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モモコのゴールデン街日誌

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毎週土曜日ゴールデン街のソワレというお店で日替わりママをしています。 コロナ禍に創作活動も、仕事も激減、リモートワークばかりの生活に飽きあきしたことからはじめてみたゴールデン街… もっと読む
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記事一覧

モモコのゴールデン街日誌 「身に沁む」〜南米の黒縁メガネくん

モモコのゴールデン街日誌 「身に沁む」〜南米の黒縁メガネくん

店を開けたらすぐ、コロンビアから来たという若い男がひとりで入ってきた。28歳だという。

「イイデスカ?」

黒縁のメガネをかけており、大きな目が余計におおきく見えた。カールした髪も、上下で揃えたアディダスのスウェットも真っ黒だ。

入ってきてから、日本語しか話さない。しかし、ものすごくヘタだった。携帯の画面でグーグル翻訳を見ながら

「ビールイチ」
「クダサイ」

というので、

「そういう時は

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モモコのゴールデン街日誌「秋惜しむ」

モモコのゴールデン街日誌「秋惜しむ」

常連だった男性客が、ぱったり来なくなった。

彼女ができたからだ。

20代後半の青年 Dくんは、わたしの最初の常連客だった。

コロナ禍のまっ最中、わたしがカウンターに入った最初の土曜日に、たまたま入ってきた。

いつも店を開けてすぐの早い時間に来て、ハイボールを1杯飲んでさっと出ていく。ときどき話しが盛り上がれば2杯目、3杯目と飲む。

ちょっと緊張気味の一見の客を、和ませてくれることもあり、

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モモコのゴールデン街日誌 「虹」

モモコのゴールデン街日誌 「虹」

サントリーのウイスキー『角』が手に入らなくなるというウワサを先月くらいに聞いた。

店を閉めたあと、朝ごはんのオムライスを食べに行くG1通りの「ヒロシの店」のヒロシくんが教えてくれた。

その理由は、韓国アイドルグループのBTSのメンバーが、とあるインタビュー記事で、

「ボクが家呑みするときはいつも『角』のハイボール」

とかなんとか言ったらしく、それを聞いた海外のファンは、日本に来るとドン・キ

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モモコのゴールデン街日誌 「白雨」

モモコのゴールデン街日誌 「白雨」

中華系のカップルだった。マンダリン(中国標準語)で話している。どちらも30代後半くらいだろうか?

短髪の男の方は、ラグビー選手並みに鍛えられた上半身で、暑い胸板に筋肉のついた大きな腕や肩が麗しい。

女性は小柄で、さらりとしたナチュラルな茶色のロングヘアー。丸顔で、歌手の華原朋美の若い頃に少し顔立ちが似ている。

ちょうどカウンターでウーロン茶を飲んでいたJ子さんは「歌手の島谷ひとみにも似ている

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モモコのゴールデン街日誌 「紫陽花」

モモコのゴールデン街日誌 「紫陽花」

「ハネムーン中ですか?」

最初は冗談半分に聞いていた。

ソワレに訪れる海外からの若いカップル客には、気まぐれにそんな質問をブッ込んでみる。

ASAKUSAでOMIKUJI引いただの、GINZAでSUSHIたべただの、どの観光客とも同じ話しばかりしていると、こちらもつまらなくなってくるからだ。

ちょいと顔でも赤らめさせてやり、

「いやいや、そういうわけじゃないんだけど笑」

と、ふたりでモ

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モモコのゴールデン街日誌 「夏蜜柑」5月27日

モモコのゴールデン街日誌 「夏蜜柑」5月27日

「五月は恋の季節。パリの街に音楽が流れ出す....みたいな曲があるんだけど、なんていう曲か忘れちゃった、ずっとその曲を探してるんだけど、Spotifyにも、Youtubeにも、Amazonにも見つからないんだよね。モモコちゃんに歌って欲しい」

と言ってたのは、水曜日のソワレのママを担当しているカナちゃん。

そういえば、去年の今頃そんなことを言ってたなあと思い出した。

そんなカナちゃんが、夜中

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モモコのゴールデン街日誌 「薔薇」5月17日

モモコのゴールデン街日誌 「薔薇」5月17日

I am a cat.

夏目漱石の「吾輩は猫である」の英訳タイトルだそうだ。漱石の英語版など読んだことがない。

先週お店にきたカナダ人の若い男性が、英訳されたこの小説が好きで、日本に興味を持ったといい、初めて知った。

さらっとした涼しげな素材の白い半袖のシャツに、シルバーの薄いフレームのめがね。いかにも頭の良さそうな感じがするから聞いてみると、大学院生でAIの研究をしているという。

「前

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モモコのゴールデン街日誌 「豆」2023年5月4日

モモコのゴールデン街日誌 「豆」2023年5月4日

先週のソワレに、ひとり客の中年男が入ってきた。それだけでは珍しくないのだが、日本語に少し訛りがあるので聞いてみると台湾人だそうだ。日本統治時代の台湾で教育を受けたおばあちゃんに教えてもらったのだという。

世界的に有名な車のエンジニアをしているらしく、20年以上もイギリスに住み、国籍もすでに英国のものだという。素朴な短髪に、屈託ない笑顔でフレンドリーだったが、欧米国に長く住むアジア人特有の、淋しさ

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モモコのゴールデン街日誌 「桜」4月18日

モモコのゴールデン街日誌 「桜」4月18日

「今日忙しかったですか?」

お店が終わったあと、G1通りのヒロシ君のお店で、そこの常連さんである他のバーのママさんに聞いてみた。

「まったく!今日はずっとこの人の貸し切り状態よ。そんな忙しかったの?まったく羨ましいよねえ!」

と隣りにいる一緒に来た自分のお客さんに話しかけるママ。

そうなのか。

ソワレは一階の角にあるため入りやすい。そして私が英語対応もできるため、たまたま土曜が繁盛してい

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