シェア
星時雨
2023年12月8日 20:01
白鍵と黒鍵とそれらがずらりと並ぶ八十八の玉座そして沈んだ鍵(けん)の窪みから人の姿に似た木が芽吹くピアノから生まれた木は母なるピアノに還るべく八十八の玉座を尋ねるその軌跡を律とし隠されたパターンを解き明かした時かの扉が開くのだそして浮かんだ鍵(けん)の頂から人の姿に似た木が還っていく私の耳に残った響きはその生命の旅路私の心に残った響きはその生命の循環
2023年12月22日 18:00
堰き止められなかったものが言葉になってこぼれて滝のように勢いよく放水されていくお日様の機嫌が良ければ虹がかかるかもしれない放物線は嬉しそうその華やかさとは反対にしずかでふかくておおきくて言葉にできなかった今は何者でもないものたちがまだかまだかと外の世界を待ってこのダムの裏側でたっぷりとためられていくぼくのすみかだったばしょはとうのむかしにそいつらの
2023年12月7日 18:00
かつて“祈り”は生き物だった苦難に藻掻く人々の前に現れては奇跡を振り撒き邪気を退け傷を癒やしたしかしある時人びとは“祈り”の力を求め締め上げ血を抜き身を洗い毛を炙り皮を剥ぎ腹を裂き腸を啜り斧で断ち肉を切り鍋で茹で喰らった“祈り”の力を得たと言う人達は崇められ大病が流行ると呆気なく死んでしまった奇跡はこの苦しみは私たちの命は残された人々は血眼で
2023年12月6日 18:00
あの地平線をひっくり返せば空は海になるのかな音の波に乗れば色の波に飛び移れるのかな影を捲ればそこに光はあるのかな“嫌い”をなぞっていけばいつか“好き”に辿り着けるのかな表を捲れば裏があり裏を返せば表があり元々2つは1つだったのかもしれないねそうして僕は粗雑に捨てられた“嫌い”という感情を指の腹でそっと撫でた−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
2023年12月17日 21:20
僕の世界の裏側で見えない恐怖と闘っている君の言葉の端から滲んだ不安大丈夫だよって言う口元が見えない涙で濡れていた当たり前のように訪れる未来も静かに過ぎ去る季節も悲しみと混ざって色褪せてしまうのなら僕と一緒に鮮やかな炎で燃やしてしまおう愛してるの言葉なんかじゃすぐに無くなってしまうでしょ他愛のない会話も肩を寄せ合った沈黙も二人過ごした時間の全部を焚べて消えない炎に
2023年11月10日 23:09
『夜の抱擁』静寂が月明かりを借りて現れる。眩しすぎないように雲がそっとカーテンをおろす。 空気が休んでいる。遠くの喧騒も木の葉の揺れる音も、全て闇夜に包まれてしまう。うっすら浮かぶ、木々の黒い輪郭。一歩踏み出すだけで崩れ落ちてしまいそうな、やさしい地面。ぽっかり空いた真っ暗なポケットに、僕は飛び込む。無口な夜が静かに僕の髪を撫で、頬を撫で、肩を抱く。このまま夜に抱かれて眠っ