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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2021年12月の記事一覧

『「それはお前がホンモノを』

『「それはお前がホンモノを』

「それはお前がホンモノを知らないからだよ」

はじまった

友人お得意の演説

それはホンモノを知らないからだよってやつ

まぁ元はといえば

俺の発言が火をつけてしまったんだけど

「だってなぁ…旨いじゃん母ちゃんの手作り」

お前ん家はいいよな

ウチはちがうんだよなぁ

そもそも料理すらまともに出てこないから

「そのために帰省するって言っても過言じゃない」

年末年始の帰省は

カネもかか

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『言い出せなくって』

『言い出せなくって』

「お正月くらい帰ってきたら?」

もう

うるさいな

どうせ妙な縁談とか

「いい人のお話もあるんだけど」

ほらね

やっぱり

「だってもう来年は34?35?」

わたしだって帰郷したい

でも母のこういう言動が

わたしを郷里から遠ざける

「いつまでも東京で遊んでるのもねぇ」

母からすれば

上京して一人前に働いているわたしは

遊んでいるように見えるんだね

いいかげんうんざりだよ

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『北極圏にその島はあって』

『北極圏にその島はあって』

北極圏にその島はあって

世界中のあらゆる都市と

直行便で繋がれており

老いも若きも問わず

富める者たちもさることながら

比較的貧しい層に属する者たちも

その島に集まるという

フライト代はかからない

滞在中の宿泊費や食費はもちろん

ちょっとしたアクティビティも

すべてが無料

来訪者にサービスを提供する労働者は

大変な賃金で迎えられるというし

何よりビザが必要ない

島内での

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『「笑顔なら、誰にも負けません!」』

『「笑顔なら、誰にも負けません!」』

「特技はダンスです!」

「ほう、なにかスポーツをしていたのかな?」

「はい!サッカーを小学校からずっと!」

「他にアピールしたいことはある?」

「笑顔なら、誰にも負けません!」

ウチみたいな弱小事務所が

アイドルなんて育てられるわけないんだよ

そもそも今ウチには

”演技派”の脇役俳優しか

所属してないんだから

社長は

5人組の歌って踊れて

トークも演技もばっちりな

さわや

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『希望らんらん 夢はあふるる』

『希望らんらん 夢はあふるる』

父は郷里で精肉店を営んでいたものの、戦時末期の物資不足ゆえに店をたたむことを余儀なくされた。幸い仕入れに顔が利いたから、都会へ出て闇市でそれなりの、ときには平時より儲けることができた。

私は幼時、その闇市で下働きをさせられた。歳の離れた兄二人はともに南方で名誉の戦死を遂げていた。

終戦を迎えたのち、蓄財した父は母の待つ郷里へと帰った。いっぽう私は都会に残り小商いを続けた。米軍から流れてきた自動

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『とても記憶はあいまいで』

『とても記憶はあいまいで』

とても記憶はあいまいで

小学校低学年の頃

視聴覚教室で観せられた

よくわからないフィルム

たしか砂漠の風景と

アマゾンかどこかの

ジャングルの風景

自然を大切にしましょう

そんな感じだったと思う

これといって

特別な瞬間でもないのに

何年経っても

いくつになっても

なぜか覚えている

そんなことって

あるでしょう

もうひとつは

包丁で背中を刺されたこと

同級生が家

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『永眠塾』

『永眠塾』

二度見した

電柱の前を

いったん通り過ぎたけど

わざわざ戻って

ポスターをよく見れば

英語でも数学でもなく

文字通り

永眠の仕方

浮世からの上手な別れ方を

教えてくれる

そんな塾のようだ

月謝がなんだか高い

それは置いといて

キャッチコピーはこんな感じ

”あなたはぜんぜん怖くない

あなたはなんにも痛くない

周りは誰も悲しまない

周りに迷惑かからない”

はぁと溜息

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『とんかつの一切れを』

『とんかつの一切れを』

とんかつの一切れを

箸でつまんで

俺の顔めがけて

投げてきた

そもそも苛立っていたところへ

そんなことをされたら

余計に腹が立つ

食べ物を粗末にしたことも

許し難い

弟はいい歳をして

衝動的な怒りを

不器用に発散することがあって

ランチタイムで店は混雑しており

多少の声はかき消されたとはいえ

だいぶ迷惑な話

思えばとんかつは

ヒレとロースと

どっちが旨いかっていう

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『さぼりうむぷらざ'88』

『さぼりうむぷらざ'88』

♪アタッシュケースに漫画を詰めて

♪二十四時間いつでもおいで

勇ましくも軽快なBGMが流れる

♪サボリーマァン

♪サボリーマァン

♪ジャパニーィズサボリーマァン

さぼりうむぷらざ'88は実に良い

モーレツ働きマンになれない

なるつもりもない

サボリーマンにとっての

このうえない憩いの場

漫画を詰めておいでと

BGMでは歌っているが

来てみれば実際に

漫画などは飽きるほど

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『無い知恵を働かせ』

『無い知恵を働かせ』

深い渓谷を挟んで

右岸の村と

左岸の村が

対立した

発端はほんのささいなことだが

このままでは

両村ともに意地があるからと

決着をつけることになった

殴り合いでも

話し合いでもなく

綱引きで

両岸を大きな綱が結んだ

力自慢がこぞって

用意はじめの合図とともに

精を出した

平和的な解決かと思えば

そうではなくて

敗れれば深い谷の底に

もろとも落ちるわけで

勝負は

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『R先輩も網越しにニッコリと』

『R先輩も網越しにニッコリと』

「網変えてください」

このお店に来て

もう3回は聞いたかな

わたしはレバーが苦手なんだけど

目の前の新しい網に置かれているのは

その絶品と言われるレバー

うちの課のオツボネR先輩の

お肉へのこだわりはとても強くて

まずお酒は禁止

ライスなんてもっと禁止

わたしは焼肉だったら

お米はいらないけど

ちょっと飲みたいんだけどな

ついついお店に入った瞬間

ビールを頼もうとしてし

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『パーティはこれからがヤマ場なんだけど』

『パーティはこれからがヤマ場なんだけど』

パーティはこれからがヤマ場なんだけど

そんなことはおかまいなしに

アタシたちは抜け出したってわけ

気持ちが高ぶって高ぶって

どうしようもなかったんだもの

急いでいたからもしかして

キッチンでオイルのボトルを倒してしまったかも

気のせいだったらいいんだけど

Cabを捕まえて

行き先はどこなのって期待したら

DAVIDは黙ったまま

情けないったらありゃしないの

仕方がないから

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『性欲を持て余している』

『性欲を持て余している』

性欲を持て余している

師走の夜は長くて

冷え切ったカラダは

ことさらに疼く

余談だが

やまいだれにふゆと書いて

疼く

そんなことはどうでもよい

俺は

性欲を持て余している

持て余しているから

夜な夜なシャベルで

アパートの庭に

穴を掘る

ありったけの防寒具を纏って

手袋がないから手は悴んで

ここの土は幸い

とっても柔らかいから

ほんの数時間で

首まで埋まるくら

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『Y子は憧れていた』

『Y子は憧れていた』

Y子は憧れていた

Y子は

コンビニはおろか

ガソリンスタンドさえもない

寒村に生まれ

そして村を出ることなく

そろそろ四十を迎える

親戚が多い

村のほとんどすべてが

縁者と言っても過言ではない

村の状況は

限界集落のそれだから

Y子より若い世代は

ほとんど都会へ旅立ち

年寄りばかりが残る

まともな病院がないこともあり

自宅で床に臥すのが当たり前

まともに治療もされ

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