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長編小説 ロング・キャトル・ドライヴ

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連載小説   1890年代 アメリカを舞台に フェルディナンドとユーレク 少年二人の旅を描きます。
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記事一覧

#創作大賞2023 「ロング・キャトル・ドライヴ 第一章 "ユニコーン編"

#創作大賞2023 「ロング・キャトル・ドライヴ 第一章 "ユニコーン編"



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一、邂逅

1893年 米国メリーランド州
ボルチモア

俺の名前は
フェルディナンド・ランスキー

俺が
ユーレク・ボリセヴィチと知り合ったのは
ある出来事がキッカケだった。

17歳になったばかりの頃
港湾で働いていたユーレクは
親父の店ランスキー商会に
奇妙な石を持ち込んできたからだ。

みずぼらしい身なりをした
ユーレクに対し、
親父は

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ロング・キャトル・ドライヴ  第七部 連載 2/3「彷徨いの森」

ロング・キャトル・ドライヴ  第七部 連載 2/3「彷徨いの森」

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これまでのあらすじ

木材置き場の陰で朝を迎えた。

ユーレクは驚異的な回復力を見せる。

脇腹を貫通した銃創は膿むことなくすっかりと
新しい皮膚に覆われて傷が治っている。

(たった一晩でこんなにも治るものか?)

これまでにも旅を通して
"人喰いクロウ"の爺さんの深手の傷さえも
ユーレクの手当てですぐに治ったことを
思いだした。

ユーレクが云

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ロング・キャトル・ドライヴ  第七部 連載 1/3「猫と蹄音の夜」

ロング・キャトル・ドライヴ  第七部 連載 1/3「猫と蹄音の夜」

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これまでのあらすじ

第七部

アンディーが引鉄を引いた刹那__
疾風が駈け抜ける。

目にも止まらぬ速さで何かが通り抜けたのは
アンディーには白馬に見えたが
その姿は幻のように消えてしまった。

アンディーにとっては至近距離とも言える
絶好の機会にもかかわらず
初弾を外してしまった。

街は突然の銃声に驚いて
逃げ惑う人々でごった返し
その人混み

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ロング・キャトル・ドライヴ  第六部 連載 4/4「蛇の目の刺客」

ロング・キャトル・ドライヴ  第六部 連載 4/4「蛇の目の刺客」

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これまでのあらすじ

「ジェイコブ・ロバーツ氏の逮捕について
連邦法第4条は適用されない。
事由:サザン・ベル溺死事故から30年以上
歳月が経過しており
本件の刑は時効に値する。」

とトーマスの元に電報が届いた。

それどころか
こちらの州保安局の連中も巨大な権力からの
報復を恐れてか捜査の追及が及び腰であった。

事件の鍵を握ると思われる遺留品

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ロング・キャトル・ドライヴ  第六部 連載 3/4「忍び寄る影」

ロング・キャトル・ドライヴ  第六部 連載 3/4「忍び寄る影」

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これまでのあらすじ

玄関ホールに赴くと
スキンヘッドをした恰幅の良い中年男性が
屋敷の主の登場を待ち侘びていた。

「ようこそ!ブラウン局長。
本日はどのような件でお出ましなんだい?」

ジェイコブは端正な顔を綻ばせて応対する。

快活な笑顔からは白い歯を覗かせるが
目は少したりとて笑っていない。

保安局長のブラウンも
友好的な素振りを見せるよ

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ロング・キャトル・ドライヴ  第六部 連載 2/4「甦ったフライング・ハイ」

ロング・キャトル・ドライヴ  第六部 連載 2/4「甦ったフライング・ハイ」

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これまでのあらすじ

フェルディナンドとユーレクの少年二人が
ナッシュビルの街から出発した時に話は遡る。

ナッシュビル
デイヴィッドソン郡保安局にて__

トーマス・オーウェンは
長年に渡り腑に落ちなかったことがあった。

30年前のサザン・ベル溺死事故である。

当時、ソフィアの供述や病院内の目撃者も居り
その真相については
ヒューゴなる人物が

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ロング・キャトル・ドライヴ  第六部 連載1/4 「狙撃」

ロング・キャトル・ドライヴ  第六部 連載1/4 「狙撃」

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これまでのあらすじ

第六部

俺とユーレクがナッシュビルの街を離れてから
一週間が経つ。

双子姉妹を巡る不思議な縁に導かれて
俺たちはヒューゴの遺骨を
ガットリンバーグの地下に眠っている
双子姉妹の下へと届けようとしている。

目的地ツーソンと逆方向に進路を取りながら
俺たちはそれぞれの運命を噛み締めるように
東へと歩みを進める。

思えば

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ロング・キャトル・ドライヴ  第五部 連載4/4「つながった刻印」

