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空間

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空間を昔から愛していて、抽象的なまま自分の心で感じることが自分にとっての幸せなのだと思う。
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夏は終わらない

夏は終わらない

18時30分になると、秋の訪れを感じる。

秋が来る。
でも、夏は終わらない。

スズムシが鳴く夜に、君は夏と秋のどちらを想像する?

少年が、スマホの画面を横に持ちながら歩いていく。

回り出したあの子と 僕の未来が

そんな音を垂れ流しながら。

若者は、ゆっくりと歩く。
1秒後にもまだ同じ場所にいて、まだ次の足を前に出していない。

じゃりっと、砂を踏む音が聞こえる。
ゆっくり、進むその若者

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蒼白さ

蒼白さ

夜が明ける。
黒に、蒼さが混じりだす。

白いカーテンが揺れて、蒼色が透けて、映画のワンシーンのようにそこに立ちすくんでみる。

光を拒絶するような蒼白い空間というのは、太陽が顔を出すまでのほんの一瞬のことで、ほんの一瞬だからこそ、私は、白いソファに寝転んでみる。

こういう静けさを愛さなければいけないんだ、というような使命感が私を包み込んでいく。

こういう、蒼白く、太陽が昇るまでの一瞬の静けさ

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空間認識絵画

空間認識絵画

「こっちだって」

と地図を使いこなしながら、腕を引っ張られる。

そういう時、脳内でこの人はどういう絵を描くのだろうという好奇心が湧き上がる。

少しの方向転換を終え、離された腕。
半歩先を歩く彼。
「あれじゃん」そう言って目的地に到着した。

「男性ってさ、地図を読むのが上手い人多いじゃん?」

「そういう人が描く絵って絶対上手いと思うんだよね」

そう言いながら彼の目をぼーっと見つめた。

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決別

決別

ミックスジュース味のような、そんな甘ったるさの中をきっと私は生きていて、生きてきた。

そびえ立つ神戸のポートタワーを見上げると、私がこの街で感じてきた全てのことが、目の前のこの赤いタワーは知っているのかもしれないと、思った。

この街で生まれて、この街を一刻も早く出たいと思って生きてきた、そんな過去を。

この街に帰ってくる度に、港町特有の風が私の身体全体を撫でる。この生温い温度が気持ち悪くて仕

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君が鳴らすアスファルト

君が鳴らすアスファルト

大きな音と共に、君が滑り始めたのが分かる。

近くから遠くへ。
そして、また近くへ。

君がアスファルトを鳴らしながら、そのスケートボードを滑らしていく。

君が大人になっても、酒を片手に「スケボーにハマっていた時代もあったな」なんて語らずにいてよ。

ずっとそのまま、整備されていない、アスファルトを鳴らしていて。

夜の23時、君が愛おしそうに笑う声が響く。
君たちが、未来も君たちのままでいられ

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ふたりを愛せよ

ふたりを愛せよ

スマホの画面の中心部分より少し右下を、親指でタップする。

すると、画面いっぱいに文字が溢れ出し、読んでいなくても、「ありがとう」が一つではないことがわかる。

またひとつ、タップすると、スクリーンショットされた画像が貼り出され、そしてまたたくさんの文字と、「ありがとう」と、その他が並んでいる。

そして、ぐるぐるっとした雲のようなスタンプと。

私は、そこに隠された数字を知っている。
その数字に

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扇と揺れと、答え

扇と揺れと、答え

都合よく、人の顔が見えない視力は、揺れだけは捉えることができる。

こちらに手を振っているような、応援されているような、そんな爽やかな揺れを。

側で眺めてみれば、頭を撫でるようにゆっくりと、揺れている。大きな影も揺れ、まるでゆりかごを体験しているかのように、自分が慰められる。

もしも、魔法が使えるとしたら、あの木々を揺らしたいと思うんだ。

ほら、あの、向こう岸に見える。

