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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2024年3月の記事一覧

『仕事をクビになったよ』

『仕事をクビになったよ』

仕事をクビになったよ

これから先どうしよう

ぼくがいた世界は

とってもきびしいところ

定期的な人気投票で

下位の何人かは

どうしてもクビにされてしまう

そしていちどクビになったら

二度と復帰はできないし

それまでのキャラクターを

完全に封印しないといけない

つまり新しい生活を始めるには

社会的にいったん

しんだことになって

これまでの人格?を

リセットする必要があって

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『バチェラーとバチェラー』

『バチェラーとバチェラー』

俺は毒を飲まされて

もうそんなに長くはない

っていうかあと数十秒

もって数分でしぬはず

かんぜんに油断していた

こんやはとっても楽しい

元・奥様会のつどいだった

元・奥様ていうのは

俺の元妻たち

十二人

いや

十三人だったかな

まあそいつらと集まって

飲めや歌えやする会

俺はいま独身だし

なんにもやましいことはない

なんせみんな

別れるときには

気持ちよく

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『先輩との昼飯は決まって』

『先輩との昼飯は決まって』

「けっきょくこの春はベースアップなしだってな、よそはみんな給料上がっていくのにウチだけ取り残されてる気分だよなまったく、お前なんとかしてくれよ」

先輩との昼飯は決まって

「第二課の犬吠埼主任だけどさ、あいつなんて俺より後輩のくせにいつのまにか昇給しやがってさ、けっきょく胡麻摺るのがうまいだけなんだよ」

悪口と

「いやはっきりいっておまえはまだまだ足りないと思うよ、この春で2年目だろ?俺がそ

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『ままのえすえぬえすをみてる』

『ままのえすえぬえすをみてる』

ままのえすえぬえすをみてる

ぼくのうまれたころからずっと

ううん

そのまえからある

でもぼくがうまれてからは

ほとんどぼくちゅうしん

ぱぱはいないって

なんとなくぼくはしってる

だけどままは

しごとのあいまに

いろいろなところへ

つれていってくれて

たのしいおもいでがたくさん

このえすえぬえすにも

いっぱいしゃしんがあるから

ぼくもなつかしいきもち

ただひとつだけ

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『赤面人形』

『赤面人形』

その人形は

助平な言動を耳にしたり

破廉恥な行動を目にしたりすると

顔を真っ赤にするという機能があり

ある新婚夫婦が知人から

結婚祝いの品として

その人形を貰い受けた

ふつうそんなものを貰ったら

怒るのが相場かもしれないが

めずらしもの好きのこの夫婦

おもしろそうだといって

寝室のベッドの淵に

腰かけさせたんだとか

どんなふうに

赤面するんだろう

期待に胸や色々な箇所

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『行列のできる結婚相談所』

『行列のできる結婚相談所』

行列のできる結婚相談所があるときいた

その歴史は古く

戦前から今に至るまで

客足は途絶えていないというから

驚くほかはない

大手企業による運営でもなければ

オンラインでのマッチングでもなくて

特徴というか

すこし変わったところといえば

その場所

都会から少し離れた郊外

ニュータウンの開発とは縁のない

古くからある住宅街のまんなかで

ひときわ存在感を放つ邸宅がある

その家

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『送別会にて』

『送別会にて』

嫌われている

俺は上司から

とても嫌われている

と思っている

俺の挨拶だけ無視をされる

なんてのはまぁ良い

俺の提出した書類だけ

いやにケチをつけてくるし

承認も遅い

だから仕事に影響がある

俺が嫌われるだけなら

別にかまわない

ただつまりは俺の部下まで

そのあおりを受けるということ

「正解は”うさぎ”でしたー!Aテーブルのみなさんおつかれさまでした!ではお次、Bテーブ

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『不老不死の薬ができた』

『不老不死の薬ができた』

とおい昔

ある国のある大臣が

クーデターを試みた

方法は毒薬による暗殺

すべての権力を

ほしいままにしていた国王は

そのチカラを永遠のものとしようと

不老不死を強く願っていた

国民はもとより

取り巻きのものに強く当たるから

それを快く思うものなど皆無だった

不老不死の薬ができた

そんなのはもちろん嘘で

毒薬をそう伝えて飲ませようと

その大臣は考えた

「今宵お眠りになる

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『戦争とスパイ』

『戦争とスパイ』

我が祖国が敵国Qの首都を制圧した

しかもQ国の誇る重戦車部隊を

完全無人かつ全自動化された

ドローンを以って

そんな報せが世界中を

駆け巡った

完全無人かつ全自動化された

ドローンが

重戦車部隊を押し退けて

数多の人命を奪ってしまう

そんな世の中に

なってしまったのだ

私はひとり

コーヒーをすすりながら

ニュースに写された映像を

ぼうっと眺める

ところがQ国の首都

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『ローアングル』

『ローアングル』

土日は色んな意味でゆるむ

だからやりやすい

休日でも混雑している

ターミナル駅の

エスカレーター

身なりだけは

清潔に整え

お手製の腕章を巻いて

何か問われたら

名刺を差し出して

「資料用映像です」と

これだけでじっさいに

これまで幾度も難を

逃れてきた

みんなそのくらいの

努力はしなくちゃ

いい画は撮れないよ

※フィクションだからね。発狂しないでよね

『タバコを買いに』

『タバコを買いに』

おかしいな

ここの角を曲がったら

タバコの自販機が

あったはずなのに

もうひとつ手前だったかな

引き返してみよう

ないな

自販機

もしかしてさっきの角

右に折れるんだったかな

間違えて僕は

左に折れてしまったよ

おっちょこちょいだな

さっそく戻ろう

あれ

右でもなかった

うーん仕方ない

もう少し先の

タバコ屋さんに

行ってみよう

あれ

タバコ屋さんがないぞ

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『伯父』

『伯父』

「彼氏は連れてこないのか」

「そろそろイイ歳だぞ」

「周りはみんな嫁に行ってるだろ」

近所に住む伯父は

時代錯誤が甚だしくて

いつもわたしに

無用なお世話を

伯母さんのほうも

とくに咎めるでもなく

ニコニコ頷いていて

悪気がないから

たまったものじゃない

それで



わたしは結婚するよ

結婚式はもう

両親と友達だけで

つつましくしようとしてた

でも夫のほうが

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『必要悪』

『必要悪』

「Q国政府の隠し財産の洗い出しが完了しました。およそ半分は、十数社に渡るペーパーカンパニーの名義でS国のプライベートバンクに、残りの半分はこれまたさまざまな個人投資家の名義で世界中の株式や公債のカタチで保有されています。これがそのリストです」

「ごくろうさま」

きょうの刑務作業が終わった

風呂場へ向かう

規則では10分だが

俺は入念に身体を洗い

それからゆっくりと湯船に浸かる

この時

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『「サプライズですよ」』

『「サプライズですよ」』

中東でいちど乗り継いで延べ二十数時間のフライトの末、国際空港に降り立った。僕は雲一つない春の晴天に感謝しつつ大きく深呼吸をする。

途中にスラム街があることは知っていたので、市街地までは地下鉄を利用せずにタクシーを使うことにする。

ただし客引きをしているドライバーは信用ならないので、カウンターで紹介してもらい事前に価格を確認のうえで乗車する。

ハイウェイを少し走ったあと、時期にビル群が見えてき

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