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エッセイ

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ドはドーナツのど~でもいい話

ドはドーナツのど~でもいい話

あれはもう、数十年前。
中高一貫カトリックの女学校に通っていた頃のことです。

母校は近隣でお嬢様学校と言われていただけあって、体育祭も、学園祭も、父兄以外立入禁止でした。

とくに、学園祭はチケット制で、生徒は一人2枚のチケットをもらいました。
そのチケットを持った人しか秘密の花園に入ることはできません。

たいていは親兄妹が来るのですが、彼氏を呼ぶつわものもいて、なかなかに楽しく、しかし静かな

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十年前の熊本旅行記

十年前の熊本旅行記

 もう十年ちかく昔のことだ。
 週末を利用して熊本に旅行した。寒い日が続いていたので覚悟をしていたのだが、当日は小春日和。コートが邪魔なほどの陽気だった。

 熊本に旅行するといえば熊本城に突進するというのが私の中でのお決まりだ。熊本城をこよなく愛しているのだ。
 しかし今回は道連れがあり、連れのリクエストに答える形で水前寺公園に行くことになった。

 水前寺成趣園というのが正式名称のこの観光スポ

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無職といふこと

無職といふこと

 アラームが鳴ってスマホを見ると七時、もう起きないと遅刻する。そう思って枕から頭を離した。

「そうか、もう仕事行かなくていいんだ」

 ぽふりと頭は枕に戻る。ぼんやりと天井を見つめる。白い天井に午前のゆるい光が届いてわずかな起伏がやわらかな影を産む。それが遠くに飛んでいくような眩暈を感じて目を閉じた。

 次に起きた時には時刻は十一時を過ぎていた。いささか寝過ぎて頭が重い。起き上がり、途方にくれ

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秋の終わりから10年さきへ

秋の終わりから10年さきへ

 家を出てすぐに風に吹かれた。服を素通りしたかのように肌に直接、寒さが沁みた。もう冬のコートを出した方がいいようだ。

 昨日、契約がきれて仕事を失くした。十月の終わり、秋の終わり。
 
「大きくなったら何になりたい?」
 という問いに、子供の頃は無邪気に答えていたっけ。今は「この先何になりたい?」聞かれても答えられない。未来は茫洋として霧の向こうにあり、一歩先だって見えはしないのだから。

 十

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安息日ごっこ

安息日ごっこ

2023年11月25日(くもり)

わかったこと。
私の中には大きな『からっぽ』がある。

今日は安息日ごっこをすると昨夜決めた。一か月すればクリスマス。ちょうどいい期日だからだ。

ちなみに、安息日の情報はネットで簡単に調べただけ。ユダヤの人のシャバットを目指してみた。クリスマス関係なくなるけど。
シャバットが心身を安らげるという誰かの言葉を半信半疑で行ってみたというわけだ。

安息日には仕事を

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あの夢はもうかなわない

あの夢はもうかなわない

 夏休み、ひろこおばちゃんの家に行くのが、小学生時代の最大の楽しみだった。

 洗練されたお屋敷は昭和初期に建てられたらしいが、手入れがよく傷みもない。
 美しい水が満ちた池には錦鯉。池のまわりの樹木はいつもきれいにととのえられていた。
 白い漆喰塗りの塀の中に一歩入ると、世界が違うのかと思うほど空気が澄んでいた。

 ひろこおばちゃんが、このお屋敷の住み込みの管理人だと知ったのは小学校に上がって

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ICUごはん

ICUごはん

死にかけたことがある。2012年のことだ。

肺塞栓症というものになって、呼吸が出来なくなった。血液の塊が肺の血管に詰まったのだ。脳梗塞や心筋梗塞の仲間のようだ。

数日来、体調が悪かったが仕事に行こうと家を出て、すぐに倒れた。だが、有給休暇がもうない、どうしても出勤しなくては。
渾身の力で起き上がり、道路に出た。そこで完全に意識を失って倒れた。

