ナタリア・メタ『The Intruder』アルゼンチン、夢からの侵入者よ去れ!
傑作。2020年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。ようやく最後の作品。吹き替え女優として活動しながら(冒頭では片言の日本語で話すSM映画の吹き替えをしている)合唱団にも参加している主人公イネスは、恋人レオポルドとの旅行中に機内で奇妙な悪夢を見る。それは幼い頃から度々遭遇する悪夢だった。レオポルドに夢について問い詰められた夜、彼はホテルのバルコニーから飛び降りて死んでしまった。その後、高い声が出にくくなり、奇妙な音が自分の喉から出ているのではないかと疑い始めると当時に、現実と夢が入り混じっていく。フレームイン/アウトによる人物の登場/消失が非常に上手く、観客には見えているが次の瞬間には消えてしまうという共犯関係が完成するのが非常に上手い。アルゼンチン映画なのでラウラ・シタレラ『Ostende』の不条理劇&フレーム管理を思い出した。また、暗闇の使い方も上手く、鼻から咽頭にカメラを入れるシーンでは、なぜか病室を真っ暗にすることで喉から光を発する神秘的なシーンにしていた(直前に蛙亭のホタル飲み込むネタを見てたので余計にビビった)。全体的に同じような場所をぐるぐる回ってるような不明瞭な感じはあるものの、常に何かを起こそうとしているので好印象。主演のエリカ・リバスは『人生スイッチ』で結婚式がめちゃくちゃなる花嫁の印象が強いが本作品でも髪バサバサで化粧ボロボロで街中を這いずり回る姿を堪能できるし、それが圧倒的に官能的というかなんというか。
途中で印象的に登場するアルベルト(ナウエル・ペレ・ビスカヤール!)の職業がパイプオルガンの調律師だったり、主人公の奇妙な音探しに協力してくれるのが音響技師だったり、そもそも音の話だったりするので、もしかすると『メモリア』の先に『メモリア』してた作品になりえたのかもしれない。残念ながらPCでは音響に限界があるし、そこまで音を重要視している構成にはなっていなかったのが少々残念。
2020年ベルリンコンペはこれにて終了(一個前の『私は隠れてしまいたかった』から1年近く経過…)。審査員の真似事をすると、以下の通り。
・金熊:『Never Rarely Sometimes Always』
・審査員賞:『水を抱く女』
・銀熊監督賞:ケリー・ライカート(『First Cow』)
・銀熊男優賞:エリオ・ジェルマーノ(『私は隠れてしまいたかった』)、ウィレム・デフォー(『Siberia』)
・銀熊女優賞:エリカ・リバス(『The Intruder』)
・銀熊脚本賞:『Never Rarely Sometimes Always』
この年は5/18に0点を、それらを含めて10本に平均以下を付けてるほどレベルの低い年だったので、上澄みで固めた感じになってしまった。
・作品データ
原題:El prófugo
上映時間:95分
監督:Natalia Meta
製作:2020年(アルゼンチン等)