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『わたし、定時で帰ります。』第6話 人は言われなきゃわからない

簡単なあらすじ(ネタバレ有り)

最初はすぐ「辞める」と言っていた新人の来栖は、とある美容室のサイトの案件を担当したいとやる気を見せると、ディレクターとして初めて仕事に臨むことになる。やる気を出した来栖は、種田に認めてもらったことを喜び、種田の服装などを真似するなど、憧れを抱いていた。

しかし新人ゆえの知識や経験不足により、頼り甲斐のない来栖の受け答えに不安を感じ、上司の種田に質問し、種田が対応する。ディレクターを任されて、認めてもらいたい来栖は、少しずつ不満を募らせていく。取引相手の美容室店長とのミーティングも、顧客のニーズに応えられず、的外れな発言をすることで、種田が割って入ると、店長は種田に質問するようになり、何も話せなくなり、黙り込んでしまう。
ミーティング後、愚痴を言って種田に叱られてしまうと、「種田さんには僕の気持ちなんてわからないですよ!」と走り去ってしまう。

今までのあらすじで触れてきませんでしたが、東山には情報収集したり、時折協力してもらっている愁という謎の青年がいた。今回その正体が明らかになり、上司の種田の弟だった。愁は仕事を辞めた後引きこもってしまい、ある日種田は弟を心配して実家に訪れる。早く社会復帰できるように、就職先を紹介するが、愁にとって優秀すぎる兄は重荷でしかなく、「兄さんに俺の気持ちなんてわからないよ!」と言われてしまう。来栖に厳しくしてしてしまったのも、愁とのことがあったからだった。

そんな種田に東山は、「らしくない」と提言する。愁と何かあったことを察しており、
翌日、朝一に出勤し、ミーティングの準備をする来栖がいた。スタッフは、また種田に話を聞こうとするが、種田は来栖から話すよう促すも、高度な質問に答えられず、また種田に集中してしまう。そこで来栖はついに「やってらんねぇ」と切れてしまい、種田に「種田さんは僕のこと信頼してないですよね。ってか、誰も信頼してないですよね。」などと暴言を吐いてしまう何も言い返さない種田は、ミーティングを終わらせて、その足で会社を出て行ってしまう。

塞ぎ込んだ来栖に、東山は「私たちは敵じゃない。チームだよ」と声をかける。今回の指導係としての東山の振る舞いは、完璧と言えるでしょう。
その日も定時で上がった東山は、種田が頭を冷やす時に行くと愁から聞いていた野球場へ行く。
そこで、種田なりの悩みを聞くが、東山はズケズケとはっきり言う。
「相変わらず上からですね。人のことなんて簡単にわかるはずないのに。皆種田さんに話しかけにくいんですよ。全然完璧じゃないのにね。」
そう言うと、
「思ったことはそのまんま言うのに言葉が足りないから誤解を招く」
「9個の良い事より1個の悪い事を指摘するしがち」
「几帳面そうに見えて意外と大雑把」
「励ましたつもりが返って傷つける」
「自分のやり方が通用しない人がいることを忘れがち」
「言いすぎたことは後からくよくよ悩む」

あまりの言われように、「言いたい放題だな。そこまで言われたら傷つくだろうが!」その言葉に、「あ、本音が言った。今みたいにさ、もっと弱いところ出していいんじゃない?たまには愚痴を吐いたっていいし。助けてやろうとかあんまり気負わないで、もっと気楽にやったら?」と、「気楽にって、お前みたいにか?」と笑い合う二人だった。

翌日来栖は、出勤してきた種田に、すぐに謝りに行く。いつもなら、流すように対応する種田だが、「本当だよ。あんなにボロクソ言われたのは、生まれて初めてだった。いいよ。まぁ、言われないとわからないから。」と、そのやりとりに社員は皆息を飲んでいたが、謝りに行った来栖にも、自分の感情を出した種田にも見入っていた。

