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ロング・キャトル・ドライヴ  第五部 連載1/4「絹の繭」

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ここまでのあらすじ

第四部は全て
ソフィアが過ごした南北戦争時代の
半生を語る。

ソフィアの姉
アレクサンドラを取り巻く人間模様

時代に翻弄されつゝも
当時の若者たちの青春の日々が克明に息づいていたのだった。

第五部



冒頭より__

現在ではV・I・P御用達と名高い
マックスウェル・ハウス・ホテルには
南北戦争にまつわる悲しいエピソードが
人々の言い伝えによって残されている。

1863年9月__
何人かの南軍捕虜が階段が壊れて亡くなった。

ホテルはまたサザン・ベルと
南北戦争の衛兵だったとされる
ふたり兄妹の幽霊が出るとされた。

ひとりの女性をめぐり
嫉妬に駆られたひとりの男性が
兄妹を殺し、
遺体を運んでいるうちに
階段が壊れて亡くなったとされている。 

Maxwell House Hotel
       Wikipediaより


そのマックスウェル・ハウス・ホテルにて
ソフィアの話が
いよいよ佳境に差し掛かかろうとした
矢先のことである。

「少し一息つかせて頂けるかしら?」
とソフィアが申し出た。

ソフィア自身は話の続きがあるようだった。

しかしながら、
躰自体はパコ叔父さんの口を借りて供述するも
強打した頭部や長旅の疲れもあって
顔色に疲労の色が滲んでいるようだった。

カルロスは気を利かせて
ソフィアに諭すように話しかける。

「どうだろう? 夜も更けたことだから、
今晩はここらへんで。」

ソフィア(パコ)はうなづいた。

「それと今夜は遅くなった。
今夜は君たちも一緒に泊まりなよ?」
と俺たちに声をかけてくれた。

俺とユーレクは顔を見合わせて頷いた。
お互いに異論はなかった。

「あゝカルロス、いいともさ。
気遣ってくれてありがとうな。」
と礼を云った。

こうして、今夜は贅沢にも俺とユーレクは
ホテルに滞在することになった。




眠りに着くまでの間__

今日一日を振り返ってみても
橋の渋滞騒ぎから牛を曳いて集めたりと
躰はクタクタになっていたのだが、
ソフィアの話しを聴いてしまったせいなのか
部屋の灯りを暗くして目を瞑ってみても
俺はなかなか寝付くことが出来なかった。

二重人格、または霊的に憑依した__
と思われるソフィア

パコ叔父さんが
完全に別人格になりきっていたこと自体が
衝撃的な出来事であったし、
聴いた内容も、取り繕った感じもない。

しかし、ソフィアの話の中で
気になる部分があった。

「なあ?ユーレク。起きてるか?」
と声を掛けてみる。

「あゝ、起きてる。」
とユーレクから返事があった。
ユーレクもまた眠れないでいたらしい。

「ユーレク、不思議に思わないか?
以前にユーレクが見た夢の話しと同じで
ユニコーンが現れるってところ。」
と訊いてみる。

ベッドで横になっているユーレクも
「全く同感さ。俺たちがここに来たのは
その夢と関係しているのかも知れないな。」
と答えてくれた。

その時である。
たれか部屋の前を
通り過ぎていく足音が聞こえる__ 。

夜更けも午前1時を過ぎた頃である。

俺とユーレクは顔を見合わせる。

何者かが通り過ぎていったことを確かめようと
そろりと自室の扉を開けてみると
廊下にはたれも居ない。

ほのかな灯りに照らされた暗い廊下が続くだけで
夜のホテルは静まりかえったように
不気味な空気を醸し出している。

(たしかに気配がしたはずなんだけど?)

何故かは解らないが
この廊下の先にある何者かの存在に
惹き寄せられるように
俺とユーレクは
真夜中のホテルを探索することにした。

廊下の先にある階段付近まで来てみると
何やらささやく声が聞こえてくる。 
それは言葉としては聞き取れなかった。

身を乗り出して、階下の階段の踊り場付近を
目を凝らして見る。

そこには白髪の美しい女性の姿が
揺らめいて見えていた。

それはこの世のものでは無かった。

そのいでたちは周りの風景に溶けこむように
絹の繭で形造られたような光沢を放ちながら
半分は透けて見えているのだ。

そして、消え入るように幽かな声が聞こえた。

「んごごぐが . . . ヒューゴさん . . . 何処に . . . 居る . . 」

ユーレクは
「君はいったい、何者だ?」
と声をかけた。

人の姿をした絹繭の煙は
ノイズ混じりの声で頭の中に語りかけてくる。

「ヒューゴさん . . . ぐがが . . . 何処に . . . 居る . . . のぐぐ . . . 私 . . . 彼を探して . . . ぎごご . . . いるの . . . 」

「君は . . . ⁉︎ ソフィアかい?」
俺は恐る恐ると訊ねてみた。

「彼を探して . . . ぐががごご . . . カンバーランドの . . . 川の底へと . . . 」
と云ったきり寂しげなオーラを発していた。

次の瞬間__
絹繭の煙は躰をのけぞらずようにして
目の前から忽然とその姿を消してしまった。

「. . . ⁉︎ 」

またもや
俺とユーレクは目を見合わせる。

「見た . . . よな?」
と俺は生唾を飲み込むようにして
ユーレクに問いかける。

「あゝ、見たともさ . . . 。」
ユーレクも頷いて呆然としていた。

俺たちは幻を見たのだろうか?

その夜__
それきり、その女性の姿をした絹繭の煙を
見ることはなかった。




翌朝になって
ホテルの従業員に昨晩の出来事を話してみる。

従業員は少し困ったような顔をして

「少しホテルの外へ出られませんか?」
と促された。

人目の付かない場所に移動すると

従業員はため息混じりに
「お客様。このホテルは幽霊が出ると云う噂は
ご存知なかったのですね?」

従業員曰く
どうやら以前から地元では有名な話で
ここのホテルに幽霊騒ぎがあったことは
市中の人々の言い伝えとなっていたのだった。

噂に尾ひれはひれ付いて、巡り巡って
いつしか、
衛兵とサザン・ベルはふたり兄妹と云うことで
「兄妹は近親相姦の恋仲で
世間の目を苦にしたことから心中した。」
と云い伝えられて
人々の間では定着していると云う。

ホテルの従業員たちの中では
ふたりは兄妹などではなく、かなりの家柄の
御曹司が恋仲のふたりに嫉妬して
凶行に及んだ、または関与していたのでは?
と噂されていた。

「それは、従業員の仲間の方も
あの幽霊と話をしたんですか?」
と訊いてみた。

従業員は首をコクリと頷き

「"ヒューゴという男を探している。"と
夜な夜な女性のすすり泣きが聞こえるって
私たちの間では、そう認識してます。
オーナーからは"かなりの家柄の御曹司"は
緘口令かんこうれいが出されており
固く口止めをされているんです。」

俺とユーレクは昨夜の出来事は
幻なんかじゃなかったと確信に至り、
ソフィア(パコ)の供述と合致しており
昨日の出来事や噂の断片を繋ぎ合わせると__

タブーにされている事実が浮かび上がる。

「ユーレク?何の因果か分かんないが、
俺たちエライことに巻き込まれているような
気がしないか?」

「神の思し召しってヤツだよ。フェルニー。」
ユーレクは口元に微笑みを浮かべるのだった。





          《つづく》
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