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『無い知恵を働かせ』


深い渓谷を挟んで

右岸の村と

左岸の村が

対立した


発端はほんのささいなことだが


このままでは

両村ともに意地があるからと

決着をつけることになった


殴り合いでも

話し合いでもなく

綱引きで


両岸を大きな綱が結んだ


力自慢がこぞって

用意はじめの合図とともに

精を出した


平和的な解決かと思えば

そうではなくて

敗れれば深い谷の底に

もろとも落ちるわけで


勝負は拮抗した


日が暮れる


相手の声こそ聴こえれど

姿は見えなくなる


あわせて雨が

ぽつりぽつり


休むものが現れたのか

互いに引っ張る力が弱くなる


梟が鳴く頃合いになると

雨はいっそう強さを増した


無い知恵を働かせ

右岸の村人たちは

自慢の大きな欅に


左岸の連中は

村の象徴とも言うべき

一本杉に

それぞれ綱を巻きつけて


三々五々

夜が明けるまで持ちこたえるよう

祈りつつ眠りについた


互いに

相手は夜通し綱を引いている

なんとも愚かな連中だと

そんな思いを持ちながら


暗いうちに雨はすっかり止んで


雀の鳴く白みのなか

さてまた綱を引くかと

郎党どもが大木の元に出向く


欅と杉は

どちらも根元を残して

姿を消していた


谷底深く見遣れば

綱を胴に巻いた大木が二本

頂を重ね合わせて倒れている


皆驚き

あぁやっぱりずるはいけねぇ

罰が当たった

ここは素直に負けを認めて

あらいざらい相手に謝らねぇと


同じ気持ちを抱えながら

それぞれの村人たちが

大木の立っていた辺りから少し下流の

両村を繋ぐ橋のちょうど真ん中で

落ち合った


「うちの負けだ夜中は木にくくりつけて

「そうか実はうちもおんなじことを


双方の告白に双方が戸惑い

罪悪感に苛まれた


「悪いことはできねぇもんだな

「まさしく


両村の不毛な争いはそこまでとなり

めでたしめでたしと思いきや


昨夜からの雨ゆえの増水で

大欅と一本杉が下ってきて

橋桁にぶつかった


安普請の橋はぐらついて

やがて落ちる


村の男たちは皆流されて




---エピローグ---


村に残された女子供老人は

男どもに内緒で貯め込んでいたカネもあり

なんだかんだで暇を持て余し

ネットフリックスとアマゾンプライムで

ドラマやアニメ漬けになったという

ちなみに

大欅と一本杉の跡地にそれぞれ

電波塔を建てようかとの話も出たが

光回線引けばよくね?という話になって

結局はほったらかしのようだ




















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