『R先輩も網越しにニッコリと』
「網変えてください」
このお店に来て
もう3回は聞いたかな
わたしはレバーが苦手なんだけど
目の前の新しい網に置かれているのは
その絶品と言われるレバー
うちの課のオツボネR先輩の
お肉へのこだわりはとても強くて
まずお酒は禁止
ライスなんてもっと禁止
わたしは焼肉だったら
お米はいらないけど
ちょっと飲みたいんだけどな
ついついお店に入った瞬間
ビールを頼もうとしてしまったけど
あぶないところだった
それと食べる順番
よくわからないけど
脂身の少ないお肉から始めて
それからホルモン?
つまり
内臓系?
それで最後にカルビなんだって
わたしはホルモンが
苦手なんだよね
どうしよう
お店に来たら
ぜーんぶR先輩が焼いてくれる
それでわたしたちの小皿に置いてくれる
タレが甘いのと辛いのと2種類
それにレモン汁
お肉を置くたびに
どれに合わせたらいいかっていうのも
教えてくれる
チョレギサラダと
韓国海苔は
自由に食べていいみたい
普段は仕事に厳しいR先輩
会社の外でご一緒するのは
何気にはじめてかも
わたしの向かいにいるR先輩の
表情は真剣そのもの
飲み会だから
あれやこれやって
仕事とかプライベートの愚痴が
飛び交うのかと思ったら
普段の仕事と同じか
それ以上に真剣に
お肉を焼いている
R先輩
ほかの同僚ふたりも
なんだかオフィスにいるとき以上に
緊張している様子
ジュウジュウと
レバーが焼けていく
トングでふぁさっと
わたしたちそれぞれに
きっと最高であろう焼き加減の
レバーが置かれる
やっぱ食べなきゃだめかぁ
でも食べてみたら
意外と美味しいかも
だってこれだけR先輩が
こだわって焼いてくれたんだから
なかばわたしは自分に言い聞かせて
左手にはすぐに飲みこめるよう
烏龍茶のグラスを握りしめながら
あっ
美味しいかもレバー
R先輩
ありがとうございます
わたしの表情を読み取ったのか
R先輩も網越しにニッコリと
微笑んでくれる
「ねぇレバーはさ、お塩とごま油につけるんだよ」
えっ
わたしの知らないうちに
別の小皿が配膳されていたみたい
R先輩の目はとっても優しくて
とっても怖かった
甘タレでも
レバーはおいしかったですよR先輩