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舌切隹
2020年11月12日 20:15
「生きている意味は無い」「死ぬべきだ」という言葉を巡って、ある一つの問題がある。つまり、その言葉は、――〈女〉として、身体として――鬱病の症状や、たまたま嫌なことがあった日の愚痴であるのか、それとも――〈男〉として、精神として――合理的に推論された学的主張であるのか、という問題である。つまりは、Negativismusを「反抗癖」と訳すか「否定主義」と訳すかという問題である。 ここで、絶望の
2020年7月4日 17:42
夏で、梅雨で、うんざりしてた。汗腺を塞がんとばかりに吸い付いてくる布。そこら中の雨粒の輪郭をくっきり浮かび上がらせる車のライト。水しぶき。どうせなら最初から傘なんて差さなきゃよかったとぼやく足先。きっと手提げの中身もしわくちゃだ。ひょっと商店の看板に腕をぶつけたら、こすれたところに灰色の垢の塊が出ていた。 家についたらすぐに風呂に入った。でもその後は中々その密室から出られなかった。こすったの
2020年6月9日 13:58
昼寝して、長い夢を見た。夢の中で二、三回昼寝した。夢の中で、地元にいる兄が下宿先までやってきて、それにお構いなく私は昼寝した。目が覚めると(まだ夢の中である)、枕元に並べられた本の配置が変わっていて、不思議に思ってなんとはなしに目をやるとその本たちの影に酒瓶が横たわっていた。言うまでもなく兄の仕業である。今度こそ本当に目が覚め夢が終わると、やはり本の配置は元に戻っていて、酒瓶なども無く、兄ももちろ
2020年6月9日 13:57
ひとは「~な人は馬鹿だ」と言い、「~な人」に憎悪を振り向ける。そしてその憎悪を目撃した他のひとが、また「~な人」への憎悪を募らせる。...しかし、実は「~な人」なんてまるで見たことがないのだ。まったく奇妙なことに、「~な人」に対する憎悪が先に存在し、その憎悪が集積し収束することで、「~な人」がそこに存在するのである。しかも、「~な人」はやがて透明人間をやめ、ひとの身近に現れるのである。つまり、「~
2020年4月6日 23:13
ある師が次のように言った。これからする話は、君たちのためにする話である。分からない言葉が出てきたら、気にせず聞き飛ばして、分かるところだけ拾いなさい。 哲学が有しているいくつかの真理の内に、非常に手のかかる子が居る。あまりに捉えどころがないので名付けるのも一苦労である。そうするとまずここで語り始めるのもままならないので、とにかく名前を付けようと思う。原-エクリチュールの暴力、甚だ。「エミリー」
2020年4月4日 13:29
エミちゃんは僕の話を聞かない。エミちゃんは幸せならそれでいい。エミちゃんは快楽主義者である。エミちゃんは不平不満が多い。エミちゃんは自分に甘い。しかし、エミちゃんだって苦労しているからではないか?もちろんそうだ。彼女には彼女が抱えているものがあって、それを我が身の上にずっしり感じられるほど僕が成熟していないのはきっと事実だ。しかし、そのことは道徳の理念を、いや、ただ人の話を聞くというだけのマナー
2020年4月4日 12:58
僕の彼女は笑う。だからここでは「エミちゃん」と呼ぶことにしよう。 彼女が居る場に笑いと笑顔は絶えない。それは何も、エミちゃんがセンスのあるコメディアンだという話ではない。その場を笑わせるのは必ずしもエミちゃんではない。確かなのは、エミちゃんが、笑いで包まれるような場を醸造するということだ。エミちゃん本人も人を笑わせるし、エミちゃんが作り出す雰囲気(=雰として囲む気)が、笑いを誘い、また人を笑
2020年3月23日 02:20
視覚を持たない者の視野ーー仮にそんなものがあるとしてだがーーは、真っ黒ではない。病室で目を覚ます者の視点から描かれた漫画のヒトコマはその上下にベタ塗りの黒い帯を伴っているが、そのような地帯は実在しない。では何色か。いや、その問題の立て方は誤っている。そもそも「色」なる概念が盲目については不適切である。そもそも視覚が無いのである。だから、両目を瞑ってみても無駄である。しかし、その試みが全く無意味だと
2020年3月18日 11:17
私は罪を犯していました。そのことを思い出すことによって、一挙に全ての罪が現れました。私は罪を犯し続けてきました。私はある人に涙を流させました。その人の気持ちをいとも容易く踏みにじりました。そして最近、その人が恵まれない境遇にあることを知りました。恐らく私は、恵まれない境遇にあったその人を、そのことに気付くこともできない恩寵と平安の元で、まるで散歩道の雑草を踏むかのようにして、傷付けてしまったのです
2020年2月1日 03:45
肌寒い、なんて言うのも生ぬるい冬の夜だった。体の芯から、というより、腕の骨が金属じみた冷え具合で、ひたすら痛かった。なにか魔法の力で生命体の一部が無機物に変わってしまったらこんな感覚なのかなと夢想した。 画面の向こうで友人が泣いていた。それはほんの短文の羅列であったが、それだけに一層その泣き声は痛烈だった。けれど、彼女は私とそれほど親しいわけでもなかった。確かに一度、友人たちとの食事会で同席