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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説

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フリムンという言葉は沖縄の方言で、バカ・愚か者という意味で使われる。この物語は、日本最南端の石垣島に生まれ、後に全日本空手道選手権大会を制する田福雄市氏の空手人生、そしてフリムン…
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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第10話 七転八倒編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第10話 七転八倒編(3)

【肉体改造】ウエイトトレーニングに没頭するフリムンに、師範から昇段審査を受けるよう指令が出た。

弐段を許されてから5年後のことであった。

前回の審査の時と違い、現役を退いてからかなりの年月が経っていた事もあり、フリムンは審査に向けある事に着手した。

そう、筋肉の質を変える「肉体改造」である。

空手用の筋肉とパワー用の筋肉は全く違う。

パワー競技に筋持久力やスタミナは必要ないが、空手の試合

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【自伝小説】第1話 幼少時代(1) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島  

【自伝小説】第1話 幼少時代(1) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島  

空手フリムンとは?

フリムンという言葉は沖縄の方言で、バカ・愚か者という意味で使われる。この物語は、日本最南端の石垣島に生まれ、後に全日本空手道選手権大会を制する田福雄市氏の空手人生、そしてフリムンな半生(または反省)を描いたノンフィクション作品である。
(記:月刊まーる編集部)

序章

 巨木がひしめく森で視界を遮られ、天を仰いだその視線の先から僅かに覗く星空に思いを馳せる。そんな表現が適切

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【自伝小説】第2話 小学校時代(1) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第2話 小学校時代(1) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

屋根より高い鯉のぼり

 毎年5月5日(こどもの日)になると思い出すことがある。少年が、まだ低学年の頃の話しである。

祖父がなけなしの給料をはたいて買ってきた小さな鯉のぼり。それを門柱に縛り付け、少年に誇らしげに見せていた時の事である。

貧しかった我が家に、まさか鯉のぼりが泳ぐ日が来るとは夢にも思わなかった少年は、心の底から大喜び。祖父の腰に手を回し、歓喜した。

祖父もさぞやご満悦だったこと

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【自伝小説】第2話 小学校時代(2) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第2話 小学校時代(2) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

血ぃーごーごー事件

 突然、辺り一面に悲鳴がこだました。そこは某小学校のグラウンド。少年野球チーム、「武蔵」の本拠地だった。まだ5年生ながら、そのチームのキャプテンを務めていた少年。

その日は練習日ではなかったが、気の合う仲間たちと休日を楽しんでいた時に事件は起きた。

 当時、その学校のバックネットは、4m程の角材に緑色の網を縛り付けただけの即席ネットであった。そんな弱々しいバックネットに、

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【自伝小説】第2話 小学校時代(3) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第2話 小学校時代(3) |最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

未来少年

その頃の石垣島にはまだ民放はなく、テレビ放送はNHKのみ。更に少年が5年生になるまでアニメ放送は皆無で、子ども向けに放送されていたのは人形劇のみであった。

その日、石垣島に激震が走った。遂にお茶の間でアニメが見られる日が来たのだ。

子どもたちは飛び上がって歓喜し、「ビートルズがやってきたYAYAYA」どころの騒ぎではなかった。

そんな記念すべきアニメ放送の第一弾は、未だ根強いファ

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【自伝小説】第4話 高校編(1)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第4話 高校編(1)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

FIRST LOVE(初恋)

何だかんだあった中学校生活(あり過ぎやっ)、

入試直前に「深夜徘徊」と「無免許運転」で補導されたにも関わらず、奇跡的に県立Y高に入学する事ができたのは、これが初犯であった事と、先生方へのウケが良かった事などが上げられよう。

昔からよくトラブルに巻き込まれてはいたものの、平和主義で揉め事が嫌いだった少年。それを先生方はキチンと見抜いてくれていたのだ。

ただ、そん

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【自伝小説】第4話 高校編(2)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第4話 高校編(2)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

