エンドロールは旅の終着駅
最初に映画館で観た映画は何だったかな。
ドラえもんか、ポケモンか、な気がする。
小学校高学年でONE PIECEやハリーポッター、千と千尋も観に行ったっけ。
当時高校生だった年上の従兄弟が「俺、千と千尋は映画館に3回観に行ったよ」と言っていてその響きが格好良く聞こえたのを覚えている。同じ映画を映画館に何度も観に行くって、そんなことが可能なのか!大人は違うなあ、と子供ながらにぼんやり思ったものだ。
中高生の時はあまり映画館に足を運ばなかった。
遊ぶ=カラオケかボーリングが多かった。バイト禁止の学校でそんなにお小遣いも無かったからカラオケのフリータイムが断然お得だった。飲み物飲み放題、アイス作り放題、スープ飲み放題のフリータイムが1,000円くらいだった気がする。それで何時間でも遊んでいられた。歌ったり、歌わず喋ったり。
だけどあまり行かなかったからこそ、この時期に観た映画はどの映画館で誰と観たのかまではっきりと覚えているものが多い。今は無くなってしまったあの映画館だとか、今はもう2人で遊ぶ事も無いんだろうなと思うあの子とか。
観るたびに思う。映画は旅なのだと。
幕開けとともに一瞬にして観るものを別世界へ連れ出してしまう。名画とはそういうものではないか。そして、エンドロールは旅の終着駅。訪れた先々を、出逢った人々を懐かしむ追想の場所だ。だから長くたっていい。それだけじっくりと、思い出に浸れるのだから。
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わたしが映画を観るようになったのはごく最近の話。
大学生の時に手に入れたノートパソコンからわたしの映画の世界はぐんぐん広がっていった。
妹も母も睡眠導入剤を服用しているため夜は早く眠るのが習慣付いていた。ひとりで起きているのも虚しかったし、物音を立てて起こしてしまうのが怖かった。21時にはみんな自室に入って眠る準備をする、それが当たり前の家だった。
21時になると、布団の上でパソコンとヘッドフォンで映画を観た。リビングにテレビはあったけれど、それだと起こしてしまう可能性もあったから。ヘッドフォンをつけて周りの音を遮断して、自分だけの映画の世界に浸った。夜眠る前に映画を観ていたので泣きすぎたり興奮で眠れない夜もあったっけ。それも含めて本当に良い思い出だ。
社会人になって実家を出て、遅くまで起きているようになった。
夜一緒に映画を観てくれる恋人が出来た。
Amazonプライムで映画を持ち運びする事も覚えた。
そして、いろんな映画館があることを知った。
どこの映画館も同じだろうと漠然とそう思っていたけれど全然違った。ネームバリューも大きなTOHOシネマズばかり行っていたけれど、渋谷のユーロスペースや、普段は何で使用しているんだろうっていうような場所での短編映画祭にも行くようになった。
だけど名画座は知らなかった。この本を読むまでは。
主人公の歩は39歳独身。ある理由から課長という肩書きを捨て、会社を辞める。しかし退職日と父親の心筋梗塞の手術日が重なってしまい、なかなか両親に退職の事実を伝えられないでいた。退職したことを話そうと思った矢先、父が麻雀で300万の借金をしていたことが分かる。
そんな家族がこの物語の主役だ。
そしてこの家族を救うきっかけになるのが映画であり、名画座なのだ。
父が麻雀以外に興味関心がいくように、と大好きだった映画についてのブログを書くように勧めるのだけれど、これがとても良い。
何歳になったって好きなものについての情熱を文章に込めるその父の姿こそがまさしく今noteで好きなことについて書いているわたしたちの姿と重なる。
いつも思うけれど「好き」なものに対するエネルギーというのはとても大きい。このエネルギーでどうにか電気や水道やガスやらまかなえないものだろうかと割と本気で考えてしまう。
ノートパソコンから映画を観る世界が広がったとは書いたけれど、映画を観る最高の場所はやっぱり映画館だと思う。今は家で手軽に映画が観られるけれど家で観た映画で気に入ったものは映画館でもう一度観たいなあとよく思う。
例えば『シング・ストリート』『きっと、うまくいく』『ストリート・オブ・ファイヤー』『茄子 スーツケースの渡り鳥』なんかは映画館でもう一度観たいなあと思っている。
今では行きたい映画館というのも増えてきた。
最近できたアップリンク吉祥寺とかね。
最後の一文が消え去ったとき、旅の余韻を損なわないように、劇場内の明かりはできるだけやわらかく、さりげなく点るのがいい。
(p7)
映画と名画座に対する大きな愛情を感じる小説だった。読み終わった後、自分のお気に入りの映画館でお気に入りの映画を観たいなあと誰しもがきっとそう思うんじゃないかなあ。
ちなみに、わたしの今までの一番の映画体験といえば、小学生の夏休みの夜に近くの大きな公園で野外上映をしていた『バグズ・ライフ』です。
大きな池の真上にスクリーンがあって、そよそよした夜風に当たりながら観た映画は格別だった。ピクサーの中でも結構地味な位置付けのような気がするんだけど、わたしにとっては特別な体験も含めて大好きな映画。(最も苦手とする虫が出てくるけれど!そこは目を瞑る)
エンドロールがさすがピクサー!って感じちゃう。
さあ、次はどの映画で旅に出ようか。
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