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異相の人

僕は2004年頃からブログを始めましたが、その後、節操なくいくつものブログサービスでブログを作り、数え切れないほどの文章を書きました。僕のブログ「消雲堂の安全対策」から転載。

尾州犬山(愛知県犬山市)の酒屋の話。

弘化4年(1847年)の春、ある日の深夜、酒屋に鼻の高い異相の人が現れて「酒をくれ」と言う。酒屋の主が酒を与えると、升でガブガブと飲み、あっという間に数石(1石は10斗、1斗は10升で18リットルだから1石は180リットル)を飲み干してしまった。

主は「これは化け物だな」と思うと不思議と恐怖感もなくなり、普通の客に接するように対応した。すると異相の人は「酒を飲ませてくれたから、何でも望みを叶えてやろう」と言う。

主は「特に望みはないが、最近、女房を亡くして哀しい。女房が生き返ってくれればこれほどの望みはないが…」と言うと、異相の人は何も言わずにいずこかに去った。

その後、異相の人はまた酒屋にやってきて、自分の懐から小さな人を取り出して「これはお前の女房だ。約束を守ったぞ」と言って再び去った。

小さな人は、みるみる大きくなり、若い娘になった。娘は疲れているようだったので、その日は寝かして休ませてやった。翌朝、娘に尋ねると、呆然としながら「私は江戸新川の酒屋何某の娘です」と言う。驚いた主は使いを江戸までやって確認させると、戻ってきた使いが、「その酒屋では娘はこの月の初めに姿を消してしまったと言っている」と伝えた。

これは大変だと、酒屋の主は急いで娘を江戸まで連れて行くと、娘の親は「これは神様の縁結びに違いない」と大いに喜び、酒屋の主と娘とを夫婦にしてやった。

事々録 巻の二(江戸時代の奇談集)より

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