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子母澤寛「幕末奇談」の怪談

僕は子母澤寛の新撰組三部作(中公文庫、新人物文庫)が好きで、自分が趣味で新撰組に関する文章を書くときには新人物文庫の「新選組日誌(菊池明・伊東成郎・山村竜也 編)」や、大石学さんの「新選組」(中公新書)などとともに参考にしています。子母澤さんには“幕末研究”と“露宿洞雑筆”を合わせた「幕末奇談」(文春文庫 ISBN-4-16-746404-7)という本もあり、それには小豆はかりやのっぺらぼうなどの妖怪話も含まれています。以下に僕の好きな話を、無断で(申し訳ない)部分転載させていただきます。よろしくお願いします。

子母澤寛「幕末奇談 貞女お岩より」

八代将軍吉宗延享の頃、厩橋の城内に不思議なものが出たことがあります。城内の一室に、ある夜十八九の美しい女が白縮緬のしごきをしめて首をくくっているのを城詰の武士が発見しました。しかし、その場所というのが、どうも女などの来るべきところではないので、発見者中の刺客筧甚五右衛門が、てっきり狐狸妖怪の仕業とにらみ「方々見張りあるべし日の出ずると共に尻っぽが出るであろう」という訳で、大勢でその首釣り女を取囲んで監視を怠らず、一方は悪役を呼んでその女を見せると「島川」という中老と判明しました。

ところで筧は更に奥家老に面会し、この事実を述べて島川中老へ面談を頼みましたが、島川は甚だ不快でねているとのこと。しかし、問題は急なので、何とか用事を拵え、その部屋へ行って逢ってみると別に影が薄いという訳でもない、丈夫でいるのです。ここに首釣り島川と丈夫な島川と城内に二人島川が出来たのですが、筧が元の座へ帰って「どうだったか」と監視の連中にきいてみると、これはしたり、首釣り島川は何時の間にか消えてなくなっていました。その間の消えようを誰も知らないのです

一同、背中がぞくぞくしてその日はソレで済んだのですが、不思議なことにそれから五日とは経たぬ中に、島川中老は本当に首を釣って死んでしまいました。原因は「恨むべきことあって」といいますが、何だかよくわかりません。つまり死ぬ前に自分の死姿を別室に見せたということになります。


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