卵を買いに

湯気までがご馳走だった

ここ最近は少しずつ読書欲を取り戻し始めました。

一冊読むとすいすい次の本に手が伸びていくんだけど、読まない時間が続くと本を手に取る習慣自体がなくなる、というのを何度も何度も繰り返しています。
この現象に名前はあるのでしょうか。

図書館に行ってたくさんの本に囲まれて「あ、これ読みたいと思ってた」「好きな作家さんの見たことない新刊があるぞ」「変なタイトル〜!」なんて思いながら借りる本を選ぶのは至福の時間。
わたしにはまだまだ読んでみたい本がこんなにもある!というのを身体で感じることに幸せを感じます。自分の好奇心がむくむく膨れているなあと思うときにすごく「生きている」感じがするのかも。大袈裟かな、違うかな。


そうして借りてきたのが小川糸さんのエッセイ『卵を買いに』。

何冊も読んだことがある作家さんという訳ではないけれど、いつも装丁が可愛らしい。そんなイメージ。
『食堂かたつむり』と『喋々喃々』くらいしか読んだことはないかもしれないなあ。


装丁は高橋雅之さんという方らしい。
調べると最初に出てくるのは同姓同名の競輪選手。
その下に出てくるタカハシデザイン室を覗くと、見たことあるものもちらほら。なんと、わたしの大好きなウォレスとグルミットのロゴも作成している!さらに、なんとなんと!わたしのいちばん好きな作家である、いしいしんじさんの本の装丁まで。なんてことでしょう。

ウォレスとグルミットや、いしいしんじについてはそれだけでnote記事がたんまり書けるほど好きなので、これはまた別の機会に。
いしいしんじを好きなひとになかなか出会えないので好きなひとがいれば是非語りたい。続きはまた来年あたり別のnoteでね。


エッセイを読むようになったのは早かったけど、本当の意味で良さが分かって好きになったのは大学生くらいだった気がします。
ちょっとだけいしいしんじの話に戻ると、『いしいしんじのごはん日記』という三崎に住んでいた時の食べ物日記があるんですよ。その中で美味しいものを食べたときに度々出てくる「まぼろしの猫たち、踊りだす」という表現がもうものすごーく大好きで。ああ、わたしもこのお店のお刺身が食べたいなあとうっとりしながら読んだものです。そのうち、自分の周りでまぼろしの猫たちが踊りたくてうずうずしているのを感じてきたり。

ああもう、好きだからつい話したくなっちゃうなあ。


取材で訪れたラトビアに、恋してしまいました。手作りの黒パンや採れたての苺が並ぶ素朴だけれど洗練された食卓、代々受け継がれる色鮮やかなミトン、森と湖に囲まれて暮らす人々の底抜けに明るい笑顔。キラキラ輝くラトビアという小さな国が教えてくれた、生きるために本当に大切なもの。新たな出会いと気づきの日々を綴った人気日記エッセイ。
Amazon内容紹介

日記エッセイシリーズの最新作のようです。そうか、シリーズだったのか。まあエッセイなので最新作から読んでも問題ありません。2018年2月初版なので日記自体は2017年のものなのかな。

いきなり出てくるペンギンにむむむ?となりましたがペンギンというのはどうやら旦那様の表記らしい。飼っている犬の名前は「ゆりね」なので一体どちらが人間なのかややこしい。ゆりねって、響きが美しい。

内容紹介的にラトビアの生活がメインなのかと思いきや案外そうでもなく、日本にいる時間の方が圧倒的に多かったです。多かったどころかラトビアにいたのは一週間くらいなので、内容紹介ちょっとどうなの?という気がしないでもない。笑


1年間を綴ったエッセイの中で気になった箇所をいくつか。


おむすびとおまんじゅう(1月15日)

焼くのに少々時間がかかりますと言われた青菜漬けの焼きおにぎりは、周りに白味噌が塗ってあって、湯気までがご馳走だった。
(p18)

タイトルにも抜粋した「湯気までがご馳走」があまりにも美味しそうな表現で好き。ご飯を美味しそうに表現できるひと、それだけで好きになっちゃう。文章でも映像でも写真でもイラストでも造形物でも、なんでも。
実際に美味しそうなご飯を作るひとももちろん好きだし、そんな美味しい料理は当然大好きだし、美味しそうに食べるひとだって好き。美味しいご飯が満たしてくれるのはお腹だけじゃなくて、心まで満たしてくれるものですよね。

ところで、わたしはおにぎりを握るのが驚くほど下手なんです。恥ずかしいくらいに。来年は綺麗な形の美味しそうなおにぎりを握れるようになりたいなあ。

ご飯の話と並べて書くのが恐縮ではありますが、この日の日記にはゆりね(犬)の生理についても書かれていて犬にも生理があるということをわたしは初めて知りました。ヒートっていうんだって。


ノラ猫の飼い方(1月16日)

