見出し画像

『永眠塾』


二度見した


電柱の前を

いったん通り過ぎたけど

わざわざ戻って


ポスターをよく見れば

英語でも数学でもなく

文字通り

永眠の仕方


浮世からの上手な別れ方を

教えてくれる

そんな塾のようだ


月謝がなんだか高い

それは置いといて


キャッチコピーはこんな感じ


”あなたはぜんぜん怖くない

あなたはなんにも痛くない

周りは誰も悲しまない

周りに迷惑かからない”


はぁと溜息をついた


俺なんて別に

身寄りもいないし


仕事は適当に辞めて

アパートは解約して

山奥に潜り込んだら

睡眠薬でも飲んで

酒をくらって


わざわざ習う必要もないな


そう思ってまた俺は

歩き始めた


自宅に着くころには

ポスターのことなんて

すっかり忘れて


暇つぶしに

ネットを徘徊すると

また永眠塾のバナー広告


案外手広くやってるんだな


ピンポーン


チャイムが鳴る


宅配便かと思い油断して

ついドアを開けたら

ダークスーツに身を包んだ

セールスマンだった


名刺を差し出される

そこには「永眠塾」の文字


ドキリとした


俺は小一時間

営業マンにつかまって

とくとくと永眠塾のすばらしさを

プレゼンされたってわけで


いや死に方なんてわかってますと

こちらが言えば

いいえそんなんじゃだめですと

意味のわからないダメ出しが


嫌気が差した俺は

警察を呼びますよと言って

その男を追い返し…


っとその前に


ところでなんで

俺のところに来たのと

最後に聞いてみた


男の顔は

この馬鹿やっと気づいたかという

呆れ顔で


訊けばどうやら

俺の寿命はもうすぐ終わり


だから

電柱やらバナーやら

ステルス広告を出していたけど

一向に反応がないから

わざわざ出向いたとのこと


なんだかすいませんね


死神も進化してんだな

いちおう


ちなみに最近は

”あの寿命の蝋燭”もすっかり廃れて

バーチャル化されてるんだって


さて酒でも飲んで寝るか

あぁついでに睡眠薬も








この記事が参加している募集

スキしてみて