次に気が付くと、若いビジネスマンが私を覗き込んで

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Q.どんなセックスをすれば報われるか(いたらぬ男に処女を捧げた女について)

Q.どんなセックスをすれば報われるか(いたらぬ男に処女を捧げた女について)

「初めてって、本当に血が出るんだ」

 そう知ったのは31年と5か月を生き延びた冬のことだった。初めて男性と夜を共にした。
 初恋だった。

 理由もなく子どもを叩くような父親に育てられ、幼いころから男が嫌いだった。そんな私にも、理想の男性像があったのだと初めて知った。
 だがそのときには、なにもかも遅かった。

 想い人は職場の上司。他部署から異動してきた。異動の挨拶で皆の前に立ったときには、す

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メンタルが沈んでしまったときには

メンタルが沈んでしまったときには

鬱だ。頭がぼーっとするし、筋肉が痛むし、だるくて動けないし、なにより生きていることがつらくなった。

とにかく安まねばならない。だが、横になっても上手く眠れず、腰が痛くなるだけ。眠るのは諦めて、能動的に「なにもしない」ということをすることにした。

なにもしないで、ぼーっと天井を眺めていると、胃のあたりのもやもやや、頭をしめつける後悔が少しずつ霧散していくのがわかる。

窓から差し込む朝方の弱い太

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良いならば書く、酔いながら書く

良いならば書く、酔いながら書く

 一人旅が好きだ。

「ああ、人生に煮詰まった……」

 そう思ったら、旅に出る。行く先はどこでもいい。近場の温泉地でも、駅前のビジネスホテルでも。なんなら、ネットカフェでも。

 ただひとつだけ、条件がある。

 酒が飲める場所に限る。

 なので、宿坊はだめだ。

 先般、執筆活動に煮詰まった。それはもう、グツグツ音をたてて煮える三日目のカレーぐらい煮詰まった。もう水分も飛んで、焦げる寸前だ。

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一年一年クリスマス

一年一年クリスマス

 今年の初クリスマスツリーを見た。初◯◯というのは正月にはよく言うけれど、年末も近くなっては珍しい。

 キラキラ輝くオーナメントを見ながら、つらつらと思う。我が家からクリスマスツリーが消えたのはいつ頃だったろうか。

 たしか姉が中学に上がったころはまだあった。その頃までは親が飾り付けも片付けもすませていたのだが、姉が中学生になったからということでクリスマスツリーの管理をすべて子供たち、私と姉と

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小雨の日に

「溝口さんって冷たいよね」

掃除の時間、ホウキを手にお喋りしてサボってる二人がヒソヒソ言っていた。

丸聞こえなんですけど。

そう思いながら彼女たちの後ろを通りすぎた私の視線は、間違いなく冷たかっただろう。

私が冷たい? そんなこと、私が一番知っている。

中学受験をして私立の女子校に入った。

公立の中学校に行くと、今と同じメンツと顔を会わせ続けることになる。

女子はまだいい。でも、男子

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子宮なんかいらない

子宮なんかいらない

①生理のやつの不公平人生は不公平だな、とずっと思っていたことがあります。

生理です。

男性に生理がないというのはどこかの神様が決めたことなんだろうから仕方ない。 女性みんなの悩みのタネ、ガマンしかない、耐えるしかないと思っていた10代初め。 初潮から、私の生理は重かった。 PMSと今は言うのか、腹痛、頭痛、吐き気は当たり前。 精神的に不安定になるし、普通の生理用品だとせき止められない大量の血。

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酒に酔って生きて死にたい

酒に酔って生きて死にたい

①理想の死にざま酒が好きだ。 とにかく酒を飲んでいれば幸せだ。 これを書いている今も酒を飲んでいる。 ハイボールだ。 しゅわしゅわする酒のなかで一番飲みやすい。 長時間ずっと飲んでいられる。とてもいい。 現在、時刻は17時33分。これから22時までが飲酒時間だ。 ちなみに、一番好きな酒は日本酒。高価だからあまり飲めないが。

できることなら朝から飲みたい。 しかし、それはさすがにおテントウさまに悪

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