マガジンのカバー画像

パンドーラーの池の底

100
出逢った素敵な物語。
運営しているクリエイター

#創作

『掌』

『掌』

当時、僕は小学三年生だった。軽度の知能障害はあったけれど、みんなと同じ教室で学び、同じ給食を食べ、同じグラウンドを駆け回って遊んだ。

ある日の授業中、鼻をほじっているところを先生に見とがめられ、「煙突掃除はやめなさい」と注意された。僕のいけない癖だった。鼻の穴がむず痒くなると電車の中だろうとどこだろうと構わずにほじってしまう。

いじめが始まったのはその日からだ。帰り際に外履きを隠されたり、「近

もっとみる
『着想の裏側』

『着想の裏側』

本日通勤途中に書いたじわじわもやもや系の「ほぼ140字小説」の着想の裏側について。あ、そんなこと考えて書いてんだ、と思っていただければ幸いです。しっかし、長い間テキスト書かない間に改行の仕様変わってたんだね(笑)

<ほぼ140字小説本文>
人身事故で電車が止まるたび、またかよと思う。生きていて嫌気がさす日もあるのだろうが他に方法は無かったのかと責めたくもなる。だが違った。“あれ”は常に口を開けて

もっとみる
『ちーちゃんとかれはさん』

『ちーちゃんとかれはさん』

丘の上のまん中に、白くて大きな建物がたっていました。
その中庭に、太っちょの木が一本はえていました。
太っちょの木がいいました。

「オラオラ! はっぱども!
さっさと光採りこんでエーヨー運ばんかい!
太陽はんかて、いつまでも
照ってるワケにはいかんのやで!
陽がくれてまうわ!」

はっぱをかけられた はっぱたちは
夏のあつい陽射しの中、汗をカキカキ働きました。

たくさんの光をエーヨーにかえては

もっとみる
『詩人の朝』

『詩人の朝』

確かに確かだ
ボクの本棚には真っ白い食パンが並んでいる
切り揃えられているそれを一冊抜き取ってみたまえ
どうにも香ばしい薫りが鼻腔をくすぐるだろう

引き出しに敷き詰めた珈琲豆から
弾きたて珈琲を優雅に奏で、芳醇に味わう朝
詩人の暮らしというのはどこかしら
かかとが浮いてるものさ

猫と自転車はセットだが
今は二人とも家出している
ニヤニヤしてしまうのを我慢しながら
チーズとバター味の喧嘩をして

もっとみる
『こころ』

『こころ』

心はどこまで広がれると思う?
心はどこまで深くなれると思う?
心はどこまで輝けると思う?
心はどこまで悲しくなれると思う?
心はどこまで黒くなれると思う?
心はどこまで強くなれると思う?

こたえは、どこまでも、だ。
心は、命そのものだから。

あとは君が、心をどうしたいかだ。

『僕と金魚と星降る夜と』

『僕と金魚と星降る夜と』

大のクジラが二足歩行で歩いているのだから
ワニだって二足歩行で歩いていい。
こんな星降る夜なら特に。

口をあけて
星を食べると
金平糖のように甘い味がした。

霜の降りた道に
静かにバスが停まり、
魚たちが降りたり乗ったり
僕も乗らなきゃいけないはずなのに
体が動かない。

バスが去ってゆく。
赤いテールランプが峠の向こうにかすんで消える。
金縛りがとけて走り出す。
駆けても駆けても景色は同じ。

もっとみる