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2022年 新作ベスト10

今年は社会人2年目ということで、本業にも慣れ始めつつ仕事量も増えつつという年で、引っ越し等もあって中々時間を捻出するのが難しい年だった。加えて、新作映画が尽く奮わないという厳しい年で、モチベーションの維持が困難になり、全体の鑑賞本数はほぼ横這いながら新作の鑑賞本数は激減してしまった(新作鑑賞本数の変遷:2020年374本→2021年355本→2022年281本)。それでも、5月にキネマ旬報にセルゲイ・ロズニツァの記事を書かせてもらったり、11月に京都に行って尊敬するフォロワーさんたちと会ったり、様々な縁が出来たありがたい年でもあった。今年の"新作"基準は以下の通り。

①2022年製作の作品 159本
②2021年製作だが未鑑賞/未公開 96本
③2020年製作だが未鑑賞/未公開 25本

今年の選定基準です。

尚、下線のある作品は別に記事があるので、そちらも是非どうぞ。

1 . 麻希のいる世界 (塩田明彦)

正直1月末に観たこの映画がここまで生き残るとは思わなかった。大好きな作品ではあるのだが、年間1位にするほどかと言われると疑問が残り、悪い意味でこの作品を超える作品に出会えなかったのが残念なところ。いきなり愚痴っぽくなって、すいません。コメントは上半期ベスト記事を参照のこと。

2 . A Woman Escapes (ソフィア・ボーダノヴィッチ他)

一昨年の新作ベスト1位に選出したソフィア・ボーダノヴィッチがようやく帰ってきた。今回はトルコとNYに住む実験映画作家と共作で、オードリー・ベナック・ユニバースを紡いでいる。長編二作目『Maison du Bonheur』で登場した快活おばあちゃんジュリアーヌが亡くなってしまい、オードリーは遺されたアパートで生活することで彼女の行為を模倣し、それと記憶を結びつけようとする。同作からテーマを受け継ぎながら、前作『Point and Line to Plane』のテーマも引き継いだ、正に彼女の集大成のような作品。今年もカナダ勢は強かった。

3 . R.M.N. (クリスティアン・ムンジウ)

トランシルヴァニアのパン工場でスリランカ人労働者を雇ったことで可視化されるヘイトの渦と夢破れた男による家父長制への郷愁というマクロとミクロ双方からルーマニアの抱える問題に迫る一作。現代ルーマニアの抱える様々な問題を内包する鮮やかなラストに感動。ムンジウが『ユリ熊嵐』観てる説に二票目を投じるべく動くべきか悩み中です。

4 . Queens of the Qing Dynasty (アシュリー・マッケンジー)

どれだけ大きく目を見開いても、見えるのは世界の断片だけ。それによって切り取られ閉じ込められた体の部位は、周りよりも数段遅い時間を漂い続ける。世界から切り離されて崖っぷちの主人公二人も、断片に閉じ込められて断絶している。全てがバラバラなのに一つにまとまり、まぁ明日も生きてみるかとなる。私はこの映画を言い表す言葉を持っていないのだろう。不思議な映画。

5 . すべてうまくいきますように (フランソワ・オゾン)

本作品は安楽死についての映画だが、その是非を問うわけではなく、安楽死を決意した老父とそれを受け入れる娘たちの物語である。すると、一度決まったプロセスを淡々とこなしていくという一つ一つの行動が、緊張感あふれるサスペンスへと様変わりしていく。凄まじい。あと、ふとした瞬間に思いがけない行動をするソフィー・マルソーが良い。一歩間違えると陰鬱になったり不謹慎になったりする絶妙なラインの上で、コミカルさを出すのが上手すぎる。今年はオランダのフロア・ファン・デル・ミューレン『Pink Moon』という作品もあり、そちらでは父が決めた安楽死を受け入れられない娘の心の葛藤を描いていた。これが一番想像できる反応ということか。

6 . Saturn Bowling (パトリシア・マズィ)

亡父からボウリング場を受け継いだ刑事の兄と放浪者の弟。ボウリング場にはハンターだった亡父の仲間たちがガチガチの有害性を以て屯し、支配人となった弟の精神を毒していく。本作品の直接的な暴力描写や生々しい死体の映像は、存在はしていても目を背けられていた被害者の存在を直視しているからだろう。

7 . ノースマン 導かれし復讐者 (ロバート・エガース)

