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サボー・イシュトヴァーン『25 Fireman's Street』ハンガリー、破壊されるマンションが見たカオス的走馬灯
傑作。サボー・イシュトヴァーン長編四作目。前年に撮った短編『A Dream of a House』の続編のような立ち位置にある。ある夏の暑い夜、取り壊しの決まったペストの古びたアパートに暮らす人々は、不確かな未来に直面しながら呪われた過去を落ち着きなく回想する。激動の戦間期、矢十字党の時代、スターリン時代、住民たちが経験した様々な記憶を"意識の流れ"のように連続的に紡いでいく。それはまるで死にゆくアパートの見た走馬灯のようでもある。カメラに語りかけるように非線形な記憶が並べら
Ardit Sadiku『The Forgotten Mountain』アルバニア、"呪われた山"で過去の自分を見た男
アルディト・サディク(Ardit Sadiku)長編二作目。無職の息子に家と店を騙し取られた老齢の父親リカルドは、娘エマを頼って夫ロレンツが持っている山奥の小屋に三人でやって来る。人口は20人程度の小さな村での生活は都会での問題を忘れさせるどころか、無視してきた問題まで表出させてしまう。娘夫婦は不妊治療を続けていたが、大きな手術が必要と分かってロレンツは躊躇している。仕事一筋で家族のことは妻に丸投げだったリカルドも、妻を亡くして意気消沈しており、実の息子に裏切られて慣れない環
Živko Nikolić『美しき罪の神話 (The Beauty of Vice)』モンテネグロ、古き法と美しき悪徳
大傑作。ジヴコ・ニコリッチ(Živko Nikolić)長編五作目。モンテネグロの山間部は何世紀もの間、厳格な掟に支配されていた。冒頭ではこんな事例が紹介される。自宅に帰ってきた主人は、玄関から半裸の男が逃げ出すのを目撃する。妻が不倫していたのだ。すると妻は諦めたように泣きながら"命を差し上げます"と言って顔より大きいパンを黙々と焼き始める。そして翌早朝から夫婦は小高い丘の上に登り、妻は無言で頭の上にパンを掲げる。主人はそのパンごと妻の頭をハンマーで叩き割る。これが不倫への罰