見出し画像

「メランコリー」

引っ越し先の近くの動物園に母と行く事になった。
事前に友人に話を聞いたところ
 コアラはつまんないわよ、ユーカリ食べて寝てるだけだから!
と言われつつも道順通りだと次はコアラだった。
子供達の燥ぎ声が聞こえて来る。
なんと。コアラが縦横武人に歩き回っている。
これを見て子供達が騒いでいたらしい。
木の上を歩いたり、追いかけっこをしたり。
暫く、躍動するコアラの姿に癒やされてここを跡にする。
ふっと視線を感じて振り返ると、コアラ達は私たち二人を見送る様に
見つめて動きを止めていた。

次は、ゴリラの外エリアだった。
ど真ん中に威張った大きなゴリラが椅子に座ってこちらを見ている。
どっちが、見られてるのか解らないのが動物園だろうか。
すると、ボスゴリラは母の前までつかつかと歩いて来た。
「よっ、久しぶり」
とでも言うかの様に手を上げた。
その姿に回りの観客も大爆笑となった。
彼の視線の先は明らかに我母親なのであった。
その時思う。
猿人から人へと進化した過程で、その事を身体ごと忘れてしまうけれど、
ひと握りの人間はまだ身体の中に原始の姿を留めているのだろうと。
冗談めかしに、母は
「私に挨拶に来たわよ」
何だか嬉しそうに話した。そう言わせるほど、ボスゴリラの行動は
あからさまなのだった。

順路を歩くと看板があり
「病気療養中ですが、このゴリラは室内で拝観可能です」。
少し薄暗い室内にそのゴリラは寝そべってテレビを見ていた。
モノクロのメロドラマのようだ。
説明を読むと、神経衰弱で外に出られないそうだった。
「あら可愛そうね、遠い所から連れて来られて狭い世界が無理だったのかしら」母が言う。
療養中のゴリラの目は何か憂鬱を訴える様に語り続けている。
シュールレアリズムでも追求し過ぎてしまったかのように。

Fin。

オリジナルストーリーNo.15

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?