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ひとつなるもの すべてなるもの

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ひみの連載ストーリー
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2021年7月の記事一覧

第35話 約束

第35話 約束

 『魂の帰り道のルートは一人一人オーダーメイド。みんなそれぞれ。』

 そろそろ寒さで布団から出るのが億劫になってきた頃、まだその離れがたい温もりに包まったまま例のブログにその文章を見つけて、胸の奥に込み上げてくるものを感じた。

 そうなの。一人一人違うの!

 何故だかわからないけど知っているこの感覚は、今は思い出すことができない懐かしい故郷への帰り道の切符のようで、恋しさが絡んであたたかく切

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第34話 「必ず、現れるから」

第34話 「必ず、現れるから」

 あきらを学校に送って帰ってくると、温かいお茶を淹れ直した。
 昔から体調を崩しやすい私は、普通の人よりエンジンがかかるまで時間を要する。
 毎日日課のサプリメントか何かのように口にした頭痛薬は、この二時間弱の間あまり良い働きをしてくれているとは言い難く、すでに脱水まで終わっている洗濯物を意識の隅で面倒臭く思いながら、少しの間ソファーの背もたれに頭を乗せる。

 「必ず、現れるから。」

 今、声

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第33話 顕微鏡も望遠鏡も

第33話 顕微鏡も望遠鏡も

 11月に入った。
この一か月、自分の中の、不動さんへの感情を仔細に観察し続けた。
 いよいよ気持ちが何も向かわず、それなのにまるで電気信号のように不動さんの顔が脳裏にチラチラと現れる度に少しずつ、彼への苛つきを募らせるようになっていった。

 私は昔から、その人の発するエネルギーの心地良さで男性を好きになる傾向があったし、なんなら世間のカップルや夫婦たちだって、見た目が好みだからとか趣味が合った

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第32話 月明かり纏う羽衣

第32話 月明かり纏う羽衣

(つきあかりまとうはごろも)

 まどろみの中、「自分の内側、自分の内側」と呪文のように内観する。
 根(こん)を詰めると脇目も振らず、義務かのようにひとつのことに集中してしまうのは、果たして私の長所なのか短所なのか……。

 はっきりと目が覚めてもいないうち、意識が朝の気配を軽くかすめとっただけだというのに、私の一部はすでに感情の観察に入る。
 だけど残りの意識がまだまだ葛藤していて、たぶんもう

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第31話 見つめる

第31話 見つめる

 あきらのリハビリは週に二回。
五時間目が終わったら、クラスメイトより一足先に早退させて、車で病院へと向かう。
 奈良から帰ってきて、もう四回はリハビリに通ったというのに、不動さんとの現実面は今日も動かなかった。
 ラファエルから「あなたおじさん系お母さんになってるよ」と教えられて自分を顧みて、私はひとつ、現実を変えたというのにな……。

 今まではずっと、履くものといえばズボン一択だった。子育て

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第30話 忘却の向こう側

第30話 忘却の向こう側

↓大きな大きなうねりの時。
選択するのはあなただよ↓

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忘却の向こう側

 十月の満月。ライオンズゲートから、およそ二か月経っていた。
 ちょうどその日けーこから、「ひみ最近どうしてる?」と電話がかかってきた。
 なんでも運転中の私を偶然見かけて、なんとなく気になって思わず電話してきてくれたとのこと。

 不思議なことに真っ先に感じたのは、お互いに色々抜けたなという感覚。
 けーこ

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第29話 ねじれの位置

第29話 ねじれの位置

↓ご機嫌いかが?今日もmeetooへようこそ。
もくじはこちらから↓

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ねじれの位置

 旦那が仕事から帰宅すると、温め直した一人分の夕飯を食卓に用意する。

 あきらの入院生活のほとんどは六人入る大部屋で過ごしたが、その中でも命の危険が特に高かった数ヶ月は、ナースステーションに併設された重篤患児の部屋にいたためテレビのない生活をしていた。
 当時はDVDくらいしか痛みを紛らわせる

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第28話 緑の人

第28話 緑の人

↓ひとりで苦しまなくていいよ。
あときっと、来てくれたら軽くなる。↓

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緑の人

 洗面所の鏡の前は、私にとって「繋がり」のいい場所のひとつ。

 奈良から帰宅して数日、喉の奥の小骨のようにずっと引っかかっていたタケミカヅチの剣のことを、もう一度きちんと思い浮かべる。
 今度こそはっきりと玉石社のオオナムチにお返しすることを意識すると、鏡の自分と一瞬はっきり見つめあってから深く目を

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第27話 自分のこころ

第27話 自分のこころ



↑闇を直視し光を届けるお手伝い♪↑

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自分のこころ

 たくさんの人が病院の階段を降りてくる。 

 最近の病院の職員は皆カラフルで、昔みたいに白一色のイメージではない。
 以前小児病棟の看護師さんから、「先生たちは白着てる人が多いけど、上下赤とか上下黒じゃない限り誰も何も言わないし、うちではみんな自分の着たい色を着てるのよ」と教えてもらった通り、紺やグレーのダークカラーからピ

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第26話 あかね空

第26話 あかね空



↑セッション受付中

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あかね空

 店を出ると雨は完全に上がっていた。

 たった二日間でここまで仲良くなった、SさんとTさんとのお別れも近い。
 というのも、大阪から合流した彼女たちは解散予定場所である南紀白浜空港までは向かわず、途中の駅から電車に乗って帰るという。

 少しだけ「小説」の世界を離れ、著者として個人的なわがままを言わせてもらえるならば、二日間の一期一会、この二

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