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日本の歌が聞こえる。さまざまな賛歌が聞こえる。
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オペラ座の怪人 歌え、歌え、私のために歌え

オペラ座の怪人 歌え、歌え、私のために歌え

The Phantom of the Opera

Insolent bot, the slave of fashion
Basking in your glory
Ignorant fool, this brave young suitor
Sharing in my triumph
Angel I hear you
Speak, I listen
Stay by my side, guide

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オペラ座の怪人

オペラ座の怪人

アンドリュー・ロイド=ウェバー氏 インタビュー

『オペラ座の怪人』を作曲したときの思いや苦労された点をお聞かせください

多くの作品がそうであるように、この作品もある意味で偶然から生まれました。偶然に原作と出会い、"ここに面白い何かが潜んでいるのではないか"と感じたのです。なぜ原作との出会いが偶然かといえば、それは原作が必ずしも歴史的名作ではないからです。
『オペラ座の怪人』は初め、大衆小説とし

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Yellow Brick Road

Yellow Brick Road

At the wharf, there stand four or five red brick warehouses, and the road passing in front of these warehouses is also paved with bricks. Amidst the rising high-rise buildings, that area seemed to be

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イエロー・ブリック・ロード

イエロー・ブリック・ロード

 その埠頭には赤煉瓦の倉庫が四つ五つと建っていて、その倉庫棟の前を通る道路もまた煉瓦が敷きつめられていた。高層ビルディングが次々と立っていくなか、そのあたりは古い時代の古い時間がたちこめているようだった。煉瓦通りを抜けると広場にでる。その広場の奥には全身をガラス張りにしたレストランが建っていた。建物の半分を海にのせていて、そのテラスから海に向かって長い桟橋を突き出している。その桟橋には白や青や黄色

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Japanese Terrorist

Japanese Terrorist

On that day, Perhaps due to the approaching Japanese archipelago of the typhoon, clouds were swiftly streaming across the clear, almost piercing blue sky, and occasionally strong gusts of wind blew in

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日本のテロリスト

日本のテロリスト

その日、
台風が日本列島に接近しているためか、
抜けるような青い空に雲がはげしく流れ、
ときおり強風が吹きつけてくる。

井上樹里は、
その日も
福島駅で
福島県民二百万人の署名を
募るためのスピーチをしていた。

駅前だから
人の流れは絶えることはない。
しかし
一人として足をとめて
彼女のスピーチを聞く人はいない。
虚空に空しく
声を放っているだけの
光景だった。

しかし一人だけ、
二、三十

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PROLOGUE

PROLOGUE

"Taken from the underground holding cell and led up by elevator, I was ushered into a room at the end of the corridor on that floor. The fluorescent lights clinging to the ceiling were dimmed to an ex

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プロローグ

プロローグ

 地下の留置場からエレベーターで階上に上がり、その階の通路の行き止まりにある部屋に連れ込まれる。天井に取り付く蛍光灯の照明が極端に落とされ、灰色の壁面さえも息苦しくなる独房のような小部屋で、早朝から深夜にわたって、連日厳しく聴取されたが、その朝、耕平が連れていかれた部屋は、それまでの部屋とは違っていた。窓があり、その窓はスモークがかかって、外側には格子がはまっていたが、しかしその部屋には外部から光

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初等中等教育局長が暗殺されるその日、三件のテロ事件の報告書が届けられた

初等中等教育局長が暗殺されるその日、三件のテロ事件の報告書が届けられた

 期せずしてその朝、前日国会で追及されたばかりの三件のテロ事件の報告書の草稿が、寺田のもとに届けられた。文科省、法務省、厚労省、警察庁から出向したスタッフで編成された調査チームが草した第一稿である。「未成年者による連続テロ事件の真相及び深層へのアプローチ」と題された三百枚にも及ぶ大部な報告書になっていた。「日本列島を震撼させたテロ事件は、十七歳、十九歳、十八歳といずれも十代の若者たちによる犯行だっ

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竹取村のかぐや姫  四の章

竹取村のかぐや姫  四の章

四の章  車持皇子

 この時代、大きな戦乱もなければ、変革の波というものをおこっていない。いわば古代国家の爛熟期といったもので、この時代の貴族たちは、なにかぬるっとした平和という澱みのなかで生きていたのである。五人の皇子たちが、競ってかぐや姫に求婚したその情熱も、この平穏なぬるま湯のような時代だったからで、ちょっと熱をもった貴族たちにとって、がっちりとした体系をもった社会が息苦しかったのだろう。

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それが大地との最後の会話だった

それが大地との最後の会話だった

 大地が絵里の前から姿を消した日のことを、昨日のことのように鮮明に覚えているのは、その日の出来事を繰り返し映像としてリピートするからだろう。

 絵里と大樹は毎朝五時に起床して、階下の店舗の厨房に入って、絵里子はケーキ作り、大樹はカレーのルー作りの渦中にいる。りんりんと置き時計が八時を告げるベルを鳴らすと、絵里子はすでに大樹が煮たてているその日のカレーを鍋にいれて二階に上がっていく。「大ちゃん、時

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大地が消えた

大地が消えた


 絵里は高校を卒業すると電子部品工場の組み立て工員となった。正社員だから給料だって悪くないし、従業員の福祉厚生にもよく配慮されていて労働環境はよく整えられていた。バレーボールのクラブがあり、そこで勤務後や休日に仲間とボールを打ち合って汗を流した。毎日同じ部品をはめ込む単純作業でどこかなまっていく肉体と精神が、汗をたっぷりと流すクラブ活動で蘇生されていくかのようだった。組立工の生活はそこそこに満

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二人は性愛の世界に、心と体を溶かしていった

二人は性愛の世界に、心と体を溶かしていった

 三か月前もそうだった。実朝は、幕府に大船の建造を命じた。果たして、幕僚たちは猛烈な抵抗をした。貿易船の建造など絵空事だと。陳和卿の法螺話に乗ることだと。しかし実朝は、それらの抵抗を押し切って、船と港を建設させたのだ。

 それは実朝が、はじめて成した大きな政事的な決断だった。船は竣工した。しかしその船は、海に半身を乗り出したとたん、船底に海水がどくどくと浸水してくる始末だった。鎌倉中を、笑いの

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実朝はただ一人の女性を心に秘めていた

実朝はただ一人の女性を心に秘めていた

 実朝は台所の足をからめて、ふくよかな肉体を愛撫していた。彼の深い渇きを癒すかのように、女の体に手を這わせていく。実朝が、性愛の喜びというものをしみじみと知ったのは、この二、三年のことだった。実朝の心のなかには、いつも虚無がその暗い淵をのぞかせている。呑み込まれていきそうな深い虚無だ。性愛はつかの間、その淵から彼を遠ざけていくことでもあった。
「このところ、殿はうれしそうですね」
「そのように見え

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