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マイ クリスマスツリー

「山にクリスマスツリーを切りに行くから一緒に行かない?」と誘われた。え、どこ? どうしてお店で買わないの? なんで山なの? 

プラスチックでできた折りたたみのクリスマスツリーしか知らなかった私はたくさんの質問をしてたくさん答えてもらったけど実感のわかないまま、3時間かけてクリスマスツリーを切りに行くトールキンさんの小型トラックに乗せてもらった。行く先はオレゴン州ユージーンの山。

トールキン家伝統のクリスマスツリーは本物の生の木で、飾りも電飾なんかじゃない、蝋燭で1つ1つ灯すんだ。そして毎年のクリスマスツリーを選ぶのは、家長である自分の役目なんだ。日本でも門松飾るでしょ。

そ、そうだね。

めざすモミの木の森に分け入り、たくさんの木の中からトールキンさんは自宅の暖炉にふさわしい風格の1本を選んだ。おじいさんは山に芝刈り、おばあさんは川に洗濯、のスケール。丸一日がかりの作業、いや、儀式。

これなら、りっぱなクリスマスツリーになる、間違いない。はいはい、と言って切り出してくれた山のクリスマスツリー屋さん。

「さあ、君はどれにする?」と振り返ったトールキンさんに言われるまで、考えたこともなかった。

ああでもない、こうでもないと品定めしていちばん小さな、でもとびっきり器量好しの1本に決めた。山から自分で選んで運んできた、世界にたったひとつ、生まれてはじめてのマイ クリスマスツリー。

自分のアパートに運び込んで、驚いた。山の中でいちばん小さかったツリーは、巨大だった。アパートの天井で折れ曲がって、部屋を埋め尽くした。舌切り雀のおばあさんみたいに欲張ったつもりないのに。

あっちの枝、こっちの枝と刻まれて、やっとこリビングに縮こまったツリーは、とても窮屈そうだった。切りたての木の匂いでむせそうになりながら、私は呆然とした。飾るものが無い。スカスカだ。鍋でもカマでも、家中から飾れそうなものを、ありったけかき集めてぶら下げても全然足りない。

どう見てもクリスマスツリーには見えない。
Me and my Christmas tree. 

21歳、アメリカ、オレゴン州、ユージーン。一人暮らし。はじめてのクリスマスツリーが見せてくれたもの。

イブの日、七夕のように想いを込めて飾り付けをする人達、リボンをほどいた時の顔を思い浮かべながらツリーの下にプレゼントを並べる人達、クリスマスの朝、待ちきれず駆け寄ってくるパジャマ姿の子ども達、そういう人達がいて、はじめてモミの木はクリスマスツリーになるのだということ。

モミの木をクリスマスツリーにするのは、家族という人達だということ。

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