ロング・キャトル・ドライヴ  第五部 連載4/4「つながった刻印」

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これまでのあらすじ

《Je t’aime pour toujours___》

カンバーランド川岸の港は
物資運送の要衝として
港湾には人々の活気が漲り往来も多かった。

俺たちは遺体を引き上げたため
港湾で働いている人々を驚かせたと同時に
好奇の目を引いてしまい
あっと言う間に野次馬が群がってきた。

パコ叔父さんはしどろもどろしながら
事の顛

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ロング・キャトル・ドライヴ  第五部 連載3/4「泡沫に消えゆく幻」

ロング・キャトル・ドライヴ  第五部 連載3/4「泡沫に消えゆく幻」

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これまでのあらすじ

川底には仄かな灯りに照らされて
男が横たわっている。

(コポポ . . . コポポポ . . . )

俺の吐く息が泡となる音が聞こえるだけで
静寂が広がっている。

およそ20メートルほど潜った水底には
何者かの屍が横たわっていた。

(これがヒューゴの
成れの果てなのだろうか?)

南北戦争の時代から30年が経過しており

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ロング・キャトル・ドライヴ  第五部 連載2/4「慟哭」

ロング・キャトル・ドライヴ  第五部 連載2/4「慟哭」

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これまでのあらすじ

一晩明けると
パコ叔父さんは
すっかりと正気を取り戻していた。

俺たち四人は
ホテルのレストランで
英国風のフル・ブレイクファストを注文し
食卓を取り囲んでいる。

パコ叔父さんは
熱々のトーストに
マーマレードをたっぷりと塗り
嬉々とかじりついて

「おほぅ!こりゃ美味しいねー!」

陽気なスペイン系アメリカンらしい快活

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ロング・キャトル・ドライヴ  第五部 連載1/4「絹の繭」

ロング・キャトル・ドライヴ  第五部 連載1/4「絹の繭」

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ここまでのあらすじ

第五部

冒頭より__

現在ではV・I・P御用達と名高い
マックスウェル・ハウス・ホテルには
南北戦争にまつわる悲しいエピソードが
人々の言い伝えによって残されている。

そのマックスウェル・ハウス・ホテルにて
ソフィアの話が
いよいよ佳境に差し掛かかろうとした
矢先のことである。

「少し一息つかせて頂けるかしら?」

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ロング・キャトル・ドライヴ  第四部 連載2/4「密談」

ロング・キャトル・ドライヴ  第四部 連載2/4「密談」

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これまでのあらすじ

「ねえ?ソフィア。今夜お見えになった
ヒューゴさんって面白い人だったね。」

姉のアレクサンドラに
アタシ(ソフィア)は
ヒューゴについての印象を訊かれてた。

父であるジェームズが招いてくる来訪者から
物珍しい眼差しで見られることは
当初は抵抗があったけれど
いつの間にか、
この環境に慣れてしまっていた。

ヒューゴは、は

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ロング・キャトル・ドライヴ  第四部 連載4/4「枯葉」

ロング・キャトル・ドライヴ  第四部 連載4/4「枯葉」

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これまでのあらすじ

アタシ達双子姉妹が社交界にデビューしてから
ほどなくして、縁談が殺到するようになる。

光は輝くほどに、影もまた濃くなる__ 。

アレクサンドラは後悔していた。
あの舞踏会で知り合ったジェイコブが
執拗に執着してくるのだ。

ジェイコブはたびたび家に訪れるのだが
アレクサンドラは関わるまいと居留守を使い
無視を決め込んでいた

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ロング・キャトル・ドライヴ  第四部 連載3/4「ワイン色の虚実」

ロング・キャトル・ドライヴ  第四部 連載3/4「ワイン色の虚実」

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これまでのあらすじ

その夜__
ヒューゴはいつものように
明るく屈託のない話で場を盛り上げていた。

母ヴァレリーとアタシたち姉妹は
いつもと変わりなく手料理を振る舞い
歓談に花を咲かせる。

ジェームズは地下にあるカーヴから
大切にしまってあった
自慢のコレクションの中の
ブルゴーニュ産のワインを開栓する。

「さあ!ヒューゴ君。今宵はとって

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