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記憶の図書館

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読んだ本の記録。
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#読書

解像度が上げられる感覚【 #ままならないから私とあなた 】

解像度が上げられる感覚【 #ままならないから私とあなた 】

無意識のうちに、それでも確実に自分の中でコントロールしていた世の中の解像度。それが意図せずグググっと上げられてしまう感覚。

見たくなかった、知りたくなかったことをはっきりと突きつけられてしまい、それ以上は進みたくないよというところまで連れていかれる感覚。

だけど、本当は知っていたし、分かっていたこと。

指摘されて、恥ずかしくてヘラヘラ笑って誤魔化して、そのヘラヘラの仮面がいつしか顔に張り付い

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「美味しい生活」という愛情 【 #そしてバトンは渡された 】

「美味しい生活」という愛情 【 #そしてバトンは渡された 】

高校3年生が始まる日の朝。
たかが始業式に張り切ってかつ丼を用意し、自分は「朝から揚げ物はなあ」と言いながら美味しいと評判のメロンパンを手にする。

クラスでぎくしゃくしていることを告げれば「事態が好転しないなら、スタミナをつけ続けるしかないだろ」と何日も連続で餃子を作り続ける。

受験の前日には「今日はよく寝て、本番に備えよう。合格できると信じてリラックスしながらがんばって!」とオムライスの上に

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わたしにも魔法は使えたみたい

わたしにも魔法は使えたみたい

いまの「わたし」は「わたし」なのか。それともさっきまで読んでいた小説の主人公なのか。現実と物語の境の浮遊感を味わうのがたまらなく好きだ。

電車の中で本を開く。最初は文字を目で追っている感覚があるのに、いつの間にかわたしの意識は物語の中に溶け込んでいく。車内の喋り声も聴こえなくなって、わたしの輪郭も曖昧なものになる。

目的地の駅に着いて本を閉じても、物語は醒めない。

歩いているのはいつもの道な

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その恋は、静かに根を張って -きみはポラリス-

その恋は、静かに根を張って -きみはポラリス-

「恋」の境目はどこにあるのだろう。

目が勝手に追いかけるようになったら?
美味しいものを食べた時に顔が浮かんだら?
そのひとに呼ばれる名前が澄んで聴こえたら?

いつまで経っても分からない。
でも、だからこそ「恋」なんだろう。

実態の無い、盲目的なそれに線引きなんて要らない。

三浦しをん『きみはポラリス』は11編の恋愛小説集だ。

あらかじめ提示されたテーマを「お題」、自分で勝手に設定したテ

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デザイナーだけがデザインする訳じゃない

デザイナーだけがデザインする訳じゃない

「良い?どんな仕事もデザインを気にすることはできるんだよ。デザイナーだけがデザインする訳じゃないんだから」

新卒で入社した会社で直属の先輩から言われた言葉。
この言葉を仕事中はいつも大事にしています。

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「マルちゃん製麺」のパッケージデザインや「ほぼ日刊イトイ新聞」のおさるのキャラクターデザイン等を手掛ける秋山具義さんの『世界はデザインでできている』を読みました。

自分

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大人と子供、好きと疎ましいの狭間で

大人と子供、好きと疎ましいの狭間で

肉子ちゃんは本名では無い。
そして『漁港の肉子ちゃん』の主人公でも無い。

主人公は、肉子ちゃんの小学5年生の娘、喜久子。
そして肉子ちゃんの本名も菊子。

漁港の焼肉屋の裏に住むキクコ親子の物語。
それが西加奈子さんの『漁港の肉子ちゃん』です。

肉子ちゃんには疑いの心がありません。
誰の言うことも無条件に信じてしまう。だからこそ人から好かれ信頼もされているけれど、同時に騙される回数も少なく無い

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8月15日 会社はヒマ、なはずだった。

8月15日 会社はヒマ、なはずだった。

お客様も取引企業も休みなのに、何故…

そんな気持ちでお盆に出社する会社員の皆様にこそ楽しんでもらえる小説があります。何故ってこの小説はまさに8月15日、本来はヒマなはずの会社で起こるミステリーですから。

