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2022年 上半期ベスト

社会人も無事ニ年目となり、徐々に忙しくなりつつあるが、全体の鑑賞本数としては例年通りか少し多いくらいの482本だった。6月は引越準備とヴラーチル祭の影響でほとんど新作を観ることが出来なかったので、上半期ベスト発表が9日なのをいいことに勝手に延長戦をしていたのだが、結局そこまでハマる映画には出会えず、最終更新5月末というリストになってしまった。天邪鬼なので自分のリストに飽きてしまった。アホか。ということで、今年も例年通り、

①2022年製作の作品 (44本)
②2021年製作だが未鑑賞/未公開 (69本)
③2020年製作だが未鑑賞/未公開 (20本)

の三つを条件に作品を集めまくった。結局総数は133本となった(例年より20本近く少ない)。今年は旧作ばかり観ていた印象があり、旧作ベストの方が盛り上がってるので、そちらもどうぞ。

1 . 麻希のいる世界 (塩田明彦)

自転車が倒れても自分が倒れても後ろを向いていても、前に進み続ける、凄まじくパワフルな一作。しかし、どれだけ前に進んでも、追う/追われるの関係は平行線のまま。その先で、十字路に立ったとき、既に不可逆な世界にいたことを知る。紹介してくれた友人に感謝。

2 . Queens of the Qing Dynasty (アシュリー・マッケンジー)

どれだけ大きく目を見開いても、見えるのは世界の断片だけ。それによって切り取られ閉じ込められた体の部位は、周りよりも数段遅い時間を漂い続ける。世界から切り離されて崖っぷちの主人公二人も、断片に閉じ込められて断絶している。全てがバラバラなのに一つにまとまり、まぁ明日も生きてみるかとなる。私はこの映画を言い表す言葉を持っていないのだろう。不思議な映画。

3 . Everything Went Fine (フランソワ・オゾン)

本作品は安楽死についての映画だが、その是非を問うわけではなく、安楽死を決意した老父とそれを受け入れる娘たちの物語である。すると、一度決まったプロセスを淡々とこなしていくという一つ一つの行動が、緊張感あふれるサスペンスへと様変わりしていく。凄まじい。あと、ふとした瞬間に思いがけない行動をするソフィー・マルソーが良い。一歩間違えると陰鬱になったり不謹慎になったりする絶妙なラインの上で、コミカルさを出すのが上手すぎる。

4 . トップガン マーヴェリック (ジョセフ・コシンスキー)

良くも悪くもゲーム的で、だからこそ面白く、だからこそ危険な映画だが、続編としてもトム・クルーズ史としてもあまりにも完璧すぎるので。マーヴェリックが2分10秒台で飛んじゃったときに、ウォーロックがちゃっかり生徒と同じ席に座ってるのが可愛い。

5 . Babi Yar. Context (セルゲイ・ロズニツァ)

セルゲイ・ロズニツァに関してはキネマ旬報で記事まで書かせてもらったのが上半期のハイライトの一つだ。本作品ではキーウ近郊のバービン・ヤル渓谷で起こったホロコーストについて、バービン・ヤルの文脈、ホロコーストの文脈、二次大戦/戦後のナチス/ソ連統治の文脈から語られている。本作品はラドゥ・ジュデ『The Exit of the Trains』と比較するのが興味深い。この二人が公開され続ける今年はアツい。アツすぎる。

6 . Dark Glasses (ダリオ・アルジェント)

美女が殺人鬼に狙われる!という企画に特化した本作品は、どうでもいいシーンを徹底的に時短して、自分のやりたい/魅せたい画はちゃんと魅せる。ジャッロ映画の基本を守りながら、どこか現代的な匂いを感じさせる。俺が文法だと言わんばかりの逞しさ。巨匠、強し。

7 . Playground (ローラ・ワンデル)

学校とはどんな場所か。ダルデンヌ兄弟の直系とも呼べそうな極限の追い回しは、少女の低い目線を共有しており、背の高い大人は顔すら見えないし、被写界深度も浅くて視野も狭い。そんな中で、少女の唯一の味方である兄は、上級生に虐められていた。閉所恐怖症的空間を走り回りながら、少女はたった一人で、圧倒的他者の集合体としての世界に反抗し続ける…

8 . Happening (オードレイ・ディヴァン)

1963年、フランスは堕胎が違法だった。時々刻々とタイムリミットが迫る中、カメラは露悪的にならないギリギリのラインで全てを目撃する。アナマリア・ヴァルトロメイの大きく見開かれた印象的な目はカメラそのものだったんだろう。本作品とよく比べられているのは『燃ゆる女の肖像』『Never Rarely Sometimes Always』だが、最も異なるのは本作品では主人公アニーに協力者がいないことだ。しかし、シスターフッドは断絶していない。彼女たちは互いを助けられないが繋がっているのだ。これで、昨年の金熊・パルム・金獅子全てに4.5/5を付けたことになる。そう考えると凄まじい年だったな。

9 . After Yang (コゴナダ)

ヤンとは何者だったのか。ヤンは幸福だったのか。多種多様な生まれの人間が共に暮らす社会で、亡くなったアンドロイドの記憶を求めて彷徨う家族の旅から、"終わりは新たな始まり"として記憶や物語の継承を描く。この世の全てを受け入れるような、果てしなく優しい一作。コゴナダはヘイリー・ルー・リチャードソンの使い方を世界一分かってると思う。

10 . The Intruder (ナタリア・メタ)

正直内容はよく分かってないんだが、アルゼンチン・ニューウェーブの他の作品のようにフレーム管理がしっかりしていて面白かった。暗い部屋で喉に内視鏡ぶっ刺して喉を発光させるシーンがマジで好き。

・旧作ベスト

今年は去年よりも旧作に力を入れていた感覚があったんだが…と毎年書いてる気がするけど、今年は本当にそうだった。しかも、数年ぶりにオールタイムベストTOP10が入れ替わるという大事件が1月に起こった。下半期はビンカをあと2本くらい観たいなあと。

1 . Binka Zhelyazkova『The Swimming Pool』ブルガリア、ある少女が見た世界の欺瞞
2 . ドン・アスカリアン『コミタス』アルメニアの美しき自然に捧ぐ
3 . ルチアン・ピンティリエ『Sunday at Six』ルーマニア、日曜六時に会いましょう
4 . ルチアン・ピンティリエ『Too Late』ルーマニア、手遅れでないと信じるすべての人へ
5 . アドルフォ・アリエッタ『炎』幻想の消防士に恋して
6 . ラヴ・ディアス『West Side Avenue』ここにいるためにアメリカ人となる必要はない
7 . アレクサンドル・アストリュック『女の一生』鬼畜夫が支配する斜めの構図
8 . Eduard Zachariev『Manly Times』ブルガリア、"男らしさ"の時代を生きる人々
9 . レオナルド・ファビオ『闘鶏師の恋』音速で駆け抜けるある闘鶏師の恋模様
9 . パトリシア・マズィ『Travolta and Me』トニー・マネロと私
10 . フランチシェク・ヴラーチル『Serpent's Poison』向き合えない、だから酒を飲むという地獄の悪循環

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