近所のノラ猫について書かれている日記なんですが、その内容ではなく、小川糸さんが40歳の時に坊主にしたという話が結構衝撃的でした。40歳の記念に。人生で一度はやってみたかったから、と。それもベルリンで坊主にしたというのでそこもまた面白い。


ふっかふか(2月10日)

敷布団の打ち直しについての日記。お恥ずかしい話ではありますが、全く分からなくて。敷布団の打ち直し、という言葉の意味が。初めて聞く響きだったんですよね。ああ、無知って恥だ。。
打ち直しってお布団のリフォームのことなんですね。長年使ってクタクタになったお布団を一度解体して、中のゴミやら塵やらを取り除いてふっかふかにすることなんだとか。
お布団ってピンキリだけど睡眠時間は一生のうちでもかなり長い時間だから(わたしは平均7時間くらい眠ります)出来れば質の良いものを選びたいし、大事に大事に使っていって何十年後かにこうして打ち直しをお願いしたいなあと思いました。
またひとつ知識が増えました。読書、大事ですね。


ラトビアへ(7月7日)

前回のnoteにも書きましたがわたしは地理に疎いのでラトビアと聞いても頭にはクエスチョンマーク。
バルト三国のうちの一国で国土の半分が森。ヨーロッパのいちばん端っこでお隣はロシア。ふむふむ。そういえば今年の夏、会社のひとがバルト三国に旅行に行っていたっけと読み終えた後で思い出しました。
その人から、大勢の人が歌を歌う大きなイベントがあったという話を聞いていたのにも関わらず、本の中で紹介されている時には気が付けなかったなあ。


白夜(7月8日)

それにしても、ラトビアの黒パンのおいしいこと!!!
重すぎず、軽すぎず、スイスイ食べられる。
ラトビア人にとって黒パンは、名刺代わりのようなものだとか。
(p127)

食べたい。ただただ食べたい。食べてみたい!
ラトビアの旅行ブログを何件か検索してみると想像以上に黒い。美味しいという言葉がやっぱり添えられている。ああ、食べたい。
そりゃあもちろん本場で食べるのがいちばんなんだろうけど、なかなか行けないしなあ。どこかで食べられないだろうか。いまサンタさんが目の前にいたらお願いしてしまうかもしれないです。
「サンタさん、ラトビアの黒パンが欲しいです」


合理的(7月22日)

世界でも屈指の自殺率が高かったラトビアの自殺防止の工夫について。いつ死を選んだのかを調べた結果、日照時間が減る寒い時期に多いということが分かったそうです。そこで、どうしたのか。

そこで、町全体を明るくする運動を始めたのだ。
題して、「電飾祭」。
これが、ラトビア各地で行われるようになった。
すると、みるみるうちに自殺する人が少なくなり、見事なまでに効果を発揮したのだという。
(p166)

良いなあと単純にそう思いました。素晴らしいや。調べて、行動して、結果を出して。死を選んでしまう原因は人それぞれだけど、「電飾祭」と称して街を明るくすることで多くの人を救えたなんて。逆に考えると、街が暗いとそれだけでもやっぱり気持ちが滅入っていってしまうんだろうなあ。ひとりひとりの悩みをひとつずつ解決していくのはとても難しいことだけど、こうして一気に全体を救える方法というのもあるのかもしれない。ちょっとの工夫で。想像力と創造力、大切にしていこう。


「これだけで、幸せ」(11月19日)

自分の暮らしをまとめた一冊が出ますよ、という新刊のお知らせの日記。この本はきっと今の私にとって必要な本なのかもしれない。

もっともっと、という欲望にどこかで区切りをつけないと、逆に自分を苦しめてしまうから。
そして、自分が「もうここで満足」というラインを決めておくと、結構楽になる。
(p250)

「足るを知る」ということ。わたしに欠けている部分。
欲望にまみれていますからね。そこが長所でもあって、でもきっと短所でもある。長所と短所は表裏一体だから。欲望があること自体が悪いことではなくて、欲望に区切りをつけるというのがわたしの学ぶべき部分だなあと思いました。今のタイミングでこの文章に出会えて良かった。


長くなりましたが、エッセイはその人自身が見えてくるのが好きな部分です。本じゃなくてnoteでも知らない人の日記を読むの大好きです。日々の生活を読むのってなんでこんなに面白いんだろう。
丁寧に毎日を掬い取れるひとは素敵で魅力的。刻々と時間は過ぎていってしまうからね。その同じ時間をどう過ごすのかは自分次第。

今回読んだエッセイには政治についての意見も書かれていてその部分だけはちょっぴり読みにくかった。分かっちゃいるけど、な部分。わたしがいわゆる「ゆとり世代」だからなのかしら。


エッセイを読むと文章欲も高まるのでお勧めです。
でも読んだだけだと同じように素敵に書けないんだよなあ。
だから、表現力を身に付けていきたい。

あ、ほらね、やっぱりわたしは欲望まみれだ。


この記事が参加している募集

#コンテンツ会議

30,762件

読んで下さってありがとうございます◎ 戴いたサポートは多くの愛すべきコンテンツに投資します!