それが石持浅海さんの『八月の魔法使い』です。

主人公は洗剤メーカー株式会社オニセンの社員、小林拓真。経営管理部の主任で、同じ会社の企画部に勤める金井深雪と付き合っている。

8月15日。お盆

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おとなのためのやさしい物語

おとなのためのやさしい物語

元号が変わったことに対してあまり意識を向けていなかったものの「令和のはじめに読むのはとっておきの本にしよう」という気持ちだけは強く、本棚から自然とこの小説を手に取っていた。

さて、いしいしんじをご存知だろうか。

わたしが彼を知ったのは下北沢のヴィレッジヴァンガードだった。平積みされていた『ポーの話』に目が留まった。そのシンプルなタイトルとひらがな6文字の作者名、装丁に惹かれて文庫を手に取り裏の

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これぞ星野源の”初期衝動”

これぞ星野源の”初期衝動”

清々しい程の生々しさを感じるエッセイだった。

星野源の初エッセイ集『そして生活はつづく』。

2作目のエッセイ集『働く男』は以前読んでいて、その時には好きな言葉、覚えておきたい言葉が山のようにあったんですよね。

たとえば、、

才能があるからやるのではなく、
才能がないからやる、という選択肢があってもいいじゃないか。
そう思います。
いつか、才能のないものが、面白いものを創り出せたら、
そうな

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彼女はまだ、あの夜の中にいる。

彼女はまだ、あの夜の中にいる。

わたしはいま、一体どこにいるのだろう。

わたしがいるここは、夜の中、なんだろうか。

夜には、いろんな夜があると思う。

夜桜は美しいけれど、ちょっと不気味にも感じる。
花火やお祭りはわくわくするけれど、怪談は怖い。
遠回りしたくなる夜もあれば、すぐに帰りたい夜もある。
寒くなり、夜の長さは増して、気が付けば短くなっていく。

楽しい夜もあれば、心細い夜だってある。

心細くなるような夜を過ごし

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わたしは、おめかし上手を目指したい

わたしは、おめかし上手を目指したい

川上未映子さんが朝日新聞で6年間連載したエッセイ
『おめかしの引力』に惹きつけられてしまった。

図書館でタイトルに惹かれて手に取ったら装丁も素敵!
裏表紙も格好良いんですよね。

装丁は誰だろうと思ったら納得の吉田ユニさん。

星野源のアートワークも多く手掛けていますね。
『YELLOW DANCER』も最新の『POP VIRUS』も。

わたしはnoteを書くときに思いついたことをそのままキー

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エンドロールは旅の終着駅

エンドロールは旅の終着駅

最初に映画館で観た映画は何だったかな。

ドラえもんか、ポケモンか、な気がする。

小学校高学年でONE PIECEやハリーポッター、千と千尋も観に行ったっけ。
当時高校生だった年上の従兄弟が「俺、千と千尋は映画館に3回観に行ったよ」と言っていてその響きが格好良く聞こえたのを覚えている。同じ映画を映画館に何度も観に行くって、そんなことが可能なのか!大人は違うなあ、と子供ながらにぼんやり思ったものだ

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湯気までがご馳走だった

湯気までがご馳走だった

ここ最近は少しずつ読書欲を取り戻し始めました。

一冊読むとすいすい次の本に手が伸びていくんだけど、読まない時間が続くと本を手に取る習慣自体がなくなる、というのを何度も何度も繰り返しています。
この現象に名前はあるのでしょうか。

図書館に行ってたくさんの本に囲まれて「あ、これ読みたいと思ってた」「好きな作家さんの見たことない新刊があるぞ」「変なタイトル〜!」なんて思いながら借りる本を選ぶのは至福

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わたしは世界の歯車になれているだろうか

わたしは世界の歯車になれているだろうか

共感と拒絶が同居している小説だと思った。

第155回芥川賞受賞作
村田沙耶香『コンビニ人間』

「どれどれ」なんて軽い気持ちで読み進めていたら、お腹の底の方にじわりじわりと黒いものが溜まり始めて、なんだか嫌だなあと気付いていても目が離せなくて、黒いものが半分くらいまで膨らんだときには最後のページ。
わたしにとってそんな小説だった。

古倉恵子はコンビニバイト歴18年の36歳。
大学1年生の頃にオ

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