まないかという誘いが来ていた。陽介はクラスの中心人物、とまではいかないが明るくて人当たりの良い奴で、いつもヘラヘラとその場を誤魔化すクセがある俺にとって眩しい存在だった。社会人になった今でも仲が良いのはこいつく

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エイミー【オリジナルSS】

エイミー

この町では宇宙工学が盛んで、多くの人がそれを学び技術を身に着け生計を立てていた。僕はその中でも協調性のないはみ出し者、一人山奥にラボを設け、静かにロボットや宇宙飛行船を開発している。そんなある日、突如大きな物音と地鳴りが起きる。恐るおそるラボを出ると、目の前にさほど大きくない宇宙船が地面の上に横たわっていた。この辺では見かけない形をしているその宇宙船を観察していると、後ろから声がした。

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No.n【オリジナルSS】

No.n

またしばらく連絡が取れなくなった。何度もしつこく電話することも出来ず、ただ未読のまま放ったらかしにされた自分のメッセージを見返す。最後にあったのは先々週の土曜日、会うときは決まって彼はひどく酔っていて、お酒と煙草と知らない香水を混ぜた匂いを纏わせている。きっと私の部屋は終電後の宿泊先としてちょうどいいんだろう。私のことどう思ってるの?なんて聞けず、ただちょっとでも彼の心の中を占める割合

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Under the moon【オリジナルSS】

Under the moon

私にはどうやら恋愛は向いていないらしい。2年越しの大失恋。好きだった部活の先輩に憧れた勢いのままサッカー部のマネージャーになり、なんとか視界に入ろうと頑張ってきた。大きな大会が終わり、先輩も引退というこのタイミングで想いを告げたが見事玉砕。家に帰る気分にもなれず、誰もいない教室の窓側で席に座り、ぼんやりと暗くなった外を眺める。そういえば今日は満月だったっけ。空には雲

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不適切 sideM【オムニバスSS】

不適切 sideM

「今日夕飯いらないから。」

ネクタイを締めながら夫が言う。目を合わさないこういうときは、大体後ろめたいことがあるときだ。

「飲み会?」

「そう。久しぶりに同僚とね。遅くなるかも知れないから先寝てて。」

結婚して3年。至って順調、なんの問題もない私たちだけど、全ては明かしあっていない。夫には夫の、私には私の秘密がある。「飲んで遅くなる」は、私にとっては朗報。夫がマンショ

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青色のおまじない【オリジナルSS】

青色のおまじない

「ねぇ、リボンこれにしようよ!青色ってちょっとセンス良くない?」

「おそろいにするの?せっかく交換するのに?」

「このリボンがいい!ね?だめ?」

このときの私は半ば強引だったかも知れません。それでも、どうしても彼女に青色のリボンを選ばせたかったのです。

彼女の名前は佳乃(よしの)と言います。高校に入学し、私の一つ前の席に座っていた女の子です。私の目に佳乃は、外見も中身も

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かみともにいまして【オリジナルSS】

かみともにいまして

母と逃げるように越してきたこの町には、真新しい教会があった。近所の人は訝しがって近づかないほうがいいと新参者の私たちに告げていたが、ある時郵便受けに入っていた子ども会の知らせに、私は小学生ながら興味を持った。母はそこに行くことを許してはくれなくて、でもどうしても行ってみたくて、母が仕事で留守にしている隙に教会へ向かった。まだ木の匂いがするその教会にいたのは、背の大きな神父さん

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