KnightsofOdessa
東欧/旧ユーゴ/カフカス/中央アジア映画研究家。好きな女優は必ず寡作。筋金入りの非線形…
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Ardit Sadiku『The Forgotten Mountain』アルバニア、"呪われた山"で過去の自分を見た男
アルディト・サディク(Ardit Sadiku)長編二作目。無職の息子に家と店を騙し取られた老齢の父親リカルドは、娘エマを頼って夫ロレンツが持っている山奥の小屋に三人でやって来る。人口は20人程度の小さな村での生活は都会での問題を忘れさせるどころか、無視してきた問題まで表出させてしまう。娘夫婦は不妊治療を続けていたが、大きな手術が必要と分かってロレンツは躊躇している。仕事一筋で家族のことは妻に丸投げだったリカルドも、妻を亡くして意気消沈しており、実の息子に裏切られて慣れない環
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Živko Nikolić『美しき罪の神話 (The Beauty of Vice)』モンテネグロ、古き法と美しき悪徳
大傑作。ジヴコ・ニコリッチ(Živko Nikolić)長編五作目。モンテネグロの山間部は何世紀もの間、厳格な掟に支配されていた。冒頭ではこんな事例が紹介される。自宅に帰ってきた主人は、玄関から半裸の男が逃げ出すのを目撃する。妻が不倫していたのだ。すると妻は諦めたように泣きながら"命を差し上げます"と言って顔より大きいパンを黙々と焼き始める。そして翌早朝から夫婦は小高い丘の上に登り、妻は無言で頭の上にパンを掲げる。主人はそのパンごと妻の頭をハンマーで叩き割る。これが不倫への罰
Nele Wohlatz『Sleep with Your Eyes Open』ブラジル、"翻訳している相手のことを本当に理解してる?"
大傑作。Nele Wohlatz単独長編二作目。前作『The Future Perfect』は、ブエノスアイレスに移住した少女がスペイン語を学んでいく過程を捉えることで、新たな言葉とともに新たな概念を獲得し、未来を切り開いていくという、温かで希望的なツールとしての"言語"を中心に描かれた作品だった。本作品は前作の続きのような視点で、"言語"の別の側面も描き出している。また、前作における"頑なに中国文化を守る両親"に相当する人々の視点が深堀りされ、かつ"言語"以外の要素でも"変