そして、種田に独立の誘いがかかっていたが、その話を蹴ることにした。その理由は、東山が原因かもしれなかった・・・。


憧れるから嫉妬する

新人の来栖は、最初こそ「すぐ辞める」と言いだしていましたが、一つ乗り越えて、自分の手で仕事をしたいと言う、誰もが思う責任感が芽生え始めました。だからこそ、ディレクターを任せてくれた種田を尊敬し、「最初はマネでもいい。いつか自分のスタイルができるから」と、受けたアドバイスそのままに、見た目から種田のマネをし始めました。それは、憧れからそうなったのですが、仕事を進めていくにつれて、自分と上司の差をまざまざと突きつけられます。

新人だから、知識や経験不足なのは当然です。仕事まで同じようにはできません。自分の無力さと、種田がいい所を全部持っていくように見えて、自分が認められていないと感じ、嫉妬をしてしまったわけです。

この嫉妬は、悪いことでしょうか?

少なくとも、以前の来栖は、種田に対して1ミリも嫉妬することはありませんでした。しかし、同じ土俵で仕事をすることで、種田がどれだけ仕事ができるか、自分がどれだけできないかを知ります。これは大きな成長です。同じ土俵に立つこと、憧れていた存在との距離を自覚することで嫉妬するものです。同じ競技をしていたり、その道の近い人、自分に似ている人に嫉妬するものです。普通の人はイチローや羽生くんに嫉妬することはないはずです。しかし、目指す目標として見たときに、自分ができないことをできることが嫉妬を生みます。

嫉妬は決して悪くないことだと思います。嫉妬したことを受け入れ、その差を嘆くのではなく、認めることで、自分に足りないことを自覚でき、乗り越えるきっかけになるはずです。自分ができないことを認めることは簡単ではないですが、それを認めて受け入れる姿に、私は感動します。

また、新人である来栖がこんなに認められたいと思うのも、まだまだ仕事ができないからであり、仕事で認められていない。だからこそ認められたいと思うのです。「認められて欲しい」ということの裏に、「認められていない」というものがあります。自分が「認めてもらいたい」と思ってることほど、自分が向き合うポイントなのかもしれません。

結局、言われなければ伝わらない

落ち込んだ完璧男・種田は、できるが故に誰にも何も言われません。周りが自分をどう思っているか、自分も周りのことも、全然わかっていなかったのです。天才イチローが、昔は孤高の天才と言われているようでしたが、それは、他を寄せ付けないオーラを放ち、感情をあまり出さずに、まるで機械のようにプレーしていたからです。それが、WBCで苦境に追い込まれながらも、チームのリーダーとしてチームを励まし、最後には自分も結果を出した時、初めて弱音を晒し、素顔を垣間見せました。それからと言うもの、人間イチローの人気は、野球ファンのみならず、国民的スターになりました。

優秀な故に、周りから指摘されなかったり、格好悪い自分を見せられなかったりする種田ですが、自分のことを客観視することは、中々できないことですよね。やはり、誰かに言われないと、気付けないことがあります。何でもかんでもズケズケとは言わない方がいいでしょうけど、人格否定ではなく、信頼した上で意見を言うことは、とても大事なことです。それは時にお節介なことかもしれないですが、仮にそれで傷ついたとしても、必要なことなのではないでしょうか?まぁ、人は傷を負って治った方が、強くなりますし(^^;

マニュアルとオリジナル

完璧な人間はいないですが、完璧なように見えても、長所は短所になり得ます。そして、感情がなければ人間味が出ません。感動は記録によって生まれるものではなく、感情によって生まれます。種田は、自分らしさではない、上司という理想的な姿を演じていたに過ぎないのです。

あるべき姿を演じたり、自分ではない誰かが理想とする姿を目指すのも悪くはないかもしれませんが、それは「マニュアル」と言えるかもしれません。「マニュアル」は誰でも一定の成果を出せる為にありますが、自分らしさや、自分の素直な感情を出す方が、人間らしくて、本当の感動が生まれるんだと思います。何より、「マニュアル」によって言われた通りに生きたって、自分が感じる本当の幸せはないのではないでしょうか。

今回は来栖と種田の姿から、「人間の本質」を垣間見たような回ではなかったかと思います。常識やマニュアルもいいですが、本当に大事なのは、「自分の本心」です。時にはマニュアルや人の力を借りながらも、最後は自分の気持ちを第一に、物事を判断していきたいものですね。

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