バイキング時代を舞台にしたことで、運動は地面に束縛されることとなり、『ライトハウス』より『ウィッチ』に戻った感がある。過去二作が自然の脅威の具現としてヤギやカモメを人間的に描いてきたわけだが、今回は人間の脅威の具現として人間を動物的に描いている。そして、アムレスの復讐物語は女性たちに導かれ、地面に束縛され、ヴァルハラへと飛翔する。アニャ・テイラー=ジョイを中心に『ウィッチ』と鏡像のようになる一作。

8 . チャイコフスキーの妻 (キリル・セレブレニコフ)

京都まで遠征して観た思い出深い一作。チャイコフスキーの狂った妻アントニーナについての物語だが、単純にチャイコフスキーは可哀相な天才で、アントニーナは悪女だったのか?という疑問を掘り下げていく。常に今しか考えてないかのようなアントニーナの恋慕には核がないように見えるが、それは彼女が自分の中に形成された偽物のチャイコフスキーを愛していたからであり、"天才はそんなことをしない"という盲信によるものだったことが明らかになる。あまりにも華麗に一般化されてしまったわけだ。

9 . Drak Glasses (ダリオ・アルジェント)

美女が殺人鬼に狙われる!という企画に特化した本作品は、どうでもいいシーンを徹底的に時短して、自分のやりたい/魅せたい画はちゃんと魅せる。ジャッロ映画の基本を守りながら、どこか現代的な匂いを感じさせる。俺が文法だと言わんばかりの逞しさ。巨匠、強し。

9 . Lake Forest Park (Kersti Jan Werdal)

シアトル郊外の街レイク・フォレスト・パーク。この街である少年が亡くなったらしい。物語らしい物語もないまま、遺された同級生たちの物語がワンシーンワンショットで静かに語られる。トイレでの化粧のしあい、クラブでの出会い、誰もいない朝の桟橋、雨に濡れた車の窓、永続しない様々な時間の物質の数々が我々の胸を締め付ける。ガス・ヴァン・サントとジェームズ・ベニングが邂逅したような一作。

10 . Topology of Sirens (ジョナサン・デイヴィス)

音を使ってリヴェット流ゲームをやってみたら、この映画のようになるのだろうか。伯母の家で発見したテープの音源を辿って様々旅し、音を可視化するような空間と、"過去の空間"を作り上げる音が相互補完しながら強固に結び付けていく。新たなボーダノヴィッチの誕生か?

・旧作ベスト

今年は去年よりも旧作に力を入れていた感覚があったんだが…と上半期ベストの記事にも書いたが、今年は本当にそうだった。しかも、数年ぶりにオールタイムベストTOP10が入れ替わるという大事件が1月に起こった。東欧映画スペースの存在によって、飽き性で怠け者な私も継続的に東欧映画を接種できたのは非常に大きい。鉄腸さん、岡田さん、ありがとう!

1 . Binka Zhelyazkova『The Swimming Pool』ブルガリア、ある少女が見た世界の欺瞞
2 . アレクサンドル・レクヴィアシュヴィリ『The Step』行き先を知らぬ者は最も遠くまで辿り着く
2 . アレクサンドル・レクヴィアシュヴィリ『The 19th Century Georgian Chronicle』ジョージア、森の村を守るために
3 . Leida Laius『Werewolf』エストニア、陽光の煌めきと幻惑の森
4 . ルチアン・ピンティリエ『Sunday at Six』ルーマニア、日曜六時に会いましょう
4 . ルチアン・ピンティリエ『Too Late』ルーマニア、手遅れでないと信じるすべての人へ
5 . ドン・アスカリアン『コミタス』アルメニアの美しき自然に捧ぐ
6 . アドルフォ・アリエッタ『炎』幻想の消防士に恋して
7 . Virve Aruoja & Jaan Tooming『Colorful Dreams』エストニア、カティのワンダーランドを垣間見る
7 . アレクサンドル・アストリュック『女の一生』鬼畜夫が支配する斜めの構図
8 . マルコ・ベロッキオ『サバス』魔女に魔法を掛けられて
8 . マルコ・ベロッキオ『乳母』扉を閉め続ける男の出会い
9 . Eduard Zachariev『Manly Times』ブルガリア、"男らしさ"の時代を生きる人々
10 . ラヴ・ディアス『West Side Avenue』ここにいるためにアメリカ人となる必要はない

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