kiora

はじめまして。 さくっとすき間時間に読めて、深く考えなくて良い 程々のショートショート…

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はじめまして。 さくっとすき間時間に読めて、深く考えなくて良い 程々のショートショートを書いてみたいと思いました。 好き:庭の薔薇・野鳥・森・空。 代謝オタク・玄米好き。 夢は、古代出雲歴史博物館に住む事です。 2023年9月から4ヶ月で8キロの減量に成功!?しました!

最近の記事

「クロワッサン」

りんご箱をDIYして、趣味の珈琲のサイフォンやら豆やらが並んだ 棚を見つめながら、入れ立てのカフェラテの香りに包まれて、 モーニングルーティーンを気持ち良く熟す彼だった。 売り出し中のモデルルームの様な部屋で満たされた朝。 渦巻き型のクロワッサンとミルで引き立てのカフェ。 一人だけの時間に思い切り囲まれる幸福だった。 クロワッサンの渦巻きを見つめていると、ふっと目眩に襲われ 気を失った感じを覚えた。が直ぐに普通に戻り、辺りを見渡すと そこは、自分の部屋では無くなっていた。 ど

    • 「メランコリー」

      引っ越し先の近くの動物園に母と行く事になった。 事前に友人に話を聞いたところ  コアラはつまんないわよ、ユーカリ食べて寝てるだけだから! と言われつつも道順通りだと次はコアラだった。 子供達の燥ぎ声が聞こえて来る。 なんと。コアラが縦横武人に歩き回っている。 これを見て子供達が騒いでいたらしい。 木の上を歩いたり、追いかけっこをしたり。 暫く、躍動するコアラの姿に癒やされてここを跡にする。 ふっと視線を感じて振り返ると、コアラ達は私たち二人を見送る様に 見つめて動きを止めてい

      • 「薫香」

        嵐の次の朝、波打ち際に流木を見つけた。 年を取った海女は、何時もの様に焚き火をする為、 その木を拾って燃やしながら冷えた身体を温めた。 幼い頃から海女一筋の彼女の身には冷たい海もそろそろ堪える。 火に当たりながら、今日の収穫物のサザエやアワビを片付けながら いつになくぼんやりと幸福感に包まれていた。 起きたこともない、嬉しい出来事や憧れた人生があたかも 実際の出来事のように頭に浮かぶのだ。 ふっと夢から覚める様に焚き火の火を見つめると 煙が立ち上り、その中から今まで嗅いだ事の

        • 「夏至のキャンドルナイト」ーエッセイ

          滝のような雨が幸い上がった。 今日は夏至で、増上寺でキャンドルナイトの催しが開催され、 2時間、東京タワーの灯りも消されます。 しかし、このキャンドルナイト、真意のほどは如何に。 始まった当初は環境問題や節電を考える趣旨だった様にも思うが、 今は、個人のスローライフを楽しむと言う事が全面に出された気がする。 コロナが収まったり、マスクの人もかなり減り、自由な行動が出来る昨今。 私的には、キャンドルというと、3.11の時の計画停電が蘇り、寒かったあの時を思い出してしまうし、キャ

        「クロワッサン」

          「宴」 #シロクマ文芸部

          紫陽花を探す。ある夜大富豪の植物収集家から、幻の紫陽花とも言われる 「七段花」を探して欲しいとの依頼が、プラント・ハンターの彼のもとへ 舞い込んだ。 江戸時代後期にシーボルトだけが見た幻のヤマアジサイの変種である。 医師であるシーボルトは「日本植物誌」にその姿を残してはいるが、 実物は依然見つからずに、幻の紫陽花として名を馳せていた。 彼は長年の勘でだいたいの道筋をつけ、心当たりの深い森に入った。 森の中は過酷で、湿った土でドロドロになりながら、ぬるんだ岩に足を滑らせて転ん

          「宴」 #シロクマ文芸部

          「泡沫」

          ブルー・ギガンティアの咲き誇る夜。 ガラスの天井を開けて、月の光を浴びて熱帯スイレンは輝いている。 生暖かい風の吹く中、その花々を見ながら、手を合わせて感謝を捧げる彼の姿はこの青い熱帯スイレンへのオマージュと呼べるのだろう。 このスイレンを育てる為に、潮の香りのする河岸に家を借り、池を作った。 元は漁師の住む家であったが、この辺の漁は今では廃れて来ていた。 会社員の彼は、アラフィフの敏腕で仕事の評判はすこぶる良く、自己肯定感は異常なほど高く、誇りに満ちていた。 そんな彼で

          「泡沫」

          「遠い夏」

          毎日が雨で、梅雨のままの東京だった。 紫陽花も百合もアガパンサスもクチナシも 光を浴びる事が出来ずに輝く前に萎えている。 そのまま秋になり冬になった。 誰もが彼の言う事に耳を貸さないでいた事に後悔していた。 街の真ん中のゴミ屋敷の住人はいつもステテコ姿で玄関の前で 座っていた。ステテコの生地は上等だ。 門には、診療所と書かれた看板が貼り付けてある。 医師だったようだ。座りながら読んでいるのは必ずドイツ語の本だった。 傍らには黒猫がいてその猫も大抵は黙って足下にね転んでいる。

          「遠い夏」

          「面影」

          「雨を聴く」というハープとフルートの為に書かれた結構難しい曲を薔薇フェスタの最後の日に演奏する依頼が来た。 生憎の小雨だったこの日は人もまばらで少しほっとした気持ちになる。 春の薔薇も最後の風情で、バラ達の前は雨のベールで包まれた。 弦は湿気に弱いので、どきどきしながら、フォルテッシモで静かな霧雨の音を出しフルートと合わせた。 時にバラ園の噴水のように。 時にまだ発見されていない小さな滝のように。 開いた花びらに雨粒が次々と降り注ぎ、うつむき加減のその姿は、 最後に会った彼女

