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【戦略編③】誰もいない夜の街でも満席に。ターゲットと差別化 (#11)

こんにちは。
神奈川県三崎でやっていた間借り飲食店『きむら』の店主です。

第11回の今回は【戦略編③】。
戦略編全6回(第9回~第14回)のうちのPart③です。

第9回:【戦略編①】戦略全体図と理想の店づくり
第10回:【戦略編②】間借りで自分のレベルチェック
第11回:【戦略編③】ターゲティングと差別化
第12回:【戦略編④】理想の店づくりまでのシナリオ
第13回:【戦略編⑤】インスタ活用術
第14回:【戦略編⑥】間借りのメリット・デメリット

前回、前々回は、『きむら』の戦略の全体図(現在地、戦略、理想)の中でも、”理想”=目指す店づくり(【戦略編①】)、”現在地”=自分のレベルチェックの場としての間借り飲食店(【戦略編②】)について記しました。

戦略全体図


【戦略編③】の今回は、いよいよ”戦略”の中でも最も重要とも言えるターゲットについての内容です。長いです。

”現在地”を知り、”理想”へとつなげていくために、どのような”戦略”を考えていたのか、第11,12回(戦略編③,④)はそんな内容になります。

では今回も宜しくお願いします。



戦略編③ ターゲティングは超重要!


戦略


はじめに:
ここからは『きむら』を営業していく上での戦略面の話をします。


戦略②


▶ここでは、あえて商売的な観点での話をします。

▶僕自身の店づくりの根本的な方針として、策略で集客するという考え方はあまり好きではありません。もちろんビジネスを考える上では非常に重要であるということは言うまでもないのですが、「何をすればお客様に喜んでもらえるのかを日々悩み、考え、少しずつお客様が集まるような空間ができた」というのが僕の目指す店づくりです。

▶しかしながら、この章ではそういった“想い”のような情的な側面ではなく、あえて戦略的な視点で『きむら』を考察することで、他の店でも応用できるような内容にできればと考えています。

▶戦略の根幹となるのが、前項にて紹介した理念・目指す店づくりである「家にいる感じで呑める、美味しい小料理屋」です。これを実現するために客層を絞るなどの戦略を考えていきました。


店が良い回り方をするまでのシナリオ

理想の店へのシナリオ


▶『きむら』の営業形態(アラカルト・予約制・コース制)について、中長期的なシナリオはざっくりと上の図のような流れになります。

▶『きむら』の店の変遷を辿ってみると、アラカルトの時期があったり、予約制に切り替えたり、コース制にしたりと色々な時期がありました。
それぞれの時期については、次の記事にて詳しく扱います。


▶ここでは戦略の根本ともいえるターゲットについて詳しく扱っていきたいと思います。



自分の店のターゲットのイメージを明確に持っておく。

ターゲット


▶いきなり図の最後の部分となってしまいますが、ビジネスにおいて自分のサービスのお客様の像を明確にすることは非常に重要とされているようで、『きむら』においても日々の営業の中で、自分のお店にどのような方が来て欲しいか、そして逆にどのような方はあまり望ましくないかを考えていました。



ターゲットを定めることは、店の方針で迷わないようにすること。

自分のお店の客層を絞ることがなぜ大事なのかというと、それは人によって喜ぶサービスが違うからです。
ごはんを食べるときに、出来るだけ安く済ませたい人もいれば、美味しいものにはお金の糸目をつけない人もいます。自分のお店に来てもらいたいお客様がどのような志向であるかを把握することによって、店の方針で悩んだときに「自分のお店に来るお客様ならどちらを好むか」という視点で判断することが出来ます。



ターゲットかそうでないかを線引きすることも重要。


▶そして、来て欲しい客層を考えるとともに、意外と重要であると考えていたのが、望ましくない客層を把握しておくことでした。

▶このように書くと、「客に線引きをするなんてなんて店だ」と思われてしまいそうですがそういうわけではありません。ルイヴィトンの客層はユニクロの客層とは違います。どのビジネスにもメインの客層の線引きはあります。
この線引きを自分なりに決めておけば、ターゲットでないお客様の意見に振り回されることもなければ、ターゲットでないお客様が次回来店しなかったときに過剰に凹むこともありません。

▶ターゲットでないからといって、変に差別するようなことは絶対にありませんが、あくまで自分のお店の方針を貫くという点でこのような線引きを把握しておくことはとても効果的だったように思います。



『きむら』のターゲットはシンプルに言えば“食べることが好きな方”。


11) 茶碗蒸し


▶一言で表せば、『きむら』のターゲットはグルメな方です。言い換えれば、美味しいものを食べるためにはお金を気にしない方。
これはお金持ちということではありません。大学生でも食べることが大好きで自分から色々なレストランに足を運ぶような方もターゲットでした。



ターゲティングをする際の切り口は様々。

▶ビジネスの世界では、ターゲットの話が出るときには性別や年齢、地域などでまずは区切ることが多く見受けられますが、必ずしもそれだけが正解ではないという考え方でやっていました。

