記事一覧
アパートメント紀行(30)
エクス・アン・プロヴァンス #8
言葉の全く通じない相手と、身振り手振りで意思の疎通を図り、私はマットの上に寝転んでいる。授業を休み、思いついて来てみたタイマッサージの店で、タイ人女性にツボを押してもらっている。
時々痛みに耐えかねて、日本語で痛い痛いというと、感じのいいタイ人女性は面白がって、あなた身体が固いわねえといい(多分)、私の手や足をあらぬ方向に曲げては押し、伸ばしては押しを繰り
アパートメント紀行(29)
エクス・アン・プロヴァンス #7
月曜日、新しいクラスメートが入り、最下位クラスはまた新たな二週間をスタートする。相変わらず夜遊びしているらしい眠そうなカミラに、神父と踊っている昨晩の写真を見せると、きゃあ、それ送ってと、急に元気になって身を乗り出してきて、いつものように授業そっちのけになり、お決まりのようにアンヌに怒られる。新しく入って来たトルコ人のうつくしい歯科医のエズキが、その様子を楽しそ
アパートメント紀行(28)
エクス・アン・プロヴァンス #6
気持ちの悪さと頭痛で目覚め、ベッドの中で、頭痛薬を飲もうかと悩んでいると、誰かが部屋のドアをノックする音が聞こえた。
ゆっくりとベッドから起き上がり、ぐらんぐらん揺れる二日酔いの頭が動かないよう気をつけながらリビングへ行くと、ガラス越しにエマが手を振っているのが見えた。
ドアを開けて、あ、引っ越して来たんだ、ビアンヴニュー(いらっしゃい)というと、アランが
アパートメント紀行(27)
エクス・アン・プロヴァンス #5
授業の合間、カフェでマフィンを食べてコーヒーを飲むのが習慣となり、誰よりも早く時計を見て授業の終わりを先生に告げる役目のナダルが、ベルが鳴るより早く、さ、行くよ、と今日も私たちを先導する。
カフェの奥に、時々見かけるアジア人の女の子がいたので声をかけてみると、彼女は台湾人だった。日本が大好きで、箱根や銀座や北海道へよく行くという彼女に、じゃあ今度日本へ来る
アパートメント紀行(26)
エクス・アン・プロヴァンス #4
市庁舎前の広場に市が立っている。学校からの帰り道にみんなと別れる広場には、学校が休みの土曜日、大輪のヒマワリや熟れた果物、土のついた野菜、手作りのジャムやケーキなどが所狭しと並んでいる。
サングラスをかけた男たちが大きなパニエを持ち、女たちが買い物をする後ろで、手持ち無沙汰に荷物番をしている。花屋のマダムがヒマワリを指差して、トルネソルよといい、身体をぐる
アパートメント紀行(25)
エクス・アン・プロヴァンス #3
超初級フランス語コースは、一時間半の授業が午前中に二コマだけ。お洒落で素敵な若い女性の先生が二人、一日交代で教えてくれる。
物腰の柔らかいアンヌは、生徒一人一人が理解出来るまで、じっくりと熱心に向き合ってくれる先生で、一方のイザベルは、とてもシャープで、大袈裟なほどはっきりと、大きな声でフランス語を発音してくれるので、私の耳にはこちらの先生のフランス語の方が聞
アパートメント紀行(24)
エクス・アン・プロヴァンス #2
目覚まし時計の音で起きた久しぶりの朝、果物とパンをちょこっとだけ口にして、少し緊張しながら身支度をする。授業は朝九時からだけれど、初日はクラス分けのための面接やら簡単な試験やらがあるらしいので、少し早目に行かなくてはならない。試験を受けるまでもなく、一番下のクラスだとわかりきっているのに、それでもなんだかどきどきする。忘れ物はないだろうか。
眩しい朝陽を浴び
アパートメント紀行(23)
エクス・アン・プロヴァンス #1
海沿いのマルセイユから、三十キロ内陸へ入ったところにあるエクス・アン・プロヴァンスは、セザンヌが生まれ育ち、そして亡くなった街である。
セザンヌが描いたことで有名になったサント・ヴィクトワール山は、絵で見るのと同じ形で、ずっと列車の車窓から見えていた。
マルセイユで列車を乗り換えて、エクスの駅へ着いたのは午後二時半。TGⅤの駅は近未来的で、その昔プロヴァン
アパートメント紀行(22)
ニース #2
世界屈指のリゾート地で、二日間、ほぼベッドの上で過ごしていた。眠ったりテレビを観たり、料理をしたり。随分疲れが溜まっていたのか、眠っても眠っても眠り足りなかった。
爽やかな、あまりの陽気に誘われて、海岸まで散歩してみることもあったけれど、直撃する太陽の眩しさにくらくらとして、早々に部屋へ戻りシーツの海へと潜り込んだ。
ようやく体調が回復してきた三日目、ニースに来た目的の一つで