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消雲堂綺談

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私は怪談奇談が好きで、身近な怪異を稚拙な文章にまとめております。
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#奇談

茂庭山(もにわやま)1

茂庭山(もにわやま)1

僕の母の旧姓は「茂庭(もにわ)」なのです。岩手県一関市の山奥の神社の神主の家に生まれたんです。茂庭の元は、福島県にある飯坂温泉の奥にある伊達郡茂庭地域が源です。斎藤実盛(現在の埼玉県熊谷を本拠とした)の近親であるという山城国愛宕郡八瀬(現在の京都府)に住んでいた斎藤行元を初代としています。

僕の父は3回結婚していて、2回目の結婚(僕には腹違いの姉がいます。会ったことはありません)の際に飯坂温泉で

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霊視者の夢 「憑依」1

霊視者の夢 「憑依」1

1.

福島県猪苗代町に住む堤東子(つつみさきこ)は、会津若松の青龍高校に通う女子高生だ。生まれつき右目が見えないのだが、ある状態に達すると視力が回復して見えるようになる。ある状態というのは、何らかの要因による精神的高揚の極限とか、そういった類いの精神状態のようである。そして見えるものは目の前の情景だけではない。一般的にそれは「霊」だと思われるのだが、確たる霊を見たことがない東子には、それが何者で

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二式大艇

二式大艇

昭和16年8月、日米開戦が近づく日本海上を同年に完成したばかりの二式大艇(二式飛行艇)が横須賀基地からサイパン島に向けて飛行していた。迫る真珠湾攻撃のための試験飛行だった。

二式大艇は、レシプロエンジンを搭載した当時の航空機の中でも群を抜いて優秀なスペックを誇っていた。飛行速度は240ノット(時速465キロ)、航続距離は偵察時7400キロ以上、B29爆撃機と比較して30%も長い。20ミリ機関砲を

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妖の間(あやかしのま)4

妖の間(あやかしのま)4

「どうしよう…」健太郎は慌てた。

「どうした?」声が聞こえた。声の方を見ると、あの女将らしい老婆が立っていた。

健太郎は慌ててタオルで前を隠して「大変です。妻と子どもたちがいなくなったんです。もしかしたら風呂に沈んでいるのかも…」と言うと老婆は笑った。

「お前の身勝手な理由で無理心中しようとしていたくせに心配するとは笑止千万…」老婆の高笑いが浴場に響いた。

「え?」健太郎は驚いた。何で知っ

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妖の間(あやかしのま)2

妖の間(あやかしのま)2

妖の間は、思った以上に広かった。寝室にあたる部屋とリビングにあたる部屋は大きな引き戸で仕切られるようになっているが、家族にはそんなものは不要だ。一体化されていると考えると20畳以上ある。

「わぁ、広いわねぇ。ほら見て、バルコニーがある。広くて景色もきれい」翔太と真理が、窓が開け放たれたバルコニーに向って走っていく。和風の旅館に洋風なバルコニーは似つかわしくないのだが、何故か和洋折衷風に異様な感じ

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妖の間(あやかしのま)

妖の間(あやかしのま)

佐藤健太郎(31歳)は、25歳の時に「翔理」という小さな飲み屋を妻の理恵(28歳)と夫婦で始めた。以後、約5年間、馴染み客も増え、それなりに経営を維持することができたが、昨年、新型コロナウイルスが世界中にまん延して、日本もその影響を受けて長期のロックダウン政策で収入は途絶えた。自家製の弁当を作って、テイクアウトも始めたが、小さな飲み屋の弁当の需要は少なかった。宣伝する費用もなかった。あっという間に

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異相の人

異相の人

僕は2004年頃からブログを始めましたが、その後、節操なくいくつものブログサービスでブログを作り、数え切れないほどの文章を書きました。僕のブログ「消雲堂の安全対策」から転載。

尾州犬山(愛知県犬山市)の酒屋の話。

弘化4年(1847年)の春、ある日の深夜、酒屋に鼻の高い異相の人が現れて「酒をくれ」と言う。酒屋の主が酒を与えると、升でガブガブと飲み、あっという間に数石(1石は10斗、1斗は10升

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葉隠は奇談集成の書とみつけたり 弐

葉隠は奇談集成の書とみつけたり 弐

2.「乱心」

鍋島綱茂(肥前佐賀藩の3代目藩主)の時代のこと。

参勤交代で綱成は江戸にいた。応対、お使い、お供などを勤めた者の中で、西二右衛門、深江六左衛門、納富九郎左衛門、石井源左衛門などが優秀だった。なかでも二右衛門は馬術の名手として名を馳せていた。しかもなかなかの洒落者であり、馬に乗る際の着物に凝った。馬乗袴というのはこの二右衛門からはじまったものであるという。身分は部屋住みである。裏で

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葉隠とは奇談集成の書とみつけたり 壱

葉隠とは奇談集成の書とみつけたり 壱

「葉隠」は、「武士道とは死ぬことと見つけたり」というフレーズひとつから歪んだ勘違いで“右翼思想の書”と考えている方も多いと思います。また、武士をサラリーマンに見立てて葉隠を社員教育の書のように考えている方もいるでしょう。しかし、武士というのは一歩間違えば死を選ばなければならない“合理を求める明治維新とともに滅びてしまった職業”なのですから、お気楽な親米右翼思想やサラリーマンと一緒にしてはいけません

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子母澤寛「幕末奇談」の怪談

子母澤寛「幕末奇談」の怪談

僕は子母澤寛の新撰組三部作(中公文庫、新人物文庫)が好きで、自分が趣味で新撰組に関する文章を書くときには新人物文庫の「新選組日誌(菊池明・伊東成郎・山村竜也 編)」や、大石学さんの「新選組」(中公新書)などとともに参考にしています。子母澤さんには“幕末研究”と“露宿洞雑筆”を合わせた「幕末奇談」(文春文庫 ISBN-4-16-746404-7)という本もあり、それには小豆はかりやのっぺらぼうなどの

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墓穴

墓穴

能州(現在の石川県)飯山の谷合に神子ヶ原という村があった。

村のは百姓某の妻は脇に鱗があり、乳房が長く、子供を背負い乳房を肩にかけて乳を飲ませていた。さらに妻は力持ちで男にも負けたことはなかった。

その妻は、ある日、病死してしまう。死後17日目に妻の幽霊が現れて夫を取り殺してしまった。

その後も村にその幽霊が現れて、女子どもが恐れた。そこで、村の作蔵という男が「死人の墓に穴があれば、幽霊が出

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