▶もちろん、ざっくりとメインとなる客層の年齢や性別はありましたが、あくまでも『きむら』のターゲットは“食べることが好きな方”。

▶もう少し加えると、三崎の客層はまず観光客と地元客に二分されますが、地元客をメインに考えていました。それは将来的にお店を開く際に、観光客相手に、一度しか来店してもらえないような店づくりをするつもりはなかったからです。

▶その他にも飲食経験や味の好みなど挙げ始めればきりがないですが、ターゲットについては明文化できなくてもざっくりと自分の中にイメージがある程度でもいいと思っています。彼らの価値観や考え方がなんとなく想像つく程度で、そしてそこに店づくりを合わせていければそれでいいのではないでしょうか。


『きむら』はターゲットをどのように絞ったか。

日本酒

▶ターゲットの絞り方は色々あると思いますが、『きむら』の場合は僕自身の作りたい料理や出したい酒があって、それに合うようなターゲット像を考えていきました

▶反対に、その街に住んでいる人はどういう人で、彼らにアプローチするにはどういう店を作ればいいかと考えるやり方もあります。

▶この2つのやり方の違いは、簡単に言えば供給が先か需要が先か。自分が供給できるモノに合ったお客様の需要を相手にするのか、お客様が欲している需要にあったモノを自分が提供するのか、という違いです。

▶そして、「『きむら』の料理や酒、店づくりを好んでくれる方々はどういう人なのだろう」ということを考えながら、料理だけでなく店づくり全般についての決めごとを進めていきました



『きむら』のターゲットは三崎にいる?


▶オープン前に僕が単価7,000円程度の少し良い居酒屋をやろうと考えていたとき指摘されたのが、「三崎には3,000-4,000円程度の居酒屋がほとんどで単価7,000円のお店などない」ということでした。

▶これが非常にビジネスを始める上で難しい点だと思います。自分のお店の理念やターゲットが決まっても、実際にそのターゲットが周囲に存在するか分からないということです。特に『きむら』のようなやりたい料理(供給)が先行しているお店の場合、需要を調査してそれに合う店づくりをするわけではないので余計に難しかったように思います。

▶というわけで、食にどのくらい関心がありお金を使う人がいるのか分からないまま、「まずはやってみてそこから考えていこう」という考えで始めたお店が『きむら』です。このような“とりあえずやってみる“を低リスクでできるのも間借りのメリットであると思います。


実際に始めてみて。

4) のれん③


▶実際にお店を開店すると、三崎の夜の様子が分かってきました。コロナ禍の三崎では夜7時以降に出歩く人などほとんど皆無で、ターゲットであるかどうか関係なく、そもそもお客様の母数自体が極めて少ないのが見て取れました。



ターゲットについての方針を少し修正。

▶間借りならではのアピール時間の少なさもあり、この時点で少しターゲットについての方針転換をしました。地元の方々をメインターゲットとしていましたが、通りすがりの方は新規客としては望めないため、SNSやグルメサイトを活用しての集客を行うことにしました。ターゲットをより絞る形となりましたが、「食べることが好きな方」の中でも積極的にスマホを使って情報収集をする方をターゲットとして販促を進めていくことにしました。

▽SNSの活用方法については、戦略編⑤をご参照下さい。



ターゲティングで一番重要なのは、“いかに彼らの嗜好を想像できるか”。

▶ターゲットを定め、自分のお店の料理や酒、値段、提供方法などを決めていく上で一番重要だと感じたことは、“いかに彼らの価値観や考え方、好みを想像できるか“ということです。

▶特に『きむら』のような店では、ターゲットとなる客層が三崎では非常に少ないため、いかに彼らに合った店づくりをしていくかが重要でした。



料理もターゲットの嗜好に合わせる。

16) 出汁


▶『きむら』のターゲットは「食べることが好きな方」がベースにあるので、料理の内容もそれに沿ったものになります
出汁は鹿児島の枕崎から取り寄せた本枯節を、引く直前に削って取っていました。昆布は北海道の羅臼と利尻から。塩は3,000円/kg程度の最高級の藻塩を。濃口醤油も三ツ星レストランで使われるものを使っていました。

▶そこまでする必要はないかもしれませんが、あくまでターゲットとなるお客様に喜んでもらうという点だけあり、食好きな方相手なら自分の出来る範囲での最高の出汁を出すのが良いだろうという考えでした。



利用するグルメサイトもターゲット次第。

食べログ


▶グルメサイトを利用した集客の件について少し加えると、使うグルメサイトを検討したとき、自分ならどのようにしてお店を探すか、ということを考えました。それは僕自身も『きむら』のターゲットとなりうる客層だったからです。僕自身、食べログやインスタをみてお店を探すことが多かった(特に食べログ)ので、口コミや写真が豊富でグルメサイトとして信頼性が高いと感じていた食べログのページを作りました。

