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自分が経験できなかった世界線の話

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この映画を終わらせられるのは

酒は飲んでも飲まれない、遅かれ早かれ何かを失う。煙草は1日1箱まで、身体にも財布にも優しくない。喉から手が出るほど欲しいものは買えば良い、反してそうでないものは買ってはならない。なるだけ活字に触れる、傷つけない言葉を私はもっと知らなければいけない。依存先は幾らあっても良い、それらが無機質なものであれば尚良い。定められた形から少しだけ足を出す、秩序を必ずもって。悪口は決して言わない、ただただ美しくな

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ノストラダムスの大予言が的中すれば、私は生まれないはずだった

ノストラダムスの大予言が的中すれば、私は生まれないはずだった

ノストラダムスの大予言によれば、1999年の7月に、恐怖の大王とやらが世界を滅ぼしてくれるはずだったのに、その予言は話題性や期待値だけを膨らませ、その全てを台無しにして呆気なく外れた。そしてコロナで始まった2020年が終わり、2021年が始まってしまった。私は今年で、22歳になってしまう。

会いたかった人に会えなかった
行きたかった場所に行けなかった
約束が叶えられなかった
たくさんの不完全燃焼

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人生で一番好きだった

人生で一番好きだった

別れた。好きだ。大好きだ。間違いなく人生で一番好きだった。他人なんて分かり合えないものだけど、彼のことはそれでも理解しようとした。こんなに他人と向き合おうと思ったの初めてだった。別れた。別れた。終わった。終わってしまった。もう会えない。今朝まで一緒にいたのに。触れられたのに。朝ごはん一緒に食べたのに。なんでだろ。こんなに好きなのに、なんでだろ。なんで終わりにしなきゃいけなかったんだろ。苦しい。好き

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遺書

遺書

 30歳、新卒で入った大企業に8年だか所属して、ある日突然衝動的にやめた。夏になるまであと少し、梅雨があけるのが待ち遠しいだなんて無駄口を叩きあう同僚を背に、有給休暇を全部消費して、公休と合わせて、退職届を出してから一週間も経たないうちに最終出勤日を迎えた。

 「次の会社は決まっているの?」

 同僚の女に訊かれて、決まってないねと歌うように他人事のように答えると、じゃあ起業?と馴れ馴れしく続け

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遺書

遺書

葬儀には、自分の持っている中で一番お気に入りの服を着て、参列してください。喪服は禁止とします。

香典袋は、開けるときに楽しいので、可愛いキャラクターのポチ袋なんかにしてください。アンパンマンとかドラえもんとか。サンリオのだと、私がより喜ぶかと思います。中身は小銭だって構いません。ギザジュー100枚とかでもいいよ。見つけたとき、なんか特別な気分になるよね。

遺影に使う写真は、大学の卒業式の日、家

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「東京」

「東京」

 何処へ行っても、煩わしい程に人。「自粛」「死ね」「別れろ」その構成要素たる我が身を棚にあげ、すれ違い様に呪いを振りまいて、ヨタヨタ歩く。

 交差点が真っ赤に染まると、辺りはオーケストラが第二楽章を終え次の準備をする時のような、余韻で満たされる。急に風邪をひいたの、と心配になるくらい、老男女が一斉に咳をし始めるあの時間によく似ている。

 次第に、緊張が場を支配する。全員の意識が、一点に集まるか

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「でもお前すぐブランコとか乗るじゃん」

「でもお前すぐブランコとか乗るじゃん」

 アスファルトが湯気を立てそうなくらい暑苦しい八月に正気を保っていられるなんて、狂気そのものだ。
 巨人のため息みたいな、湿り気と熱気を含んだ風がどっしりと身体を撫で回す。何らかの試練なのでは、と思うけれど、悪いことばかりでもない。例えば冷房の快楽、それとシースルーカーディガンが流行ったことくらいには、暑さに感謝状をあげたい。

 夜の公園ってエモくていいよな、なんて今だに「エモい」を選び取るワー

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寂しさの引力で、貴方とコーヒー豆を挽こう

 初恋は多分小学校の先生だった。あの頃は一括りに大人に見えたけど、たしか若い先生だったと思う。情熱的で面倒見の良い彼女に、私はすぐに懐いた。そう、大学を出てからまだそれほど経っていない、若い女の先生だ。
この頃の私は自分が何者かなど考えもしなかった。
 次に好きになった記憶があるのは中学の部活の先輩だ。小学校からの友人の誘いでうっかり入部してしまったテニス部で、よく面倒を見てくれた三年の先輩。たっ

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