毎日が雨で、梅雨のままの東京だった。 紫陽花も百合もアガパンサスもクチナシも 光を浴びる事が出来ずに輝く前に萎えている。 そのまま秋になり冬になった。 誰もが彼の…
「雨を聴く」というハープとフルートの為に書かれた結構難しい曲を薔薇フェスタの最後の日に演奏する依頼が来た。 生憎の小雨だったこの日は人もまばらで少しほっとした気…
「お前は誰だ!」 夫が叫ぶ。 もうこんな毎日が半年続いている。 マッチングアプリで1年前に結婚した二人。 夫は妻を亡くし再婚ではあったが、 とても優し人で、酒、タバコ…
天から神々が下界を眺めている。 神にとり人間は、UFOキャッチャーのパンダだ。 男と女の二人の神がゲームを始めた。 勝った神が言う。 「この二つの人間を恋人にしてみよ…
虫の声のする中庭に緑色の苔が蛍の光のように見える。 彼は成功したのだ。 苔の胞子に光りを与える事に。 ミクロの世界の苔の無数の胞子は、蛍光色に輝いている。 星屑のよ…
「もう少し行くと、水をくれる所があるぞ」 すれ違いざまに男が言う。 灼熱の太陽。喉がカラカラだ。 何とかふらふらと歩き出し遠くにオアシスがぼんやり見え、水があり、 …
「監督、あたくしの出番は殆ど無いではありませんか」 「大女優さん、もう君の時代は終わりなんですよ、既に新人女優に この役は決めていますし、それに」 この後は、少し…
朝からそわそわと緊張していた。 久しぶりに後輩に夜のクラブへ誘われたのだ。 以前は良く出かけたものだが、彼が居なくなって インドア派になりつつあった。 久しぶりに鏡…
ある夜の海。 ひとりの女性が箱を抱えて砂浜を歩いていた。 薄暗くあまり良く見えなかった修行僧は小さな声らしいものを 聞いたが、そのまま海に浸かり禊ぎを続けていた。 …
学生時代、父親の経営する会社が割と上手く起動に乗り 家を都内の平屋から、お台場のタワマンに移り住んだ時期があった。 湾岸道路が見え、芝生のガーデンがあり可愛い子犬…
標高の高い霧降る高原で、思い切り美しい景色を堪能して、 彼らはご機嫌だった。 日常を離れるとマンネリな夫婦も新鮮な空気を吸い、意気投合する という奇跡に出会える事…
キラキラしたミラーボールが回る舞台の上で 銀色の光を浴びながら、彼は踊っていた。 普段は書道家であるが、単に祖父の後を継いだ先生だ。 実のところダンサーになるのが…
はじめまして。 ちょっとした気分転換になる短い読み物が あったら良いな。 と思い、こちらのサイトを知り書かせて頂きたいと 思いました。 美しい物と毒気のあるものが好…
kiora
2024年6月9日 21:10
毎日が雨で、梅雨のままの東京だった。紫陽花も百合もアガパンサスもクチナシも光を浴びる事が出来ずに輝く前に萎えている。そのまま秋になり冬になった。誰もが彼の言う事に耳を貸さないでいた事に後悔していた。街の真ん中のゴミ屋敷の住人はいつもステテコ姿で玄関の前で座っていた。ステテコの生地は上等だ。門には、診療所と書かれた看板が貼り付けてある。医師だったようだ。座りながら読んでいるのは必ず
2024年6月9日 00:48
「雨を聴く」というハープとフルートの為に書かれた結構難しい曲を薔薇フェスタの最後の日に演奏する依頼が来た。生憎の小雨だったこの日は人もまばらで少しほっとした気持ちになる。春の薔薇も最後の風情で、バラ達の前は雨のベールで包まれた。弦は湿気に弱いので、どきどきしながら、フォルテッシモで静かな霧雨の音を出しフルートと合わせた。時にバラ園の噴水のように。時にまだ発見されていない小さな滝のように。
2024年6月2日 16:42
「お前は誰だ!」夫が叫ぶ。もうこんな毎日が半年続いている。マッチングアプリで1年前に結婚した二人。夫は妻を亡くし再婚ではあったが、とても優し人で、酒、タバコ、ギャンブルもやらず所謂いい人だった。夫の持ち家も新しかったし、外観に少しのリフォームをしてそのまま移り住んだ。夫の様子がおかしくなったのは、結婚後半年くらいからで、病院に連れて行くと若年性アルツハイマーであると告げられた。
2024年6月1日 20:22
天から神々が下界を眺めている。神にとり人間は、UFOキャッチャーのパンダだ。男と女の二人の神がゲームを始めた。勝った神が言う。「この二つの人間を恋人にしてみよう!」選ばれた人間の男女は広いキャンパスに設置され、ゲームは再び始まった。大学のキャンパスに置かれた人間二人の駒は正反対の性格の持ち主だった。男はかなりおっとりしたマイペース型。女はと言うとせっかちでいつも急いでいた。彼