          「面影」

          「恍惚」

          「お前は誰だ!」 夫が叫ぶ。 もうこんな毎日が半年続いている。 マッチングアプリで1年前に結婚した二人。 夫は妻を亡くし再婚ではあったが、 とても優し人で、酒、タバコ、ギャンブルもやらず所謂 いい人だった。 夫の持ち家も新しかったし、外観に少しのリフォームをして そのまま移り住んだ。 夫の様子がおかしくなったのは、結婚後半年くらいからで、 病院に連れて行くと若年性アルツハイマーであると告げられた。 マッチングアプリでもそこまでの予測は出来かねる様だ。 30代後半の結婚であった

          「恍惚」

          「時間がない」

          天から神々が下界を眺めている。 神にとり人間は、UFOキャッチャーのパンダだ。 男と女の二人の神がゲームを始めた。 勝った神が言う。 「この二つの人間を恋人にしてみよう!」 選ばれた人間の男女は広いキャンパスに設置され、 ゲームは再び始まった。 大学のキャンパスに置かれた人間二人の駒は 正反対の性格の持ち主だった。 男はかなりおっとりしたマイペース型。 女はと言うとせっかちでいつも急いでいた。 彼女は広いキャンパスを自転車で急いで移動して次の授業を受け、 彼は余裕を持ってゆっ

          「時間がない」

          「輝き」

          虫の声のする中庭に緑色の苔が蛍の光のように見える。 彼は成功したのだ。 苔の胞子に光りを与える事に。 ミクロの世界の苔の無数の胞子は、蛍光色に輝いている。 星屑のような形のスナゴケのベッドに横たわりながら、彼は彼らに話しかける。 「なんて美しい光だろう。なんて可愛い子たちだろう」と。 光ったタマゴケの胞子たちは、風船のようにゆらゆら揺れながら 尾を携えて身体をあるがままに委ねている。 透ける薄いグリーンの葉にイエローの灯りが中庭と彼を照らし続けている。 「ありがとう、我が子た

          「輝き」

          「永遠の終わり」

          「もう少し行くと、水をくれる所があるぞ」 すれ違いざまに男が言う。 灼熱の太陽。喉がカラカラだ。 何とかふらふらと歩き出し遠くにオアシスがぼんやり見え、水があり、 大きな魚が泳ぐ様が見えた。 あと少しだ。 しかし、行けども行けども水は永遠にない様に思える。 これが砂漠の蜃気楼なのか。 前からラクダに乗った身なりの良い男がやって来た。 「水がもらえる所があるぞ、直ぐそこの建物の中にキリスト様がいる」 「金と交換だがな」 金とは聞いてないな。慈悲深いお方と聞いていたが。 建物の前

          「永遠の終わり」

          「グローリー」

          「監督、あたくしの出番は殆ど無いではありませんか」 「大女優さん、もう君の時代は終わりなんですよ、既に新人女優に この役は決めていますし、それに」 この後は、少し言い過ぎかと喉の奥で飲み込んだ。 既に死亡説まで噂が広まってるし、彼女をこの舞台で使うのも 躊躇されたが、スポンサーのどうしてもの頼みに従ったまでのことだ。と。 「でも、ローズマリーの花束を持って、流れて行くsceneはわたくしに もっとも相応しいものだと、それなのに、脚本の柱に棺の中、ト書きは、 殆ど書かれていない

          「グローリー」

          「インプロビゼーション」

          朝からそわそわと緊張していた。 久しぶりに後輩に夜のクラブへ誘われたのだ。 以前は良く出かけたものだが、彼が居なくなって インドア派になりつつあった。 久しぶりに鏡に向かってマスカラをつけ、微笑んでみる。 老けたかな、いやまだまだ行けるかな。 ドレスは少し派手目のパープルのサテン地にゴールドオーガンジーの網のかかるアシンメトリーの長めスカートにした。 家から駅まで歩くと目立つ格好なので、現地までタクシーを呼んだ。 そこは、古民家を改造したアールヌーボーの古い洋館で雰囲気がある

          「インプロビゼーション」

          「海原」

          ある夜の海。 ひとりの女性が箱を抱えて砂浜を歩いていた。 薄暗くあまり良く見えなかった修行僧は小さな声らしいものを 聞いたが、そのまま海に浸かり禊ぎを続けていた。 明くる日、箱の中は開けられ中には何も入っていなかった。 アオバトが海水を飲みに来る時期で、カメラマンで賑わう大磯の海。 命がけの塩分補給には、子供の鳩もいて、それをハヤブサが狙うのだ。 母なる海は時に優しく時に荒々しく波を起こし、アオバトの群れは翻弄されながらも命の補給を続けるのだった。 アオバトが静かな山の巣に帰

          「海原」

          「美しい人」

          学生時代、父親の経営する会社が割と上手く起動に乗り 家を都内の平屋から、お台場のタワマンに移り住んだ時期があった。 湾岸道路が見え、芝生のガーデンがあり可愛い子犬たちを抱えたハイソな 奥様方が東京湾を観ながら談笑してる姿は理想郷のようにも思えたものだ。 うちにも犬が居たが、その中の高級な服を着た犬種とは違い雑種の捨て犬だったけれど、家族全員とても可愛がっていたし引け目を感じる事はなかった。 タワマンに住んでいるご近所さん達も、うちの雑種のこの犬を可愛い子ね! と言ってくれたり

          「美しい人」