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ペライチ小説

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「A4用紙」一枚のことを時に『ペライチ』と呼びます。 そんな『ペライチ』に収められた短いお話です。
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記事一覧

ペライチ小説~メガネを掛けたおじさん~

ペライチ小説~メガネを掛けたおじさん~

今SNS上で話題になっている写真がある。
それは心霊写真だ。
どんな具合かというとカップルが遊園地で楽しんでいる姿をスマホで自撮りをしたら、カップルの後ろにうっすら人が写ってしまっていた。
写っていたのはメガネを掛けたおじさん。
年の頃は50歳を少し超えたぐらい。くたびれたスーツを着ている。
特徴としては「冴えない」という言葉がぴったり当てはまる見た目をしている。
その表情は苦しそうで何かを伝えよ

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ペライチ小説~卒業試験~

ペライチ小説~卒業試験~

「久しぶり~」
昼食を食べに会社を出た所で突然そう声を掛けてきた男のことを僕は覚えていなかった。
男はきちんとした格好をしていたこともあり、自分よりも年上に見え、反射的に失礼があってはマズいと思い僕は覚えていないと言うことはできなかった。
『久しぶり~です~』
軽い口調で一言返しながら頭を下げ、男のことを下まで上までチラッと見渡したが、思い出すことはできない。
「会うのは5年ぶりぐらいかな~」
 

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ペライチ小説~~幼馴染と遭遇

ペライチ小説~~幼馴染と遭遇

偶然の出会いに驚きは付きものだ。
小学校から高校まで一緒の学校に通っていた幼馴染が突然目の前に現れた。
人生でいうと何度も会っているのに一瞬誰か分からなかったということは相当動揺していたんだと思う。
確かに高校を卒業してから15年以上経ち、会うのも10年ぶりぐらい。
体の成長から声の変わり方までずっと見てきた相手なのに記憶を遡っても彼に辿り着くことができなかった。
「おっう」と挨拶というか咄嗟に出

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ペライチ小説~感動の手紙~

ペライチ小説~感動の手紙~

結婚式はいよいよ佳境。
教会で誓いの儀式を終えた新郎新婦が大広間に移動して披露宴が行われている。
高校時代のクラスメイトが30歳を記念して行われた同窓会で再会し、その後結婚に至った2人ということでテーブルにはかつての友人や先生たちが顔を赤らめて着座している。
2人の今の主戦場である職場の同僚たちも数人列席しているが、高校時代の友人たちに対しては控えめにテーブルを囲んでいた。
「それでは新婦よりご両

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ペライチ小説~一言多いコンビニ~

ペライチ小説~一言多いコンビニ~

店員『いらっしゃいませ』
客「タバコ、121番下さい。1日2箱吸うので2つ」
店員『かしこまりました。お弁当は温めますか?』
客「温めて下さい。家まで少し距離があるので熱めで」
店員『箸はお付けしますか?』
客「ください。家にも当然箸はあるのですが、貰えるものは貰っておけっていうのがウチの家訓でして」
店員『袋はいりますか?』
客「ください。流石に素手でお弁当を持つと熱いし、袋は家のリビングでゴミ

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ペライチ小説~この男は地獄行き~

ペライチ小説~この男は地獄行き~

『なんで俺が地獄行きなんですか?』
『俺は良いことはそんなにしてないかもしれないですけど、悪いことも特にしていない平凡な男ですよ』
『俺が地獄行きって何かの手違いじゃないですか?』
 
必死に閻魔様に弁明しているこの男。もう地獄行きは決まっていて、覆ることはないのに納得がいかず粘りに粘っている。それもそのはず、普通の人生を普通に歩んできて、人様に顔向けできないことをした覚えのない極々普通のどこにで

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ペライチ小説~バスの運転手~

ペライチ小説~バスの運転手~

好きな光景がある。
見ると良い気分で一日を過ごせる光景と言ってもいい。
例えば「手を繋ぐおじいちゃんとおばあちゃん」
例えば「お天気雨の中の虹」
例えば「犬と戯れる猫」
 