ケンカ空手
部活を辞め、町道場に通う決意をした少年。

退部した後も、顧問の先生から執拗に戻るよう説得されるも、意固地な少年の心が揺らぐことはなかった。

これが少年の良いところでもあり、悪いところでもあった。

しかし、この一本気な性格のお陰で、俗に言うミラクルを何度も引き起こすのだから、それはそれで良かったのだろう。

ただ、それもまだまだ先の話しである。

それから暫くして、知人の紹介で極真

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【自伝小説】第4話 高校編(3)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第4話 高校編(3)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

魔法の言葉極真ルールでは反則となる投げ技によって、かなりのダメージを負ったフリムンだったが、痛みよりも感動の方が遥かに上回っていた。

それは男に掛けられた言葉にではなく、自分のような相手に本気を出してくれた事。そして形振り構わず「投げ技」まで繰り出してくれた事。

その事に対し感動を覚えていたのだ。

そう、県内トップクラスの実戦空手家に、彼は本気を出させた事になるからである。

「俺は…確実に

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【自伝小説】第4話 高校編(4)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第4話 高校編(4)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

虹とスニーカーの頃強さに憧れるが余り、これまでファッションには殆ど興味の無かったフリムンだったが、イキりだした頃から少しずつヤンチャなファッションに傾倒していった。

開襟シャツやツータックのボンタン。それと先の尖った革靴が欲しくて堪らなかったフリムン。

バイトの新聞配達も辞め、遊び呆けてばかりで金欠だった彼は、程なく知り合いから「お下がり」を「おねだり」するようになっていった。

そうして何と

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【自伝小説】第4話 高校編(5)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

【自伝小説】第4話 高校編(5)|最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島

ブロークン·ハートそんなフリムンが酒とタバコを覚え始めた高2の春の事である。

高1の時には一度も会ったことの無かった、ある女生徒が目の前の席に座った。

あのトンボ先生の授業、生物の時間である。

背中越しにチラ見えするその横顔に、ドキッとしたのを今でも覚えているという。

その日から彼は、彼女と会える唯一の時間、生物の授業が待ち遠しくて仕方がなくなった。

もちろん、生物なんて1ミクロンも興味

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第4話 高校編(6)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第4話 高校編(6)

嗚呼·花の応援団そんな高校生活も中盤戦を終え、いよいよ最上級生となったフリムン。待ちに待った3年生の始まりである。

ちなみにその時代の市内三高校には、陸上競技や各種スポーツ競技でスポットライトを浴びる憧れの団体が存在した。

そう、泣く子も黙る「応援団」である。

当時の応援団は、最上級生を応援リーダー(1軍)に置き、残りの2~3年生をサブリーダー(2軍)として控えさせる二段構成となっていた。

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(1)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(1)

花の都数あるスポーツの中から格闘技を選び、数ある格闘技の中から空手を選び、数ある空手の中から極真を選んだフリムン。

彼の細胞が、キョクシンの世界観にドンピシャに反応した結果であった。

そんな極真の黒帯を取得し、石垣島に極真空手を広める。その夢の実現のために上京を決意して早1年。

フリムンは19の春を迎えていた。

漸く辿り着いた夢にまで見た大東京。フリムンがそこで見た光景は、余りにも発展した

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(2)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(2)

救世主声が聞こえた方向に目をやると、作業服を着たおっちゃんがタバコを銜えながら立っていた。

いきなり店の入り口からホフク前進で男が出てきたのである。きっと驚いたに違いない。

その声を聞いた瞬間、フリムンは心の中で神に感謝した。

しかし、それで痛みが消えるわけではない。

声を振り絞り、事の次第を説明しながら救急車を呼んでくれるよう哀願した。

すると、そのおっちゃんが「兄ちゃん少し痛むぞ」と

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【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(3)

【自伝小説】最南端の空手フリムン伝説|著:田福雄市@石垣島|第5話 上京編(3)

東京ラブストーリーそれから数ヶ月後、そろそろ労災が切れるとの事でフリムンは東京に引き返す事にした。

もちろん、時間差で彼女も後を追い掛ける約束をしてくれた。

帰省時と違い、東京に戻る時のフリムンはまるで別人だった。

これから始まる「東京ラブストーリー」を想像しながら機上の人となったフリムン。

東京に着くまで、ずっとニタジー(ニヤケ顔)が止まらなくなっていた(笑)

それから更に数ヶ月後、彼

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