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カンタン・デュピュー『The Second Act』現実と虚構が入り交じるレストラン

カンタン・デュピュー長編13作目。田舎にあるレストラン"The Second Act"に四人の男女が集まる話。フロランスは恋人のダヴィドを父親ギヨームに紹介しようとするが、ダヴィドは既に愛想を尽かしていて、友人のウィリーに彼女を押し付けようとしている。そんな物語の一つ上のレイヤーに、それぞれを演じる俳優がメタ的に台詞や演者自身のセクシャリティなどに言及する層が挟み込まれている。冒頭ではレストランに向かって歩くダヴィドとウィリー、フロランスとギヨームをそれぞれ10分間の長回しで捉えているが、キャラと演者のレイヤーを目まぐるしく横断する。カンタン・デュピューが毎度擦り倒す"ワンアイデア逃げ切り作戦"における、今回の"ワンアイデア"はこれだ。俳優たちは現実と虚構を横断しながら様々な事柄に言及するが、中でもギヨームとウィリーの言動は過激だ。台詞から逸脱してトランスヘイトや障碍者差別を撒き散らすウィリー、戦争ばっかりの世の中で役者なんて意味あるのか!と叫びながらも、ポール・トーマス・アンダーソンに出演オファーされたら舞い上がって他の演者にマウント取りまくるギヨーム。一方で、ダヴィドはそんな二人を窘めて常識人として振る舞いながらも、その振る舞い自体に優越感を覚えていそうでもあり、フロランスは"(こんな世の中で役者を続けるのは)『タイタニック』の音楽隊と一緒"とその悲劇性に浸っている。全体的な印象としては映画業界に向けて"取り繕ってるけど本当は言いたいんだろ?(ニチャア"とでも言いたげな雰囲気を感じる。"今見ている瞬間は演じられているのか?"、つまり自ら言っているのか言わされているのかを煙に巻いているのも、姑息な気もするが、それらの区別がつかない人間を揶揄しているのかもしれない。

作中で撮影されている作品は、世界で初めてAIが脚本/監督する作品と紹介されており、いかにも機械的で人情味に欠けるギャグなんかもあった。それにしても、AIとガチバトルしてAI以上にAIっぽい作品を作り出せるのはコウメ太夫とカンタン・デュピューくらいしかいないのかもしれない。知らんけど。

・作品データ

原題:Le deuxième acte
上映時間:85分
監督:Quentin Dupieux
製作:2024年(フランス)

・評価:50点

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