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浅はかだと言えば、君は笑い転げる

「やっぱり、」といつもの言葉を唱える君の声、そして、あくびをする私の音。

「なんかほら、闇がありそうなんだよね」という一言で、19歳のある出来事を思い出した。「おばあちゃんに虐待されてたらしくって、だからさ、」と続ける君の声は少し弾んでいた。

「よかったじゃん」と返す私。何も良くはないのだけれど。しかし、誰かの痛みは誰かの喜びである仕組みは、宇宙の決まりごとなのかもしれない。

「てか、お姉さん人のこと好きになったことあるんですか」と続ける君。

世の中の”お姉さん”は、お姉さんと呼ばれることで快感を覚える人はいるのだろうか。それとも呼ばせることに支配感を覚えるのか、はたまた、お姉さんと呼ぶかどうかを試しているのか。

そんなことを考えていると、左隣りに居る君が、左目の端に映った。

「あ、同じので」

そう言って左手を伸ばして、視界の隅を掃除した。

君がタイムマシンを作ってくれるのならば、私は迷わず19歳の誕生日を一人で過ごさせるために、過去の自分に会いにいくだろう。19歳はしなければいけないことがたくさんあって、と、語りたくなる気持ちをグッと抑えて、新しくきたアルコールを流し込んだ。

君はよく、「たしかに」と納得するフリをする。その度に私は、少し口角が上がるのだ。そうやって頷きながら世界に馴染んできたんだね、と、なんだか昔話を読んでいるかのような気分になるんだ。

「お姉さんは、」と質問してくる頻度よりも、私が、「てかさ、」という切り出すことの方が圧倒的に多く、そして、その話には100%「たしかに」という相槌が付けられる。


君のことを、浅はかだなあと思いながら、そっと手を伸ばす。

「お姉さんやっぱり、」

頬の冷たさが、指を辿り、心臓にまで運ばれる。

「天才なんだよなあ」

この目で見たことだけを信じればいいのにさ、

「お姉さん」

馬鹿みたいに感情的になってさ、

「明日もご飯いきましょうよ」



何から話してあげようか。
君が君でいられなくなった時に、私を頼ってしまうことがないように。





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