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アレクサンドル・レクヴィアシュヴィリ『The 19th Century Georgian Chronicle』ジョージア、森の村を守るために

人生ベスト。アレクサンドル・レクヴィアシュヴィリ長編一作目。オタール・イオセリアーニやギオルギ・シェンゲラヤの監督デビュー作、そして『放浪の画家 ピロスマニ』で撮影監督を務めたレクヴィアシュヴィリが満を持して撮った一本。森の中にある村に青年が帰ってくる。行政による森の開拓が目前に迫り、村は青年に全てを託して送り出す。青年には病気の母親がいた。彼女は医者に"遠くの木を見ると心が落ち着くよ"と言われており、この言葉によって青年の中で森の存続と母親(の余命)が重ねられる。村は長年その土地にあり、先祖代々の墓もあることが、親子の関係性に圧縮されたのだ。しかも、この映画には空がほとんどない。村は様々な表情の木々に覆われ、それがフレームのようになって画面全体を覆っているのだ。だからこそ、森がなくなれば村が我々がなくなるという言葉に迫真さが生まれる。代官たちの悪巧みはわざとらしく青空の下で行われる(相変わらず空は映さないが)のは対照的だ。代官たちは青年の言葉にも揺らがず追い返し、帰り道で殺そうとするが、ここで殺し屋三人組と青年、そして青年が街で出会った不思議な少女との静かな追走劇となる。鬱蒼と生い茂った背丈ほどある草が視界を邪魔して、それらを押しのけて進んでいるのに、視線だけは高低差や木々の間をスッと抜けるのが心底美しい。全体的に誰かの記憶を覗き見ているかのような懐かしさがあり、その静かな艶やかさにひたすら興奮していた。

・作品データ

原題:XIX saukunis qartuli qronika / XIX საუკუნის ქართული ქრონიკა
上映時間:76分
監督:ალექსანდრე რეხვიაშვილი / Aleqsandre Rekhviashvili
製作:1979年(ジョージア)

・評価:100点

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