▶飲食店を始めると色々な販促サービス(グルメサイトへの掲載が多い)の営業電話が多くかかってきましたが、使いたいSNSやグルメサイトが明確だったからこそこうした営業に振り回されることはありませんでした。

グルメサイトによって利用する客層は異なるので、自分の店づくりにマッチした客層が良く使うグルメサイトを選ぶのが良いかと思います。



値付けも基本的にはお客様目線で。


メニュー


▶ターゲットに合わせた店づくりの他の例でいうと、『きむら』では料理の値段をつけるとき、基本的には僕自身の直感で決めます。
自分ならその料理にいくら出したいか。よくある原価や競合店の価格を基準にして値付けすることはありませんでした。これまで行ったお店の経験からいくらくらいが妥当であるか考え、それよりも少しだけ安いと感じる価格をメニューに記載していました。
結局のところ、お客様にとって原価というのはそれほど関係ないように思います。彼らが直感的にどう感じるか(いくらくらいなら満足し、いくらくらいなら→数感じるのか)が重要なのであり、それに基づいて、“あくまでお客様ベースで値付けをする”というのが『きむら』の考え方です。

▶ただし、このとき非常に重要なポイントは、人によって値段の感じ方
が違う
ということです。ここにターゲティングの意味が出てきます。つまり、ターゲットとなるお客様にとって妥当な金額であればいいのです。『きむら』では平均すると一品800~900円程度かと思いますが、価格だけを見て一概に高いと感じるようなお客様はターゲットではありませんでした



人によって喜ぶことは違うのだからターゲティングを。


▶300円の牛丼を好む人もいれば、30,000円のコース料理を好む人もいます。それは食への価値観や収入など色々な要素によって変わってきます。ただ一通りに絞る必要はないと思うのですが、なんとなく自分のお店のターゲットを考えてみて、そして「いったい自分のお店は誰に喜んでもらいたいのだろうか」、「彼らなら今考えている新しいサービスをどう思うだろうか」なんて考えてみるのはいいんじゃないかと思います。



実際にはビジネス的なことよりも、自分にとって良いと思う店づくりを。


▶結局のところ、マーケティング的なことをお話していますが、そのようなビジネス的なことよりも、自分が行きたいと思う店を作るということを心がけていました。言うなれば、『きむら』のターゲットには自分自身も入ります。食に関して自分と似た価値観を持っている人がターゲットということは、自分が心から行きたいと思える店づくりが重要なように感じます。



今回はここまでです。
マーケティングでは大事な大事なターゲティングのお話でした。

次回は『きむら』の戦略全体図(現在地、戦略、理想)の”戦略”のなかでも、開店半年で予約満席となるまでのシナリオ、ストーリーのお話をしていきたいと思います。

では次回もよろしくお願いします。



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※『間借り飲食体験記』記事一覧

はじめに
『間借り飲食体験記』データファイルver 購入用記事
【総まとめ編】飲食店の売上、戦略、レシピ、全て公開! (#0)
【店の概要編】間借りで和食と日本酒のお店を7ヶ月やった話 (#1)
【自己紹介編】元会社員の僕が飲食店を開くまで (#2)
【開店準備編①】実際のオープンまでにやったこと ~前編~ (#3)
【開店準備編②】実際のオープンまでにやったこと ~後編~ (#4)
【収支編①】間借りって儲かるの?初期費用も売上も全て公開! (#5)
【収支編②】7ヶ月間の売上の変遷と5つの要因 ~ざっくり編~ (#6)
【収支編③】7ヶ月間の売上の変遷と5つの要因 ~詳細 前編~ (#7)
【収支編④】7ヶ月間の売上の変遷と5つの要因 ~詳細 後編~ (#8)
【戦略編①】理念こそ経営の要!店をやる上で大切にしていた想い (#9)
【戦略編②】間借りで自分の店がうまくいくかを試してみよう! (#10)
【戦略編③】誰もいない夜の街でも満席に。ターゲットと差別化 (#11)
【戦略編④】開店半年で予約満席。理想の店づくりへのシナリオ (#12)
【戦略編⑤】お店が知られない!?集客へのインスタ活用術 (#13)
【戦略編⑥】間借り飲食店のメリット・デメリット (#14)
【料理編①】料理は愛と論理。僕の料理に対する考え方 (#15)
【料理編②】レシピ、仕入れ先公開! (#16)
【料理編③】ミシュランのレシピも魚の熟成も!参考YouTube集 (#17)
【料理編④】間借り営業までのスケジュール (#18)
【料理編⑤】仕込みの順序や優先順位の付け方 (#19)
【日本酒編①】テイスティング講座 (入門編) ~6つのタイプ~ (#20)
【日本酒編②】タイプ別解説&おすすめ銘柄 (#21)
【オペレーション編①】仕込み (#22)
【オペレーション編②】営業 (#23)
【オペレーション編③】営業 (#24)
【オペレーション編④】店舗設計 (#25)

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