2024年5月25日 19:21
虫の声のする中庭に緑色の苔が蛍の光のように見える。彼は成功したのだ。苔の胞子に光りを与える事に。ミクロの世界の苔の無数の胞子は、蛍光色に輝いている。星屑のような形のスナゴケのベッドに横たわりながら、彼は彼らに話しかける。「なんて美しい光だろう。なんて可愛い子たちだろう」と。光ったタマゴケの胞子たちは、風船のようにゆらゆら揺れながら尾を携えて身体をあるがままに委ねている。透ける薄いグ
2024年5月19日 21:38
「もう少し行くと、水をくれる所があるぞ」すれ違いざまに男が言う。灼熱の太陽。喉がカラカラだ。何とかふらふらと歩き出し遠くにオアシスがぼんやり見え、水があり、大きな魚が泳ぐ様が見えた。あと少しだ。しかし、行けども行けども水は永遠にない様に思える。これが砂漠の蜃気楼なのか。前からラクダに乗った身なりの良い男がやって来た。「水がもらえる所があるぞ、直ぐそこの建物の中にキリスト様がいる」
2024年5月17日 09:53
「監督、あたくしの出番は殆ど無いではありませんか」「大女優さん、もう君の時代は終わりなんですよ、既に新人女優にこの役は決めていますし、それに」この後は、少し言い過ぎかと喉の奥で飲み込んだ。既に死亡説まで噂が広まってるし、彼女をこの舞台で使うのも躊躇されたが、スポンサーのどうしてもの頼みに従ったまでのことだ。と。「でも、ローズマリーの花束を持って、流れて行くsceneはわたくしにもっと
2024年5月10日 20:23
朝からそわそわと緊張していた。久しぶりに後輩に夜のクラブへ誘われたのだ。以前は良く出かけたものだが、彼が居なくなってインドア派になりつつあった。久しぶりに鏡に向かってマスカラをつけ、微笑んでみる。老けたかな、いやまだまだ行けるかな。ドレスは少し派手目のパープルのサテン地にゴールドオーガンジーの網のかかるアシンメトリーの長めスカートにした。家から駅まで歩くと目立つ格好なので、現地までタ
2024年5月7日 20:52
ある夜の海。ひとりの女性が箱を抱えて砂浜を歩いていた。薄暗くあまり良く見えなかった修行僧は小さな声らしいものを聞いたが、そのまま海に浸かり禊ぎを続けていた。明くる日、箱の中は開けられ中には何も入っていなかった。アオバトが海水を飲みに来る時期で、カメラマンで賑わう大磯の海。命がけの塩分補給には、子供の鳩もいて、それをハヤブサが狙うのだ。母なる海は時に優しく時に荒々しく波を起こし、アオバ
2024年5月5日 18:11
学生時代、父親の経営する会社が割と上手く起動に乗り家を都内の平屋から、お台場のタワマンに移り住んだ時期があった。湾岸道路が見え、芝生のガーデンがあり可愛い子犬たちを抱えたハイソな奥様方が東京湾を観ながら談笑してる姿は理想郷のようにも思えたものだ。うちにも犬が居たが、その中の高級な服を着た犬種とは違い雑種の捨て犬だったけれど、家族全員とても可愛がっていたし引け目を感じる事はなかった。タワマ
2024年4月26日 18:27
標高の高い霧降る高原で、思い切り美しい景色を堪能して、彼らはご機嫌だった。日常を離れるとマンネリな夫婦も新鮮な空気を吸い、意気投合するという奇跡に出会える事もある。車中での会話も弾み、高原のペンションでの食事にも満足していたし、何よりまだ春浅いこの場所で趣味のバードウォチングを楽しみ、ハイキング出来た事でリフレッシュ感は絶好調に思える二人だった。いつもは喧嘩か空気の様に会話もなく、お
2024年4月14日 22:03
キラキラしたミラーボールが回る舞台の上で銀色の光を浴びながら、彼は踊っていた。普段は書道家であるが、単に祖父の後を継いだ先生だ。実のところダンサーになるのが夢だった。ニューヨークにも留学した時期もあるが、もはや30歳半ばともなると、潔く諦める仲間も多くこうして地下アイドルと共に演じられる事はまだ良い方かと自分を慰める様に力いっぱいステップを踏む。今夜は特別なんだ、彼女が観に来てるか
2024年4月9日 21:31
はじめまして。ちょっとした気分転換になる短い読み物があったら良いな。と思い、こちらのサイトを知り書かせて頂きたいと思いました。美しい物と毒気のあるものが好きです。案外、ゴシップも興味津々。楽しい時間にしたいです。