そんないくつかある好きな光景の1つを久しぶりに目撃できた。
それは「バスがすれ違う時の運転手同士の挨拶」
この光景はバスで通勤や通学している人は頻繁に見掛ける光景だからそこまで嬉しい光景ではないのかもしれない。
 
私の様に自

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ペライチ小説~心優しい幽霊~

ペライチ小説~心優しい幽霊~

きょうこそ人間を怖がらせて見せる。
「恨めしいやぁ~~~」
低く、ゆっくり、長く、人間を一番怖がらせる言い方は教えてもらった。
そして地獄の底から出す様なイメージでやる。
何回も声出しの練習を繰り返し状態は仕上がっている。
 
私は幽霊歴3年の吉田。
人間を怖がらせることが上手くできず、周りの幽霊からはバカにされている。
きょうのターゲットは30代後半の男。すでに家には忍び込んでいて、後は主人の帰

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ペライチ小説〜美容院難民〜

ペライチ小説〜美容院難民〜

『今日はどういった髪型になさいますか?』
初めて入った美容院。鏡に映る私に向かって20代と思われる美容師は声を掛けてきた。

この美容院はネットで調べると新規客へのサービスが充実していた。
駅から徒歩3分。オープンしてから1ヶ月も経っていない新しいお店だ。
店内に入ると、オープンしたてということもあり、白い壁はコレでもかと眩しく光り輝き、天井から吊るされた照明も外国製のものを使っているのか、オシャ

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ペライチ小説~スーパー~

ペライチ小説~スーパー~

ここは大手スーパーの閉店後。
店内は主要な照明は落とされていて、営業中よりも少し薄暗くなっている。
店長が従業員全員に声を掛けフロアの広いスペースに集まってもらった。
都内でも有数の広さを誇るこのスーパー、店長を任されているのは将来を期待された立石という30代の男だった。
『きょうは疲れているところ集まってもらってありがとうございます』
 
立石はこれまで2つの店舗で店長を務めてきた。大きなお店で

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ペライチ小説~ワールドカップで世界もボールもひとつ~

ペライチ小説~ワールドカップで世界もボールもひとつ~

サッカーの世界最高峰の戦いが始まった。
各大陸予選を勝ち上がってきたチームが集まり一番強いサッカーチームを決める。
全世界が注目をする大会でオリンピックよりも視聴者数は多いと言われている。
 
しかし大問題が持ち上がった。
「ボールは1個しか使用を認めない」
SDGsの観点から環境に配慮し、1つのボールをみんなで使い分けようと話し合いで決まったらしい。
選手、監督、サポーターと様々なところから抗議

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ペライチ小説~カフェ~

ペライチ小説~カフェ~

郊外にある駅から歩いて5分のところにある大手チェーン店のカフェ。
先週派遣されてきた社員の方が突如来なくなってしまい本社から“また”新たな社員が送られてきた。
“また”というのは毎回我こそはという気概を持った社員が送られてくるのだが、すぐに辞めてしまい、今回で何人目なのか数えきれないぐらいだ。
過去最短の方はその日の朝に来て、夕方にはいなかった。
 
そんな中で私たちアルバイトの面々は踏ん張って店

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ペライチ小説~天獄~

ペライチ小説~天獄~

ここは<天獄>
天国と地獄の中間地点。エンマ大王が天国と地獄どちらに行かせるか悩み抜いたが決めることができず、行き場のない人たちが来るところ。
ここでは今エンマ大王がどっちに送るか判断を決めかねた人たち、つまり<天獄人>が数百人一緒に暮らしている。
 
結局どっちへ行くのか。
最終的に決めるのはココで生活をしている天獄人の投票制になっている。
ここで一緒に生活をしてみて相応しいのは天国と地獄どっち

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ペライチ小説~行けたら行くわ~

ペライチ小説~行けたら行くわ~

アイツとは小学校からの付き合いだから今年で知り合って約10年になる。
 
クラスが一緒になって、名前順で前と後ろだったことがキッカケで仲良くなった。
あいつはクラスでは明るく、ワイワイ盛り上がるタイプ。
俺もアイツと似ているところがあって、すぐに波長があった。クラスで人気のなかったアニメに2人ともがハマっていたことも要因の1つだったと今になって思い出す。
 
そんなアイツは放課後や休日になると、俺

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