そうすれば、君が階

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プライベートタイム

プライベートタイム

例えば、朝の6時に挨拶をするような。そして、今日の太陽の温度を報告するような。

満員電車に対する鬱憤ではなく、横断歩道の先に見えた未来を伝え合う、そんな関係。

それをきっと、特別と呼ぶのだろう。

昼食時に来るメッセージは特別ではなくて、
夕方に来るメッセージも特別ではなくて、
深夜に来るメッセージも、そうではなくて。

夜の21時に、待ち合わせをできることは、特別なのである。

夏になれば、

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弾む冷静さ

弾む冷静さ

酒に飲まれているときこそ、私の頭は冷静な言葉で道筋立てられている。

そして、高熱が出た時ほど、冷静に自分を3Dプリンタにかけることができるのだ。

弱っている時に差し出される手を、丁寧に退け、丁寧な口調で、「大丈夫」と放つことができる。

逆に浮き足だっている時というのは、酒や熱という温度を帯びていない時である。自分の言葉から煙が上がる、次の言葉を紡ぐ瞬間、言葉と言葉が擦れて熱を帯びていく。

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浅はかだと言えば、君は笑い転げる

浅はかだと言えば、君は笑い転げる

「やっぱり、」といつもの言葉を唱える君の声、そして、あくびをする私の音。

「なんかほら、闇がありそうなんだよね」という一言で、19歳のある出来事を思い出した。「おばあちゃんに虐待されてたらしくって、だからさ、」と続ける君の声は少し弾んでいた。

「よかったじゃん」と返す私。何も良くはないのだけれど。しかし、誰かの痛みは誰かの喜びである仕組みは、宇宙の決まりごとなのかもしれない。

「てか、お姉さ

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金木犀が雨に溶けて、

金木犀が雨に溶けて、

数日前、金木犀を吸い込んで、というタイトルで何か書こうと頭の片隅で考えていたのだけれど、人間の気持ちなどすぐに移り行くもので、違うものとなった。

自転車で風を切る瞬間、横断歩道で左斜め前を眺めている時、金木犀の香りを身体で感じる。その刹那、何故だか金木犀の香りを売りにした商品が頭に思い浮かぶ。ちゃんと役割を果たす姿を見届けることはいつもできない。

金木犀の訪れで秋を感じるのか、秋を感じている最

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もっとこう、なんというか、こう

もっとこう、なんというか、こう

謙虚でありながら、貪欲でいたことはあるだろうか。
それとも、貪欲でありながら、強欲でいたこと。

人に期待をし過ぎてしまったと気づいた時、また振り出しに戻ったかのように、謙虚で居ようと決意をしたり、そして関係性ができてくるとまた何かを求めるようになったり。

人はやはり、たった一つだけを望むことはできないのかもしれない。

当たり前なのだけれど、同じ場所で同じ食事をしても、胸の高鳴りが付与される人

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無償の愛を諦め、献身的な愛に、

無償の愛を諦め、献身的な愛に、

最も愛を欲しがった時はいつですか?
そう問われた時、私たちは一体いつの自分を指すだろうか。この空間は愛に満ち溢れているのだと信じて疑わなかった。

いや、まだ、大丈夫だと、自分に言い聞かせていたのだ。

「母親から食事を与えてもらえず、〇〇県に住む2歳の男の子が死亡しました」
そんなニュースを見ながら、愛情の欠如というのは、自分の死でしか証明できないと思っていた。

最大の不幸と自分を比べては、ま

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小指のアートがどうとか

小指のアートがどうとか

「ネイルを変えた」のだと言った回数は一体どれ程までになるのだろうか。

数週間の間でありながら、10本の爪は

いつも彩られている。

みんなが「可愛い」と言って、

みんなが彩られた爪を、優しく触った。

キラキラ光るものに、人間は怯えているのかと錯覚させられるくらい

人々は優しかった。

いや、人々の”指”が優しかったと言うべきだろうか。

その優しさを忘れないでいてほしいと思った。

腫れ

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