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『必要悪』


「Q国政府の隠し財産の洗い出しが完了しました。およそ半分は、十数社に渡るペーパーカンパニーの名義でS国のプライベートバンクに、残りの半分はこれまたさまざまな個人投資家の名義で世界中の株式や公債のカタチで保有されています。これがそのリストです」


「ごくろうさま」




きょうの刑務作業が終わった



風呂場へ向かう


規則では10分だが

俺は入念に身体を洗い

それからゆっくりと湯船に浸かる


この時期は肌の乾燥が気になるから

化粧水や乳液も用意させる

男の受刑囚だって

そのくらいの権利はある




食事の時間


甘い食前酒なんていらないから

ビールにしろと言っているのに

ここの料理人がカブレているせいで

まどろっこしいメシばかりだ

あとで看守にカップラーメンを

持ってこさせよう




自由時間


ネットをしばしうろつく


プログラマーやハッカー界隈の情報

政治経済に軍事の同行など

表裏を問わずに仕入れる


それから腕を鈍らせないための

プログラミングのトレーニングをして


疲れが回ってきたら

オンナを呼べとまでは言わない

工口動画をみて自分を癒す




おっともうだいぶイイ時間だ

本来の消灯時刻はとうに過ぎている


ところが俺はこうやって

この狭苦しい刑務所で

自由にさせてもらっている




なぜそんなことができるのか





それはこの刑務所の受刑者が

俺ひとりだから


そして


俺という天才ハッカーを除いて

この高度に治安統治された国家に

犯罪者などいないから


そういう仕組みで

ここは動いている



至極先進的な社会




ああそうだ

カップラーメンまだかよ


ほんとつかえねえ看守だな













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