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クリス・ナッシュ『In a Violent Nature』タル・ベーラが撮った"13日の金曜日"

クリス・ナッシュ長編一作目。ある大学生集団が湖畔の朽ちた家にあった金のロケットを盗ったことで、そこに眠っていたかつての殺人鬼の死体が蘇ってしまい…というスプラッター映画だが、異様なまでに静かな映画である。カメラは時間を問わず、ひたすら同じ速度で森を歩いて移動する殺人鬼ジョニーの後ろを付いて回り、その先々で淡々と人が死んでいく。あまりにも歩き移動の長回しが多すぎるので、タル・ベーラが撮った『13日の金曜日』とか言われてた。が、モチーフは絶対にタル・ベーラではなくゲームの方だと思う。序盤は特に人間と接触しないせいか時間の変化も突発的で、別の時間に行った同じ動作を繋げ合わせることで、その間に流れた長い時間を感じさせながら圧縮するという高等技術を使っていた。また、人間だった頃の習性を覚えている系ではなく、完全に自分が人間的な制約を超越した存在であることを認識しているため、何時間も道なき道を休みなく歩き回ったり、湖の向こう側にいる相手を最短で殺すために迷わず水の中に入っていったり(湖の殺人シーンの長回しは白眉)、撃たれる前提でレンジャーに近付いたり、外れた制限を最大限活かしているのも面白かった。終盤はやや蛇足感あるけど、絶対車には勝てないと分かりつつもどこかで現れるんじゃないかと思わせるのは、そこまでの積み重ねあってこそか。

・作品データ

原題:In a Violent Nature
上映時間:94分
監督:Chris Nash
製作:2024年(カナダ)

・評価:80点

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