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詩集

43
私の紡いだ言葉たち。 全部のせ。
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#私の作品紹介

【詩】ピアノの木

【詩】ピアノの木

白鍵と
黒鍵と
それらがずらりと並ぶ八十八の玉座

そして
沈んだ鍵(けん)の窪みから
人の姿に似た木が芽吹く

ピアノから生まれた木は
母なるピアノに還るべく
八十八の玉座を尋ねる

その軌跡を律とし
隠されたパターンを解き明かした時
かの扉が開くのだ

そして
浮かんだ鍵(けん)の頂から
人の姿に似た木が還っていく

私の耳に残った響きは
その生命の旅路
私の心に残った響きは
その生命の循環

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【詩】ダム

【詩】ダム

堰き止められなかったものが
言葉になってこぼれて
滝のように
勢いよく放水されていく

お日様の機嫌が良ければ
虹がかかるかもしれない
放物線は嬉しそう

その華やかさとは反対に
しずかで
ふかくて
おおきくて
言葉にできなかった
今は何者でもないものたちが

まだかまだかと
外の世界を待って
このダムの裏側で
たっぷりと
ためられていく

ぼくのすみか
だったばしょは
とうのむかしに
そいつらの

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【詩】“祈り”

【詩】“祈り”

かつて“祈り”は生き物だった
苦難に藻掻く人々の前に現れては
奇跡を振り撒き
邪気を退け
傷を癒やした

しかしある時
人びとは
“祈り”の
力を求め
締め上げ
血を抜き
身を洗い
毛を炙り
皮を剥ぎ
腹を裂き
腸を啜り
斧で断ち
肉を切り
鍋で茹で
喰らった

“祈り”の力を得たと言う人達は崇められ
大病が流行ると呆気なく死んでしまった

奇跡は
この苦しみは
私たちの命は
残された人々は血眼で

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【詩】うらおもて

【詩】うらおもて

あの地平線をひっくり返せば
空は海になるのかな

音の波に乗れば
色の波に飛び移れるのかな

影を捲れば
そこに光はあるのかな

“嫌い”をなぞっていけば
いつか“好き”に辿り着けるのかな

表を捲れば裏があり
裏を返せば表があり
元々2つは1つだったのかもしれないね

そうして僕は
粗雑に捨てられた“嫌い”という感情を
指の腹でそっと撫でた

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【歌詞】燈火(ともしび)【詩】

【歌詞】燈火(ともしび)【詩】

僕の世界の裏側で
見えない恐怖と闘っている君の
言葉の端から滲んだ不安
大丈夫だよって言う口元が
見えない涙で濡れていた

当たり前のように訪れる未来も
静かに過ぎ去る季節も
悲しみと混ざって
色褪せてしまうのなら
僕と一緒に
鮮やかな炎で燃やしてしまおう

愛してるの言葉なんかじゃ
すぐに無くなってしまうでしょ
他愛のない会話も
肩を寄せ合った沈黙も
二人過ごした時間の全部を焚べて
消えない炎に

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【詩】 夜の抱擁

【詩】 夜の抱擁

『夜の抱擁』

静寂が月明かりを借りて現れる。
眩しすぎないように雲がそっとカーテンをおろす。

空気が休んでいる。
遠くの喧騒も木の葉の揺れる音も、全て闇夜に包まれてしまう。
うっすら浮かぶ、木々の黒い輪郭。
一歩踏み出すだけで崩れ落ちてしまいそうな、やさしい地面。
ぽっかり空いた真っ暗なポケットに、僕は飛び込む。

無口な夜が静かに僕の髪を撫で、頬を撫で、肩を抱く。
このまま夜に抱かれて眠っ

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